24/07/20
定額減税「二重取り」できる人がいるのは本当?条件は
2024年6月からスタートした定額減税は、税金が1人あたり4万円安くなる制度。すでに給与をもらい、所得税や住民税が減った(ゼロだった)ことを確認した人も多いでしょう。しかし、中には定額減税を「二重取り」できる人もいることがわかりました。単純計算で8万円お得なのですから、うらやましいですよね。
今回は、定額減税が二重取りできてしまう仕組みと、定額減税の二重取りができる条件をご紹介します。
定額減税の制度をおさらい
定額減税は、税額を一定額減額する減税の方法です。2024年6月からの定額減税では、1人あたり
・所得税:3万円
・住民税:1万円
の計4万円が減税されます。
定額減税の対象は、納税者本人とその扶養家族(いずれも居住者のみ)です。たとえば、夫婦2人世帯で、夫(妻)が妻(夫)を扶養している場合、この世帯では所得税6万円、住民税2万円の合計8万円の減税が受けられます。
ただし、年収2000万円超(厳密には「合計所得金額1805万円超(給与収入のみの場合、給与収入2000万円)」の富裕層は対象外です。
定額減税の減税方法は、所得税と住民税で異なります。具体的には、
・所得税…2024年6月から12月の7か月間にわたって減税
・住民税…2024年6月分は徴収せず、7月分から2025年5月分までの11か月間にわたって減税分を割り振って減税
となります。
もともと税額が4万円に満たない人や、扶養家族が多いために税金を全額引ききれない人もいます。そういう方は、定額減税の恩恵が少なくなってしまいそうですが、大丈夫です。定額減税で引き切れなかった分は「調整給付」といって、給付金としてもらえるからです。
調整給付は、1万円未満を切り上げて1万円単位で支給されます。たとえば、所得税の定額減税分が2万2000円引ききれなかったとしたら、3万円が支給される、という具合です。
定額減税「二重取り」になるのはどんなとき?
定額減税の二重取りは、配偶者(扶養者)に扶養されている人(被扶養者)がパートなどで働き、年収が100万円超103万円以下のときに発生します。
被扶養者は、年収100万円を超えると自分で住民税を払う必要が出てきます。また、年収103万円を超えると自分で所得税を払う必要が出てきます。したがって、定額減税の二重取りができる人は「住民税は自分で納めるが、所得税は自分で納めない人」です。
年収が100万円超103万円以下の被扶養者は、定額減税によって自分の税金から所得税3万円と住民税1万円を差し引くことができます。もっとも、税金から4万円差し引けないので、一部だけ減税をうけて、残りは調整給付で受け取ることになります。
さらにこの人は「被扶養者」、つまり扶養されていますので、扶養者の定額減税でも所得税と住民税の合計4万円、税金を差し引くことができます。
これを合計すると、
・扶養者…自分と被扶養者の分で8万円減税
・被扶養者…自分の分で4万円減税
となります。つまり、被扶養者は定額減税を2回受けている(二重取りできている)のです。
年収100万円超103万円以下とはずいぶん対象の範囲が狭いと思われるかもしれません。しかし、厚生労働省の資料によると、配偶者のいるパートのうち、就業調整している人の割合は男性10.6%、女性21.8%となっています。そして、就業調整の理由(複数回答)として、「所得税の非課税限度額を超えると税金を払わなければならないから」と答えている人が約半数にのぼります。
<就業調整の割合と理由(複数回答)>
厚生労働省「女性の就労の制約と指摘される制度等について」より(青線部は筆者)
実際にこの調査に回答した人がみな「103万円の壁」を超えないようにして、年収を100万円超103万円以下に抑えているかは、この資料からはわかりません。しかし、年収が一定額を超えると税金や社会保険料がかかる「年収の壁」を意識して、就業調整を行なっているパートの人は多くいます。103万円ぎりぎりに調整して、定額減税の二重取りができる人も、割と多いのではないでしょうか。
もしも定額減税が二重取りできたら、返金しないとだめ?
定額減税が二重取りできたとしても、気になるのは「返金しなければいけないのでは?」ということではないでしょうか。1人で2人分の定額減税を受けられるといったら、なんだか悪いことのように感じられてしまうかもしれません。
しかし、結論からいうと、返金の必要はありません。
2024年7月12日に行われた鈴木俊一財務大臣の記者会見において、定額減税の二重取りに関する質問が行われています。定額減税を二重取りした人は戸惑う一方で、それ以外の人からは不公平だという声が出ている…という質問に対して、大臣は次のように返答しています。
***
年収が100万円超103万円以下であるなど、一定の条件があてはまる配偶者につきましては、家計の中で主たる稼ぎ手である納税義務者の控除対象配偶者となる一方で、所得税とは異なり個人住民税所得割の納税義務者となることから、定額減税を重複して享受するケースが生じるということはご指摘のとおりでございます。
この例外的なケースを防ぐためには、例えば、源泉徴収義務者である企業や地方自治体が、全ての控除対象配偶者について、個人住民税所得割が課税されたかどうかの情報を網羅的に把握する必要があり、膨大な事務コストが発生することになります。
ご質問にありますように、定額減税について、減税が重複することについて不公平であるといったご指摘があることは承知をしておりますが、今回の定額減税については、公平性に配慮することはもちろん重要であるわけでございますが、同時に、一時的な措置であることから、減税の実施にご協力いただく企業や地方自治体の皆様の事務負担にも配慮することも重要であるとの考え方の下で進めていくこととしたことから、特段、重複を認めないといった考え方に立たなかったことにつきまして、国民の皆様にご理解をいただければと考えているところです。(後略)
***
財務省ウェブサイトより
要約すると
・定額減税の二重取りが生じるのは事実
・二重取りを防ぐには膨大な事務コストがかかる
・不公平は承知しているが、一時的な措置なので理解してほしい
というところです。したがって、二重取りしても返金する必要はありません。二重取りできた方はラッキーといえるかもしれませんね。ただ、せっかくのお金ですから、無駄遣いしないようにしたいものですね。
制度の不備は検証の余地があるのでは
パートなどで働き、年収100万円超103万円以下で、扶養されている人は、定額減税の二重取りができることを紹介しました。二重取りできても、お金を返金する必要はありません。
定額減税を巡っては「制度がわかりにくい」「会社の経理担当者の負担が大きい」「給付金でよかったのでは」などという声も聞かれました。それでも定額減税にこだわったことで、二重取りできてしまう人がいるという、制度の不備が明るみになった格好です。
果たして本当に定額減税がよかったのか、政府にはきちんとした検証をしていただきたいものです。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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