22/12/19
加給年金200万円でも、もらわない方が得なのは本当か
公的年金には、知らないと損してしまうポイントがあります。加給年金もそのひとつ。もらえる場合でも届出が必要になりますが、場合によっては年金の繰り下げ受給をして、加入年金はもらわないほうが得になるケースもあります。
では、どのような場合に得になるのでしょうか。
加給年金は年金の「家族手当」
加給年金とは、厚生年金の加入期間が20年以上ある人が、65歳以上になって老齢厚生年金をもらうときに、扶養している65歳未満の配偶者や18歳までの子がいる場合に、上乗せでもらえる家族手当のようなものです。かんたんにいえば、年下の配偶者や子を養っているときにもらえるお金です。
加給年金の金額は、年金をもらう人の生年月日によって違いがありますが、1943年4月1日以後に生まれた配偶者の場合、年額38万8900円。子は2人目まで年22万3800円、3人目以降は年7万4600円です(2022年度)。
たとえば、65歳の夫に5歳年下の専業主婦の妻がいたら、夫の厚生年金に38万8900円プラスされ、妻が65歳になるまでもらえます。38万8900円の5年分は194万4500円。約200万円にもなりますから、もらわないと損になりそうです。
●夫がもらえる年金のイメージ①
筆者作成
加給年金は厚生年金とセットになっています。つまり、厚生年金をもらっていない人は加給年金ももらえません。
ですから、たとえば70歳まで年金受け取りを繰り下げると、加給年金ももらえなくなります。
●夫がもらえる年金のイメージ②
筆者作成
繰り下げ受給のほうがおトク?
しかし年金は、繰り下げ受給をすると金額が増えることを思い出してください。
繰り下げ受給は、1か月あたり0.7%増額になり、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%も増えるのです。
たとえば老齢厚生年金を月11万円(=年132万円)もらえる人が、70歳まで繰り下げ受給した場合、加給年金がもらえないかわりに42%増で187万4400円もらえるので、年約55万円も増額になります。
65~70歳までの年38万8900円(5年間で約200万円)か、70歳から一生涯、年55万円か、悩ましいですね。
寿命は誰にもわかりませんが、この場合単純計算で85歳以上長生きすれば、加給年金をもらうよりも厚生年金を繰り下げたほうが得になります。
実際に計算して確かめてみましょう。
繰り下げ受給をせず、加給年金と厚生年金を65歳からもらった場合、年金をもらい始める時期が早いので、累計額ははじめのうちは繰り下げ受給よりも上回っています。しかし、85歳になると累計額は逆転して、繰り下げ受給の累計額が上回ります。
●「加給年金+65歳から厚生年金」と「70歳まで繰り下げて厚生年金」の比較
【妻が夫の5歳年下の場合】
筆者作成
年金額は一生涯変わりませんので、長生きするなら繰り下げ受給にしたほうがいいかもしれませんね。
ただし、このシミュレーションは、妻が夫より5歳年下だった場合です。加給年金は、妻が65歳になるまでもらえますから、歳の差があればその分加給年金をもらえる年数も増えます。つまり、10歳年下であれば、妻が65歳になるまでの10年間、加給年金がもらえるということ。
すると、「加給年金+65歳から厚生年金」でもらえる加給年金の累計は、90歳になるまで「70歳まで繰り下げて厚生年金」を下回りません。
【妻が夫の10歳年下の場合】
筆者作成
【妻が夫の15歳年下の場合】
筆者作成
さらに、妻が夫より15歳年下なら累計額の逆転は92歳です。
もっとも、もらえる年金の累計額で考えると、90歳以上の長生きをするなら「繰り下げて70歳から厚生年金」がお得なのですが、まだまだ元気な60代、70代でお金を使いたいなら、歳の差が大きいほど「加給年金+65歳から厚生年金」がお得だと言えそうです。もちろん、80代、90代でお元気な方はたくさんいるので、なかなか一概には言えないのが悩ましいところです。
結局どうしたらお得なのか
