21/03/15
「年金の繰下げ」は国民年金・厚生年金別々に可能も、年の差夫婦にはデメリット
公的な年金の大きな魅力は「生きている限り受け取れる」ことです。年を取って働けなくなったときには大きな安心となりますね。
その老後資金の柱である公的年金の受け取り始める時期は、基本は65歳からですが、実は60歳以降であれば好きな時から受け取り始めることができます。
今回は、66歳以降に遅らせて受け取り始める「繰下げ」について説明しましょう。
年金を早めてもらうのが繰上げ、遅らせるのが繰下げ
老齢年金の受け取り始めは、性別や生年月日、加入期間によって65歳より前や後から受給権が発生する方もありますが、基本的には65歳からです。その基本である65歳から受け取り始めることを「本来請求」といいます。
けれども希望すれば、65歳より前に受け取り始めることも、66歳より後からとすることもできます。早めることを「繰上げ請求」、遅らせることを「繰下げ請求」といいます。
繰上げした場合は本来請求より年金額が減り、繰下げした場合は増えます。その減額率や増額率は生涯変わらず、一度繰上げや繰下げ請求すると取り消すことはできません。繰上げ(早める)すると、本来の65歳より1カ月早めるごとに0.5%の減額率、繰下げ(遅らせる)すると1カ月0.7%の増額率となります。例えば、70歳から受け取ることにすれば、0.7%×60カ月で、42%増えた年金を一生涯受け取り続けることができます。
要するに、年金額は65歳より早めたら減る、遅らせたら増える、ということです。
基礎年金と厚生年金、繰上げは同時のみ、繰下げは別々でもOK!
老齢年金は2階建てといわれます。1階部分は20歳以上の人が必ず加入している「基礎(国民)年金」。2階部分は会社などで働いている人が加入している「厚生年金」です。
その基礎年金と厚生年金ですが、繰上げするときは必ず同時に請求しなければいけません。一方繰下げは、基礎年金と厚生年金を別々に受け取り始めることができます。
例えば、基礎年金は本来である65歳から受け取り始めるが、厚生年金は70歳からとすることや、厚生年金は68歳からで基礎年金は70歳からということも可能です。また、どちらも繰下げて同時に受け取り始めることもできます。
繰下げをして生涯受け取れる年金額を増やしたいとは思っているけれど、給料が下がってしまうから生活費が少し不安だという人は、どちらか一方だけ繰下げをして、一方は受け取り始めるという選択が可能ということです。
ただ、加給年金や振替加算が加算される人は、その加算される総額を知った上での検討が必要です。
加給年金と振替加算は繰下げしても増えない
老齢年金には一定の条件を満たすと、「加給年金」という加算がつく人がいます。加給年金は2階部分である厚生年金に対して加算されるものです。
同じように、一定の条件を満たすと「振替加算」という加算がつく人がいます。振替加算は1階部分である基礎年金に対して加算されるものです。
1人で加給年金も振替加算もどちらも加算されるということは制度上ありえません。どちらかの加算、もしくはどちらも加算されないかです。
繰下げを検討する上で注意しないといけないのが、この加給年金と振替加算です。
繰下げする目的は、年金額を増やすためという人がほとんどでしょう。確かに繰下げすれば年金は増えますが、増えるのはあくまでも基本額といわれる部分から在職老齢年金などによる調整額を引いた額に対してであって、この加算に対しての増額はないのです。
基本的には、配偶者加給年金は年金受給者65歳以降、配偶者65歳になるまでの間年間39万900円(令和2年度)です。もし配偶者が年下で年の差が5歳以上あり、受給者が70歳まで厚生年金の繰下げをすると、39万900円×5年間の約200万円が受け取れなくなってしまうことになります。
振替加算も同じように繰下げしても増えませんが、これから請求する人への加算額は少額なので影響は少ないです。また、昭和41年4月2日以降生まれの人は、この加算の対象にはならないので影響はありません。
まとめ
「いつから受け取るのが得ですか」という質問を受けることがありますが、損得で考えると寿命が何歳かを知るしかありません。何歳から一生涯いくらの年金があるといいかで考えるのがいいのではないでしょうか。
繰下げを検討することが向いている人は、今は働いて収入がある、蓄えを取り崩せば生活できる、けれども、将来は年金のみになってしまう人です。公的年金の大きな魅力は一生涯必ず受け取れることだからです。
ただし、加給年金が長期間加算される人は基礎年金のみの繰下げにするなど、厚生年金の繰下げは慎重に考えるべきでしょう。
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小野 みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。
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