23/01/08
年の差夫婦は「加給年金」「厚生年金を繰り下げる」どっちが得なのか
将来年金生活になったとき、もらえる年金だけでは生活できないかもしれないと心配する人は少なくありません。できるだけ年金額を増やすために繰り下げ受給を検討している人もいるでしょう。また、年下の妻がいる人は加給年金がもらえます。ただ、加給年金と繰り下げ受給の両方を利用することはできないと聞きます。そこで今回は、加給年金と繰り下げ受給のどちらを利用するのがお得なのか解説します。
繰り下げ受給をすると加給年金はもらえない!?
「加給年金」とは、厚生年金に20年以上加入していた夫が65歳になったとき、生計を維持する年下の妻が65歳になるまでの間にもらえるものです。年間約39万円(2022年(令和4年)4月からの額は38万8900円)が老齢厚生年金に加算されます。夫が受給要件を満たせば、妻が65歳になるまで毎年もらえるので、年金の家族手当や配偶者手当とも呼ばれています。
※「生計を維持する」とは、生計を共にし、年収850万円未満(所得655.5万円未満)であること。
加給年金は老齢厚生年金に加算されるものです。そのため、夫が老齢厚生年金を繰り下げ受給すると、繰り下げ待機期間は加給年金がもらえなくなります。もし加給年金をもらいたいのなら、老齢基礎年金のみを繰り下げ受給し、老齢厚生年金は65歳からもらうようにするとよいでしょう。
「繰り下げ受給」vs.「加給年金をもらう」ホントはどっちがお得なの?
年金のもらい方は人それぞれです。多くの人は65歳から年金を受給しますが、戦略的に年金をもらいたい人は、繰り下げ受給で年金額を増やそうと考えるのではないでしょうか。
老齢厚生年金を繰り下げ受給すると、加給年金がもらえなくなるとお伝えしました。ここで気になるのは、「加給年金をもらわず年金を繰り下げ受給する場合」と「年金を65歳からもらって加給年金もしっかりもらう場合」のどちらがお得になるかということです。
そこで、年の差夫婦の夫が「老齢厚生年金を70歳から繰り下げ受給する場合」と「年金は65歳からもらい加給年金も受け取る場合」という2つのケースで、年金の損益分岐点が何年になるのか調べてみました。
●年金を繰り下げ受給した場合の損益分岐点は?
年金を繰り下げ受給した場合、65歳から受給した年金額よりもお得になるまでに何年かかるか(損益分岐点)を調べてみたところ、約12年という結果が出ました。
<損益分岐点の計算>
65歳からもらう年金額を「100」とします。
繰り下げ受給では1カ月の増額率が0.7%になるので、70歳まで5年繰り下げると増額率は42%となります。
100×42%=42(70歳からの繰り下げ受給で増額する年金額)
(100×5年)÷42≒11.9年 (←わかりやすくするため「12年」とします)
実は、年金の損益分岐点は何歳から繰り下げ受給しても11.9年という結果になります。目安として、受給開始年齢に12年をプラスした年齢になれば繰り下げ受給した方がお得になると覚えておいてくださいね。
●加給年金を考慮した年金の損益分岐点は?
筆者作成
表は妻との年齢差(1歳~10歳)ごとの加給年金総額と、70歳から老齢厚生年金を繰り下げ受給して加給年金をもらわなかった場合、加給年金分を年金で取り戻す損益分岐点を表したものです。
加給年金は38万8900円(令和4年4月~)ですから、たとえば年の差が3歳の夫は、総額116万6700円の加給年金(38万8900円×3年=116万6700円)をもらえます。
では、加給年金分を取り戻すときの損益分岐点を計算してみましょう。
ここでは、平均的な給与をもらっていた65歳の夫が標準的な年金として下記の年金額をもらうものと仮定します。
・老齢基礎年金 月額6万5000円
・老齢厚生年金 月額9万円
(老齢年金額 計15万5000円)
・夫婦の年齢差:3歳差
老齢厚生年金を65歳からもらうときの年金額(年額)は、
9万円×12カ月=108万円
老齢厚生年金を70歳まで繰り下げるときの年金額(年額)は、
9万円×1.42×12カ月=153万3600円
70歳からの繰り下げ受給で増額する分は、
153万3600円-108万円=45万3600円(年間)
このとき加給年金分を取り戻す損益分岐点は、
116万6700円(3年分の加給年金)÷45万3600円=2.57年
つまり70歳から繰り下げ受給したとき、もらえなかった加給年金分を取り戻せるのは2.57年後ということです。
これに年金の損益分岐点をプラスすると、65歳からの年金額に加給年金分を加えた金額を取り戻せる損益分岐点を求めることができます。
2.57年+12年=14.57年
これを年齢に換算すると、70歳+14.57年=84.57歳
つまり、年の差が3歳の夫婦は、70歳から繰り下げ受給をして84歳か85歳になれば、加給年金をもらう場合よりも年金額が上回るということです。
厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の男性の平均寿命は81.47歳、女性の平均寿命は87.57歳でした。ここでわかることは、加給年金分を取り戻せる年齢が平均寿命よりもはるかに高くなると、場合によっては年金額がお得になる前に亡くなるケースもあるということです。
この視点で表の「老齢厚生年金+加給年金分を取り戻す損益分岐点」を見てみると、夫婦の年齢差が5歳以上になると女性の平均寿命に近い86歳や87歳以降にならないと年金+加給年金分を取り戻せないことがわかります。
平均寿命はあくまで平均で、人それぞれだとはいえ、年齢が90歳に近くなると自分がそこまで元気でいられるかどうかはわかりません。そう考えると、夫婦の年齢差が5歳を超えるときは、繰り下げ受給をするよりも、元気なうちに加給年金をもらったほうがお得で安心かもしれませんね。
まとめ
年金の繰り下げ受給を選択すると、繰り下げ待機期間中は加給年金がもらえなくなります。そのため、繰り下げ受給と加給年金のどちらかを選択することになりますが、選択のポイントは夫婦間の年齢差です。
年齢差が小さいほど、加給年金をもらわずに繰り下げ受給をして年金額を増やした方がお得になります。反対に、年の差が大きい夫婦は年金を65歳から受給して加給年金をもらった方がお得です。このとき加給年金と繰り下げ受給を選択するボーダーラインは5歳差でしょう。5歳以下なら繰り下げ受給、5歳を超えるなら加給年金を選択すれば、もらえる年金額がお得になるでしょう。加給年金を選ぶか、厚生年金の繰り下げを選ぶかのひとつの目安として、参考にしてくださいね。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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