22/11/12
年金受給者「確定申告不要制度」でも住民税の申告が必要なのは本当か
毎年、確定申告の時期が訪れると、申告書の作成や提出の手続きが面倒だなと思う方は多いのではないでしょうか。年金受給者の方は、会社勤めの頃と違って、自分で申告手続きを行わなければなりませんが、一定の条件を満たしていれば、確定申告をする必要がなくなる「確定申告不要制度」も存在します。しかし、中には確定申告不要制度の対象でも、住民税の申告が必要な場合もあります。
今回は、確定申告不要制度の対象者と確定申告したほうがいい場合、住民税に関する手続きが必要な場合についてくわしく解説します。
年金受給者のための確定申告不要制度とは?
確定申告不要制度とは文字どおり、年金受給者の確定申告が不要になる制度です。年金は税務上「雑所得」という扱いとなり、所得税の課税対象となります。そのため、本来であればその年の1月1日から12月31日までにもらった年金の総額を計算し、確定申告をおこない所得税を納める必要があります。
ただし、公的年金も原則として源泉徴収の対象となっているため、確定申告は所得税の納付金額の過不足を精算することが主な目的といえます。しかし、収入のほぼすべてが年金という人にとって、確定申告をおこなうのは負担に感じてしまいます。そこで、一定の条件を満たした場合に確定申告を不要としているのです。
●確定申告不要制度の対象者
確定申告不要制度の対象となるのは、以下の2つの条件をともに満たす場合に限られます。
①公的年金等の収入金額(2か所以上ある場合は合計額)が400万円以下
②公的年金にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
①の「公的年金等」とは、国民年金や厚生年金、共済組合から支給を受ける老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、老齢共済年金)や確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金などを指します。
②の条件にある「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。
●年金受給者の確定申告不要制度のフローチャート
政府広報オンラインより
確定申告不要制度の対象者でも確定申告したほうがいい場合は?
確定申告不要制度の対象者に該当しても、確定申告したほうがよい場合があります。確定申告をすることで各種控除を受けることで、納めすぎた税金が返ってくる可能性があるからです。
以下、確定申告したほうがよい場合を具体例とともに解説します。
①年間の医療費が10万円を超えている
年間の医療費が10万円を超えている場合「医療費控除」によって還付金が戻る可能性があります。医療費控除を受けるためには病院で発行される領収書が必要なので、領収書は必ず保管しておきましょう。
またその年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額を超える医療費を支払った場合、医療費控除を受けられます。つまり、医療費が10万円を超えていなくても医療費控除が受けられる場合があります。
②住宅ローンを利用して住宅を購入した・リフォームした
住宅ローンを利用して住宅を購入した場合や、リフォームした場合の費用も控除対象です。住宅ローンを利用して一定の条件を満たす住宅を購入した場合は「住宅借入金等特別控除」の対象となり、最長13年にわたってローン残高の0.7%の控除を受けることが可能です。
③社会保険料を支払った
社会保険料を支払っている場合は「社会保険料控除」を受けられます。企業に勤務し給与所得がある場合には、社会保険料控除は年末調整で受けることができましたが、年金受給者の場合、年末調整を受けられません。そこで、社会保険料を支払っている場合には、確定申告によって控除分の税金を還付してもらう必要があります。なお、同一生計の親族の国民年金保険料を支払っている場合も、確定申告により社会保険料の追加控除が可能です。
④生命保険料を支払った
一部の生命保険契約を除いて、生命保険料を支払っている場合は「生命保険料控除」の対象です。2012年1月1日以後に締結した新契約と、2011年12月31日以前に締結した旧契約では取扱いが異なり、所得控除額は新契約が最大12万円、旧制度が最大10万円です。生命保険料控除のための新契約と旧契約のそれぞれで複数契約を支払っている場合には、控除額の上限は4万円または5万円のいずれかを選択できます。
⑤配偶者と離婚もしくは死別した
結婚していた人が、その年に配偶者と離婚したり死別したりして状況が変わった場合にも、確定申告によって還付金が得られる場合があります。なぜなら、夫婦が離婚や死別すると「寡婦控除」「ひとり親控除」の対象になる場合があるためです。このように婚姻関係に変化があった場合には、控除額が増えて還付金が発生する可能性があるため、忘れずに申告しましょう。
⑥災害や盗難にあった
