23/12/24
年金受給者が確定申告した方がよい7つのケース
年金400万円以下の場合、原則、確定申告が不要です。でも、確定申告をした方がお得になるケースは意外と多くあります。老後に受け取る年金は「雑所得」として扱われ、所得税や住民税の課税対象となりますが、できるなら支払う税金を少なくしたいですよね?
今回は、年金受給者が確定申告をした方がよい7つのケースをお伝えします。
年金受給者でも所得税・住民税の支払いがある
老後に受け取る年金は「雑所得」として扱われ、所得税や住民税の課税対象となります。65歳未満で年金受給額が108万円超、65歳以上で年金受給額が158万円超の場合、年金から所得税があらかじめ源泉徴収されます。
ここで天引きされる所得税は、あくまで概算の金額です。もし税金を納め過ぎていれば、確定申告をすることでその分が還付されます。
医療費控除、セルフメディケーション税制、ふるさと納税など、控除制度を利用するには確定申告が必要です。
しかし、老後に毎年確定申告を行うのは、手間の負担が大きいものです。そのため国は、条件に合う人の確定申告を不要とする「確定申告不要制度」を用意しています。とはいっても、老後は医療費がかかりやすく、確定申告をしたほうがお得な場合が多いでしょう。自身の確定申告が必要かを判断しましょう。
<確定申告確認チャート>
著書「マンガと図解 定年前後のお金の教科書」(宝島社)より
年金受給者が確定申告した方がよい7つのケース
医療費控除、セルフメディケーション税制、ふるさと納税、損益通算・繰越控除といった控除制度を利用する場合は、確定申告が必要です。
また、再就職せずに会社に所属していないと年末調整を受けられないので、所得税が納めすぎの状態になっている場合に、確定申告で税金を取り戻す必要があります。
<確定申告をした方がよいケース>
著書「マンガと図解 定年前後のお金の教科書」(宝島社)より
●①医療費控除
医療費を年間10万円以上(所得が200万円未満の場合は所得の5%)支払った場合は医療費控除を受けられます。控除額の上限は年間200万円までです。
先進医療など、治療によっては上限額を超えることがあるでしょう。しかし、医療費控除は治療を受けた人だけではなく、「医療費を支払った人」が対象になる制度です。
夫婦や親族などで所得の高い人と手分けして医療費を負担すると、大幅に節税できます。医療費を負担してくれる家族がいない場合は、医療費の分割払いができないかを病院に相談してみましょう。
<高額医療費を医療費控除に賢く活用する方法>
著書「マンガと図解 定年前後のお金の教科書」(宝島社)より
医療費控除の対象は、毎年1月1日~12月31日に支払われた医療費です。分割によって年をまたいで支払いを行うと、医療費控除の申請を分けることができます。
ただし、この際クレジットカードの分割払いは避けましょう。クレジットカード会社が一括で医療費を支払ってしまい、全額その年分の医療費扱いになってしまうためです。
●②セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制とは、特定の市販薬を購入し、年間費用が1万2000円を超えた場合、その超過分(最大8万8000円)が控除対象になる医療費控除の特例制度です。
前述の医療費控除とどちらか一方の適用しか受けられません。申請の際には確定申告書とセルフメディケーション税制用の明細書を作成して提出する必要があります。
なお、医療品購入時や健康診断などの領収書は、税務署から提示や提出を求められる場合に備え、5年間保管しましょう。
●③ふるさと納税
ふるさと納税を活用すると、普段の買い物よりお得に商品を手に入れやすくなります。ふるさと納税とは、応援したい自治体にお金を寄付することで、実質2000円の負担で寄付先の自治体から返礼品を受け取れる制度です。寄付した分の金額が控除されます。自己負担2000円となる寄付金上限額は収入などによって異なります。
<年金収入世帯の早見表>
著書「マンガと図解 定年前後のお金の教科書」(宝島社)より
返礼品は、食材から生活家電、雑貨、宿泊券まで多くの種類があります。普段使いする日用品や日持ちする食品を返礼品として受け取ることで、日用品の支出を抑えることができます。
また、自治体によっては、返礼品として高級食材などの豪華商品を選べるケースがあります。日用品ではなく、たまのご褒美として高級肉のような豪華賞品を選ぶと、無理せず、暮らしを豊かにしながら節約することができます。
●④損益通算・繰越控除
「損益通算」とは、利益と損失を相殺することです。たとえば、2つの証券会社で株式投資を行い、一方で50万円の利益、もう一方で100万円の損失があったとします。このとき、確定申告を行い損益通算すれば、利益は0円になるため、税金がかからなくなります。
また、損益通算をしてもなお引ききれない損失は、翌年以降3年以内に生まれた利益と相殺することができます。これを「損失の繰越控除」といいます。
損益通算・損失の繰越控除は節税に役立つので、もし損失を抱えているなら忘れずに確定申告しておきましょう。ただし、繰越控除で3年間にわたって損失を繰り越したい場合は、ほかに確定申告することがなくても確定申告が必要です。
なお、NISAやiDeCoでの利益、損失は損益通算や繰越控除の対象外となりますので、注意してください。
●⑤生命保険料控除・地震保険料控除がある場合
生命保険料を払っているならば生命保険料控除、地震保険料を払っているならば地震保険料控除が適用できます。
生命保険料控除には、契約時期によって新制度と旧制度があり、受けられる控除の種類と上限額が異なります。
<新制度(2012年1月1日以降の契約)>
・一般生命保険料控除
・介護医療保険料控除
・個人年金保険料控除
所得税:各4万円・3種類合計12万円
住民税:各2.8万円・3種類合計7万円
<旧制度(2011年12月31日までの契約)>
・一般生命保険料控除
・個人年金保険料控除
所得税:各5万円・2種類合計10万円
住民税:各3.5万円・2種類合計7万円
また、地震保険料控除では所得税5万円、住民税2.5万円の控除が受けられます。いずれも、毎年10月〜11月ごろに届く控除証明書を確認して確定申告することで、税金が安くできます。
●⑥年の途中まで働き、年末調整を受けずに辞めた場合
定年退職したあとに再雇用されたり、同年内に再就職したりして、12月末まで勤めた場合は、勤務先が年末調整をしてくれます。しかし、年の途中で退職すると、年末調整が受けられません。この場合、所得税を納めすぎになっているケースがほとんどなので、確定申告をすることで還付が受けられます。
●⑦「扶養親族等申告書」を提出し忘れた場合
年金受給者が配偶者控除や扶養控除を受けるには、毎年9月ごろに郵送で届く「扶養親族等申告書」の提出が必要です。扶養親族等申告書を提出し忘れると、配偶者控除や扶養控除の適用のないまま税金が計算されてしまいます。確定申告をすることでこれらの控除の適用が受けられます。
支払い過ぎた税金は確定申告で確実に取り戻そう
年金受給者が確定申告した方がよい7つのケースを紹介してきました。もし、どれか1つでも該当するならば、確定申告をして税金を取り戻しましょう。
また、「これまで確定申告をしてなかった」という方も、5年以内であれば税金を還付してもらうための「還付申告」が可能。もし手続きしていないものがあれば、還付申告をすることで納めすぎた税金が戻ってきます。ぜひ確認して、手続きしましょう。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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