24/02/03
年金「月20万円」もらえる人の年収はいくら?
将来もらえる年金の額は、誰もが心配していることの1つです。年金の受給額には、私たちの年収が大きく関わっています。たとえば、老齢年金を月20万円もらえる人は年収がいくらか、気になりませんか?
そこで今回は、年金を月20万円もらう場合と、iDeCoで年金を補てんして月20万円をもらう場合、夫婦で月20万円もらう場合の年収を試算してみました。さらに、年収をアップする以外に年金額を増やせる方法もご紹介します。
年金を月20万円もらえる人の年収はいくら?
「老後は生活費がいくら必要になるの?」「年金はいくらもらえる?足りるの?」生活費や年金は多くの人が気になっているのではないでしょうか。
厚生労働省が公表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2022年度での老齢年金の受給権者平均年金月額は、14万3973円(老齢厚生年金+老齢基礎年金)という結果が出ています。また、生命保険文化センターが公表した「生活保障に関する調査/2022年度」によると、夫婦で老後生活を送るうえで最低日常生活費として必要な額は平均23.2万円(月額)という調査結果も出ています。夫婦で年金を合わせれば最低日常生活費の額は満たせるかもしれません。しかし、ゆとりのある老後生活を望むなら、年金だけでなく別途貯蓄などで備えておいたほうがよいでしょう。
そこで、月20万円の年金をもらうには、年収がいくら必要なのかを調べてみました。
<月20万円の年金・年収計算の基本的な条件>
・対象者は会社員、配偶者なし、扶養家族なし
・2003年4月以降に就職
・厚生年金保険の加入期間は40年(480月)になる見込みとして試算
・満額の老齢基礎年金を年額79万5000円とする→月額:6万6250円とする
・年金を月20万円もらう場合に必要な老齢厚生年金額:月額13万3750円→年額160.5万円
●老齢厚生年金額から年収を試算
平均標準報酬額(X)×5.481/1000×2003年4月以後の被保険者期間の月数480月=160.5万円
X×0.005481×480月=160.5万円
X≒61万円
・年金を月20万円もらうための年収
61万円×12ヵ月=732万円
試算の結果、年金を月20万円もらう場合の年収は、【約732万円】になることがわかりました。
国税庁が公表している「民間給与実態統計調査(2022年分)」によると、平均給与(年収)は458万円(男性563万円・女性314万円)という結果が出ています。また同調査によると、年収700万円超800万円以下の人は全体の4.8%で、年収800万円超の人は全体の10.9%という結果も出ています。約732万円前後の年収がある人はひと握りなのかもしれませんね。
月20万円の年金を実現するのにiDeCoを活用する場合の年収はいくら?
先ほどの試算で、年金を月額約20万円もらうには、約732万円の年収が必要になることがわかりました。では、それほど年収の高くない人は月20万円の年金を実現するのは無理なのでしょうか?
いえいえ、あきらめなくても大丈夫です。月20万円もらえる年収に届かなくても、年金を補てんできる制度や貯蓄を活用すればいいのです。
年金を補てんする方法の1つが「iDeCo(イデコ)」です。iDeCoは掛金全額が所得控除になり、運用益は非課税、受取時も税制優遇を受けることができます。年金の補てんに活用したい制度の1つといえます。
老齢基礎年金と老齢厚生年金にiDeCoの年金を加えて、合計で月20万円をもらう場合に必要となる年収の例を計算してみましょう。
<月20万円の年金・年収計算の基本的な条件>
・対象者は企業年金のない企業に勤める会社員、配偶者なし、扶養家族なし
・2003年4月以降に就職
・厚生年金保険の加入期間は40年になる見込みとして試算
・満額の老齢基礎年金を79万5000円とする→月額:6万6250円とする
・iDeCoに満額加入:掛金月額2万3000円→年額27万6000円
・iDeCoは年利3%で30年間運用:30年後に1,331万円になるとする
・iDeCoの年金は、60歳から20年間、年金方式でもらうものとする:月額約5万5500円
1,331万円÷20年=66万5500円
66万5500円÷12ヵ月≒5万5500円
・年金を月20万円もらう場合に必要な老齢厚生年金額:月額7万8250円
20万円-(5万5500円+6万6250円)=7万8250円
→年額93万9000円
●老齢厚生年金額から年収を試算
平均標準報酬額(X)×5.481/1000×2003年4月以後の被保険者機関の月数480月=93万9000円
X×0.005481×480月=93万9000円
X≒35万7000円
・年金を月20万円もらうための年収
35万7000円×12ヵ月=428.4万円
試算の結果、満額のiDeCoで補てんして年金を月20万円もらえる人の年収は、【約428.4万円】になることがわかりました。
国税庁の「民間給与実態統計調査(2022年分)」によると、平均給与(年収)は458万円。平均的な年収があれば、iDeCoを活用することで年収約732万円の人と同程度の年金収入に近づけることができるかもしれない、ということですね。
夫婦の年金を合わせて月20万円になる年収は?
