21/09/25
退職金は一時金と分割で手取り額が全然違う! どちらで受け取るのがよいのか
退職金の受け取り方には、一時金でもらう方法と、年金形式で毎年払ってもらう方法があります。一時金と年金のどちらを選ぶかで、手取り額は変わります。大きなお金ですから、よく考えて受け取り方を決めましょう。今回は、退職金のおすすめの受け取り方について説明します。
一時金と年金で税金・社会保険料に違いがある
まず、退職金の受け取り方による税金及び社会保険料の違いを説明します。
(1) 退職金を一時金で受け取る場合
【税金】
受け取った一時金の金額から退職所得控除額(下の表参照)を差し引いた金額の2分の1が「退職所得」として課税対象です。退職所得は分離課税となり、他の所得とは区別して課税されます。
退職所得=(退職一時金-退職所得控除額)×1/2
●退職所得控除
【社会保険料】
退職後も会社の社会保険に加入する場合、保険料算定の基礎となる給与には退職金は含みません。退職後国民健康保険に加入する場合にも、退職所得は除外して保険料を計算します。どちらにしても、退職金を一時金でもらう場合には、社会保険料の負担は増えないことになります。
(2) 退職金を年金で受け取る場合
【税金】
退職金を年金で受け取ると「雑所得」となり、他の所得と合わせて総合課税されます。公的年金(国民年金・厚生年金)等と合わせて一定額までは公的年金等控除が受けられますが、控除額を超えた分は課税されます。
【社会保険料】
会社の社会保険加入なら、一時金の場合と同様、保険料に影響はありません。一方、国民健康保険加入の場合には、雑所得も含めた所得で保険料を計算することになるため、毎年受け取る年金額が保険料に影響します。
一時金と年金で手取り額はどう変わる?
勤続38年で退職金2000万円の会社員(東京都渋谷区在住、配偶者は無職)が、退職金を一時金でもらう場合と10年の年金払いでもらう場合を比較してみます。
なお、60歳から64歳までは再雇用制度により年収300万円(協会けんぽ加入)で働くものとし、年金払いの運用利率は年1.5%、公的年金は年間200万円とします。
一時金の場合、勤続38年の場合の退職所得控除額は
800万円+70万円×(38年-20年)=2060万円
となります。ですから、2000万円の退職金には税金は一切かからず、社会保険料の負担もないため、手取りは2000万円です。
これに対し、年金の場合には、運用中に額面金額が増える一方で、税金等の負担が発生します。
それぞれの69歳までの手取り額を試算すると、以下のようになります。
●一時金で受け取った場合
●年金で受け取った場合
筆者作成
一時金で受け取った場合の10年間の手取りの総額は4120万円。それに対して、年金で受け取った場合の総額は3975万円ですから、総額だけで比べると、一時金で受け取るほうが多くなることがわかります。
一時金と年金、どちらで受け取るのがいい?
多くの場合、退職金を分割して年金形式でもらうよりも、一時金でもらった方が、手取り額が多くなります。ただし、退職金の受け取り方は手取り額の多い少ないだけで決めない方がよいでしょう。
一般には、一時金でもらった方がいい人、年金でもらった方がいい人は、それぞれ次のようになります。
●一時金でもらった方がいい人
住宅ローンが残っている人は、一時金でもらって繰り上げ返済をするのがおすすめです。資産運用により増えるお金よりも、通常は繰り上げ返済で払わずにすむ利息の方が大きくなります。定年後は収入が減ることも多いので、借金を減らせば不安を軽減できます。
また、退職金の運用を会社や企業年金基金に任せておくのは不安、自分で運用したいという人も、一時金でもらった方がよいでしょう。
●年金でもらった方がいい人
まとまったお金があると使ってしまいそうな人は、年金形式で受け取った方が安心です。毎年一定額をもらった方が、お金の管理がしやすくなります。すぐに使う予定はないけれど自分で運用する自信がないという人も、会社等でそのまま運用してもらって年金で受け取った方がよいでしょう。
退職金の額も一律ではありませんが、公的年金や保有資産もそれぞれの人で違います。また、退職金は、一時金と年金を組み合わせて受け取れる場合もあります。退職金をどう受け取るかは、ライフスタイルや個々人の事情に合わせて決めるべきでしょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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