その年に自身や扶養家族が地震や台風、水害など災害の被害に遭った場合、その復旧には費用がかかってしまいます。この費用は「災害関連支出」といい、被災者に発行される罹災証明があれば「雑損控除」という控除を適用することが可能です。雑損控除として認められるためには、罹災証明と共に災害関連支出に該当する領収書を提出する必要があります。
また強盗などの盗難被害にあった場合にも、盗難届を提出することで買い戻しに必要な費用や発生した損害を復旧するための費用が控除されます。この時も、復旧に要した支出の領収書は取っておきましょう。
⑦ふるさと納税など寄附を行なった
ふるさと納税(都道府県・市区町村に対する寄附)や国、日本赤十字社などへの寄附を行なった場合「寄附金控除」を受けられます。控除できる金額は寄附金額から2,000円を引いた額で、所得金額の40%相当が限度です。なお、ふるさと納税に関しては、2015年以降創設された「ワンストップ特例制度」により、寄附先が5自治体以内であれば確定申告をせずに寄附金控除を受けることも可能となっています。
住民税に関する手続きはどうなる?
所得税の確定申告をした方は、自治体(各市町村)は税務署から送られる情報をもとに住民税を決定するため、改めて住民税の申告書を提出する必要はありません。
注意したいのは、確定申告不要制度により確定申告はしなかった方です。よくある勘違いに「確定申告不要制度の対象となったため、住民税についても申告不要」と考えている方が多いのですが、これは大きな誤解です。確定申告不要制度はあくまでも「所得税及び復興特別所得税」の申告について不要としているだけであり、住民税の確定申告は不要とはならないからです。例えば、以下に該当する方は住民税の申告が必要となります。
①公的年金などに係る雑所得のみがある方で、「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除(社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除、基礎控除等)以外の各種控除の適用を受ける場合
「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除以外の各種控除とは、生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除などを指します。
ここであれ?と思う方もいると思います。生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除を受けたいなら確定申告するのではないかと感じるでしょう。確かに住民税の算出方法は「住民税の課税所得=所得金額-所得控除額」となっており、所得税と同じです。しかし、同じ名称の項目の控除でも所得税と住民税では控除額が異なります。そのため、所得税及び復興特別所得税が0円になったときでも、住民税がかかることがあるので、「所得税は申告しないけど、住民税は還付を受けたい」という方が一定数存在します。
②公的年金などに係る雑所得以外の所得がある場合
公的年金等に係る雑所得以外の所得とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。所得税では20万円以内であれば申告不要だったのに対し、住民税では、金額の多寡にかかわらず申告が必要となります。つまり、1円でもこのような所得が発生すれば、住民税の申告が必要となるのです。なぜなら、自治体(各市町村)は確定申告がなされなかった場合には、その年度の源泉徴収票に基づき住民税を算出しますが、源泉徴収票に載ってこないこれらの金額が発生すれば、住民税額の再計算が必要になるためです。
住民税の確定申告は、所得税の確定申告と同様に毎年2月16日~3月15日までとなっています。
申告に必要な資料は次の通りです。
・住民税申告書(各自治体のホームページでダウンロードできることが多い)
・マイナンバーカード
※マイナンバーカードが無い場合には、通知カード+身分証明書
・申告する年度の源泉徴収票
・各種控除を証明できる資料
住民税の確定申告書は市区町村ごとに少しずつ違うことがありますので、直接、区役所や市役所に行って用紙をもらってくるか、ホームページでダウンロードするとよいでしょう。申告手続きが不安な方は、申告に必要な資料を持っていき、その場で役所の担当者に確認しながら記入するのもよいでしょう。
まとめ
年金受給者の確定申告不要制度を紹介してきました。確定申告不要制度は大変便利な制度ですが、該当したとしても、確定申告をすることにより、税金が戻ってくる可能性があるため、控除を受けられるものがないかを確認することは大変重要です。また、確定申告が不要であっても住民税の申告については必要となる場合もあることに注意しましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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