ここでは夫婦の年金を合わせた場合、月20万円の年金をもらうために必要な年収を見てみましょう。
●夫は会社員、妻は夫の扶養に入っている家庭の場合
一家の働き手だけの年金で月20万円もらうには、試算の結果、年収が約732万円必要であることがわかりました。でも、夫婦の年金を合わせれば、年金を月20万円もらうための年収を下げられそうです。ではここで、夫が会社員、妻が夫の扶養に入っているパート妻の場合で試算してみましょう。
<基本的な条件>
【夫】
・会社員
・2003年4月以降に就職
・厚生年金保険の加入期間は40年
【妻】
・パート勤め
・勤め先は従業員数101人以上の企業
・月収88,000円未満
・年収106万円未満
・夫の扶養家族
【夫・妻】
老齢基礎年金は満額(年額79万5000円)→月額6万6250円
年金を月20万円もらうために必要な夫の老齢厚生年金額は以下のようになります。
20万円-(夫の老齢基礎年金6万6250円+妻の老齢基礎年金6万6250円)=6万7500円
・夫に必要な老齢厚生年金額:月額6万7500円→年額81万円
●老齢厚生年金額から年収を試算
年金を月20万円もらうのに必要な老齢厚生年金額は、年額81万円となっています。ここから目安となる月収を試算してみましょう。
平均標準報酬額(X)×5.481/1000×480月=81万円
X×0.005481×480月=81万円
X≒30万7882円 約30万8000円
年額約30万8000円×12ヵ月=369万6000円
試算の結果、妻を扶養している会社員の夫は年収が約370万円あれば、夫婦の年金を合わせると月20万円になることがわかりました。
夫1人の年金では、年収が約732万円必要になることを考えると、安定した老後生活を送るには、夫婦の年金を合算して生活費を工面するのがよさそうです。
また、妻が厚生年金に加入して働いている場合、妻も老齢厚生年金をもらえるので、年金月20万円は実現しやすくなります。また、妻がフルタイムで夫と同じように働いている場合、2人分の年金を合算すればさらに年金額を増やせるので、ゆとりのある老後生活を送れる可能性が高くなります。
●自営業世帯の場合
では、自営業の夫婦の場合はどうなるでしょうか?
自営業の場合、もらえる年金は老齢基礎年金のみとなります。
夫の老齢基礎年金79万5000円+妻の老齢基礎年金79万5000円=159万円
→月額13万2500円
仕事を続けている間は事業収入を確保できるので問題ないでしょう。しかし、生命保険文化センターが実施した調査によると、最低日常生活費として平均月額23.2万円が必要だという結果が出ています。それを考えると、仕事を辞めた後、もらえる年金が月額13万2500円では、生活が厳しくなりそうです。よって、もらえる年金額を考えると、自営業の場合は年金の他、国民年金基金やiDeCoなどの年金制度を活用して、老後資金を準備するのが必須となるでしょう。
●国民年金基金は公的年金制度
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなど国民年金の第1号被保険者の人が利用できる、老後資金を準備するための公的年金制度です。将来、老齢基礎年金に上乗せした年金をもらえます。また、国民年金基金の掛金は全額所得控除になるため、所得税や住民税を軽減することができます。将来もらう年金額を補てんするため、自営業の人は国民年金基金を活用することをおすすめします。
年金を補てんする制度を活用しよう
老後も安心して生活するためには、公的年金に頼るだけでなく、iDeCoなどを利用して年金の不足分を補うことを考えたほうがよいでしょう。また、iDeCoのほかにも、税制優遇が受けられる制度はあります。たとえば、少額投資非課税制度の「新NISA」を利用してもよいでしょう。
2024年1月からNISAが新しく生まれ変わりました。これまで非課税で投資できるのは、一般NISAは年間120万円まで、つみたてNISAは年間40万円までで、この2つを併用することはできませんでした。
その点、2024年からの新NISAでは成長投資枠は年間240万円まで、つみたて投資枠は年間120万円まで非課税で投資できます。また、非課税期間は無期限になり、生涯投資できる非課税保有限度額は1,800万円(うち、成長投資枠は1,200万円まで)で拡大しました。さらに、売却した分は翌年以降に再利用が可能になり、成長投資枠とつみたて投資枠は併用が可能です。
このように新NISAでは、これまでよりも自分の投資スタイルで続けられるようになったのではないでしょうか。将来もらう年金額を補てんするためにも、新NISAを老後資金の準備として活用するのもよいでしょう。