年金のもらい方によって、もらえる金額に違いがありますが、未来は不確定であることも事実。年金のもらい方を考えるときには、累計額ではなく1年間にもらえる金額から見ることもできます。その年齢になったらどんな暮らしをしていたいか、それにはいくらの収入があるといいのか、そんなことから考えてみてはいかがでしょうか。
加給年金の金額は随時見直されており、2022年度の金額は2021年度よりも減額されています。2022年度の前年比の減額幅は年1600円ですが、それでも昨今の少子高齢化社会を背景に、じわじわと減額していくのではないかと考えられます。
あまり前もってもらい方の方針を決めてしまうのではなく、年金を実際にもらえる時期(50代後半ごろ)が近づいてきてから、具体的に何通りかのシミュレーションしてみることをお勧めします。
なぜなら、家族の状況や仕事、健康状態などによって、必要になる金額は異なるからです。75歳まで健康でバリバリ働けることを前提に考えても、あるいは65歳になったら年金生活をのんびり楽しもうと思っていても、実際には思いどおりにいかないこともあるでしょう。
年金のもらい方を有利にするためには、選択肢をできるだけ多く持つことが肝心です。
健康に留意し、望めば仕事ができる環境を作っておきたいものです。
また、加給年金をもらったり繰り下げ受給をしたりをすれば年金額がアップしますが。そうすると税金や社会保険料もアップします。収支ともに考える必要があることに注意してください。
加給年金も欲しいし、繰り下げの恩恵も受けたいなら
そうはいっても、やっぱり加給年金が欲しい、繰り下げ受給のメリットも捨てがたい、という場合には、基礎年金だけ繰り下げる方法もあります。公的年金は、基礎年金・厚生年金の両方とも繰り下げることもできますが、どちらか一方だけを繰り下げることもできるのです。
●夫がもらう年金のイメージ③
加給年金は厚生年金とセットですから、加給年金をもらうために厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金は繰り下げることもできます。このようにすると加給年金はもらえて、老齢基礎年金は繰り下げることで増額のメリットを得られます。
また、年金も収入になるので、金額によっては所得税や社会保険料も変わってきます。
収入が多いと、医療費や介護費の自己負担額の上限が上がる場合もあるので、慎重に判断しましょう。
夫婦同い年なら加給年金はもらえない
加給年金は、65歳になって厚生年金をもらえるようになった人に、扶養されている65歳未満の配偶者がいる場合にもらえます。
すなわち、夫婦同い年であれば、一緒に65歳になるのでもらえないことになります。
また、夫が厚生年金をもらえるようになった時、夫に扶養されている妻がすでに65歳を過ぎている場合はもらえません。
なんだか、年下妻の優遇のように思えてしまいそうですが、65歳になったら自分自身の老齢年金を受け取れますので、夫の年金で加給年金をもらわなくとも大丈夫…ということなのでしょう。
生年月日が1966年4月1日以前の妻であれば、夫の年金に加給年金が上乗せされなくても、夫が65歳になって厚生年金を受け取れるなどの条件を満たせば、振替加算を受け取れます。振替加算もまた、申請手続きが必要です。
自営業で国民年金の人も加給年金はもらえない
加給年金は厚生年金の家族手当のようなものなので、基本的には会社員や公務員が受け取れるもの。自営業などの国民年金だけの人は受け取れません。
しかし、もともと会社員だった人が独立開業したケースなど、厚生年金を受け取れる場合もあります。
加給年金は申請手続きが必要ですので、忘れずに手続きをしましょう。
まとめ
加給年金はねんきん定期便には載っていません。ねんきん定期便は、あくまで個人の加入状況をもとに計算しているので、加給年金の対象になる配偶者がいるかどうかまでは反映されていないのです。加給年金を厚生年金に加算して受け取るためには、届出が必要です。
安心の老後のためには、公的年金は欠かせません。
しっかり賢く受け取るために、情報収集をしておきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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