26/04/20
年金「211万円の壁」超えてしまうと手取りが大きく減る

パートやアルバイトで働く人にとっておなじみの「年収の壁」。これは一定の年収を超えると社会保険料の負担が増え、手取りが減ってしまうラインを指します。実は、年収の壁は65歳以上で年金を受け取っている夫婦世帯にも存在します。その代表的なラインが「211万円の壁」です。
211万円の壁を超えると、税金や社会保険料などの面でさまざまな変化が起こります。年金だけで暮らしている方にとって、見過ごせない大問題といえるでしょう。今回は、年金の年収の壁「211万円の壁」の正体と、超えたことで生じるデメリットを紹介します。
年金「211万円の壁」の計算方法
今回は「65歳以上の夫婦2人世帯で、ともに公的年金を受給している」という一般的なケースを前提にお話しします。
年金211万円の壁とは、簡単に言うと「住民税が非課税になるかどうかの分かれ道」です。年金収入がこのライン以下であれば、住民税がかからない「非課税世帯」として、さまざまな優遇を受けることができます。
公的年金の収入は「雑所得」として所得税・住民税がかかります。税金を計算するときには、老後に受け取る公的年金収入から、自営業者でいう経費に該当する「公的年金等控除」を差し引きます。
公的年金等控除の金額は、年金をもらう人の年齢や公的年金の収入金額によって区分されています。
<公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)>

国税庁のウェブサイトより
たとえば、65歳以上で年金収入が330万円未満の場合、公的年金等控除は一律110万円です。つまり、年金が年間110万円までなら、所得は「ゼロ」とみなされ、税金はかかりません。211万円の壁を紐解くには、この「110万円」に、次に説明する「非課税限度額」を足し合わせる必要があります。
●「非課税限度額」は家族構成で決まる
年金から110万円を引いた後の金額が、自治体の定める「非課税限度額」以下であれば、住民税はかかりません。その限度額は以下の計算式で求められます。
・扶養家族がいない場合:所得45万円以下
・扶養家族がいる場合:所得=(35万円 × 世帯人数)+ 31万円以下
夫婦2人世帯(本人+扶養配偶者)の場合、所得は101万円(35万円×2人+31万円)までなら非課税となります。ここに先ほどの控除額110万円を足すと、合計211万円。これが「211万円の壁」の根拠です。
●住んでいる地域(級地)による違いに注意
実は、この非課税限度額は全国一律ではありません。物価水準に合わせて「1級地・2級地・3級地」と分類されており、211万円という数字は最も物価が高い「1級地」の場合の目安です。
【1級地】
東京23区、横浜市、大阪市、名古屋市、京都市、神戸市、福岡市、札幌市などが該当
夫婦2人世帯の非課税ライン(目安)は「約211万円」
【2級地】
前橋市、静岡市、新潟市、長野市などの中核都市が該当
夫婦2人世帯の非課税ライン(目安)は「約202万円」
【3級地】
その他の都市(町村部など)が該当
夫婦2人世帯の非課税ライン(目安)は「約193万円」
このように、年金受給者の住民税非課税限度額の211万円は、お住いの地域により若干異なります。たとえば1級地にお住いの人の限度額は「211万円」ですが、2級地であれば限度額は「202万円」。3級地であれば限度額が「193万円」に変わりますので注意しましょう。
夫と妻どちらも住民税非課税になるには、夫の雑所得211万円以下、扶養される妻の雑所得は155万円以下であることが必要です。なお、性別は関係ないため、夫と妻の年金額が逆でも同様に考えます。
お住まいの地域がどこに分類されるかは、厚生労働省ホームページの「級地制度」で確認できます。都市部に行くほど壁が高く、地方ほど壁が低くなる傾向があるため、自分の住む地域の非課税ラインを正しく把握しておきましょう。
公的年金以外の「年金の収入」と聞くと、国民年金や厚生年金、共済年金などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際にはそれだけではありません。国民年金基金や厚生年金基金なども「公的年金等」として扱われ、同じ区分で合計されます。確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)や小規模企業共済についても、年金形式で受け取る場合には同じ区分で合計される点に注意が必要です。
このように、制度ごとに所得の区分が異なるため、思っていた以上に所得が増えるケースもあります。結果として、いわゆる「211万円の壁」を超えてしまう可能性もあります。自分がどの制度からどのように受け取っているのかを一度整理しておくことが大切です。
住民税非課税世帯になると健康保険料や介護保険料の負担が減る
年金収入が211万円の壁を超えないことで、住民税非課税世帯になった場合のメリットとしては、健康保険料や介護保険料の支払いが軽くなることが挙げられます。実際にどのくらい違うのか、2026年度の東京都江戸川区の例で試算してみましょう。
なお、以下は2人世帯・夫婦ともに収入は公的年金のみという前提で計算しています。
【夫67歳:211万円・妻67歳:110万円の場合】
・国民健康保険料(子ども・子育て支援金分含む):13万3492円
・介護保険料:8万5680円
・合計額:21万9172円
【夫67歳:212万円・妻67歳:110万円の場合】
・国民健康保険料(子ども・子育て支援金分含む):13万4586円
・介護保険料:16万1040円
・合計額:29万5626円