また、現在満55歳未満の人で、お勤めの会社が財形貯蓄を実施しているのであれば、貯蓄残高(※財形住宅貯蓄とあわせた残高)が550万円までは非課税になる「財形年金貯蓄」を利用する方法もあります。年金の補てんの方法は通常の預貯金や運用でもよいでしょう。大事なのは、何かしらの方法で年金の補てんを実行すること。そのためには、毎年送られてくる「ねんきん定期便」で自分は年金をいくらもらえる見込みなのかを確認することを忘れないようにしたいですね。
年収に関係なく老齢年金を増やす方法
老後生活で日常生活費として最低限必要だと思われる金額は23.2万円という調査結果がありましたが、公的年金だけで月20万円得るためには、かなりの年収が必要だということがわかりました。
けれども、年金額を増やす方法はまだまだあります。
●年金を増やす方法1:繰り下げ受給する
通常65歳からもらう年金の受給開始年齢を繰り下げることで年金を増やすことができます。その方法が、繰り下げ受給です。
繰り下げ受給は、66歳から75歳までの間で自分の希望するときまで受給を遅らせる方法です。年金の受給を1カ月遅らせると年金額を0.7%増額できます。もし70歳まで5年繰り下げると、年金額は42%増額、75歳まで繰り下げると84%増額できます。
繰り下げ受給では、受給を繰り下げている期間は無収入になるので、その間の生活費をどうするか考えておきたいです。また、もらえる年金額が増えると、その分税金や社会保険料も増えるので、繰り下げ期間はよく検討してから決めることをおすすめします。
●年金を増やす方法2:国民年金に任意加入する
国民年金に40年間加入すると、満額の老齢基礎年金をもらうことができます。けれども学生時代に学生納付特例制度を利用した場合や免除期間がある場合など、加入期間が40年に満たないこともあるでしょう。そんなときは、60歳~64歳の間に国民年金の任意加入制度を利用すれば、老齢基礎年金を満額に近づけることができます。
国民年金の任意加入制度の利用条件は、以下の通りです。
・日本に住む60歳以上65歳未満であること
・老齢基礎年金の繰り上げ受給をしていないこと
・国民年金の保険料納付月数が480月未満(40年未満)であること
・厚生年金保険に加入していないこと 等
国民年金の加入期間が40年未満であれば、利用を検討してみてもよいでしょう。
●年金を増やす方法3:国民年金の付加保険料を納める
自営業者や個人事業主など国民年金の加入者は、国民年金保険料に付加保険料(1カ月につき400円)を上乗せして払うと、老齢基礎年金に加えて「200円×付加保険料納付月数」の付加年金をもらうことができます。これは国民年金の任意加入をしている人も利用できるので、該当する場合は利用するとよいかもしれません。
ただし、国民年金保険料の全額免除や一部免除、納付猶予制度や学生納付特例制度を利用している人、あるいは国民年金基金に加入している人は、付加保険料を納めることができないので注意しましょう。
●年金を増やす方法4:厚生年金に加入して長く働く
老後の生活を安定させるため、長く働く人が増えています。厚生年金は70歳まで加入できるので、長く働き加入期間を増やすことで年金額を増やすことができます。今では、企業は70歳まで就業機会を確保することが努力義務になっており、2025年4月には65歳定年が義務化されます。今後は厚生年金の加入者は働く期間が長くなることが考えられます。また長く働けば収入も得られるので、家計は安定するでしょう。
ただ、誰もが自分の希望するライフプランがあるでしょう。そこで、日本年金機構から郵送されてくる「ねんきん定期便」で、もらえる年金がいくらくらいになるのか確認することをおすすめします。50歳以降のねんきん定期便には、60歳まで今の条件のまま加入して65歳から年金をもらうときの目安の金額が記載されています。ねんきん定期便をネットで確認できる「ねんきんネット」でも結構です。そのうえで年金を増やすために厚生年金に加入しながら働く期間を延ばすかどうかを考えるとよいでしょう。
年金「月20万円」は目指せる!
毎月20万円の年金をもらうには、1人の年金だけでは約732万円の年収が必要になります。また、iDeCoに加入して私的年金を上乗せしたり、夫婦の年金を合算したりすれば、20万円の年金を確保できる年収は下げられます。
また、年金を増やす方法は、年収を上げることだけではありません。年金を繰り下げ受給したり、厚生年金に加入して長く働いたりすれば年金額は増やせます。自営業者や個人事業主も国民年金保険料に付加保険料を上乗せすれば、付加年金をもらえます。また、満額の老齢基礎年金をもらえない人は国民年金に任意加入すれば、満額に近づけることが可能です。ぜひ自分に合った方法を検討してみてください。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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