東京都江戸川区のウェブサイトより試算
上記のケースの違いは、「夫の年金が1万円多いかどうか」だけです。それにもかかわらず、支払う健康保険料・介護保険料の合計に1年間で約7.6万円もの差が出ています。特に介護保険料の負担が大きいですね。年金収入がわずかに増えただけで、逆に手取りが約7.6万円も減ってしまうのです。つまり、「211万円の壁」をうっかり超えてしまうと、大きな損をしてしまう可能性もあることがわかります。
なお、今回ご紹介した試算はあくまでも東京都江戸川区の場合です。お住まいの地域によって保険料の金額は異なりますので、詳しくはお近くの自治体窓口で確認してみてください。
住民税非課税世帯のメリット
住民税非課税世帯になると、他にもメリットがあります。
●高額療養費の自己負担が減る
年齢を重ねると、入院や手術などで高額な医療費がかかることもあるでしょう。そんなときに助けになるのが「高額療養費制度」です。この制度では、1ヶ月に支払った医療費が一定額を超えた場合、その超えた分があとから払い戻されます。つまり、「自己負担には上限がある」という仕組みです。「住民税非課税世帯」であれば、この自己負担の上限が低く設定されています。
たとえば、同じように10万円の医療費がかかったとしても、69歳以下の世帯で、現役並みの所得であれば、ひと月あたりの上限額は、5万7600円~8万100円が必要となりますが、住民税非課税世帯では3万5400円に設定されています。これより、住民税非課税世帯の方が戻ってくるお金(還付)が多くなります。
●高額介護サービス費の自己負担額が減る
年齢を重ねると、介護が必要になることがあります。介護 保険を使って、デイサービスや訪問介護などのサービスを利用する場合、多くの人がその費用の一部を自己負担しています。この介護サービスの自己負担額にも「上限」があります。これは「高額介護サービス費制度」といい、1ヶ月に支払った介護サービス費がその上限を超えた場合、超えた分があとから払い戻される制度です。
この場合も現役並み所得者に相当する方がいる世帯であれば、ひと月あたりの上限額は4万4400円。住民税非課税世帯であれば2万4600円と、自己負担の上限額が低く設定されています。
●NHK受信料が免除(障害者がいる住民税非課税世帯が対象)
身体障害者、知的障害者、精神障害者がいる世帯で住民税非課税となっている世帯については、NHK受信料が全額免除になります。
以下の書類等を準備して、NHKの窓口で免除の申請をしましょう。
【必要なもの】
・申請書
・印鑑
・証明書類:住民票(世帯全員用)、市町村民税非課税証明書(世帯全員分)、手帳所持証明書(写し)または障害者手帳(写し)
●予防接種費用が免除
世帯員全員が住民税非課税の場合、インフルエンザ等の予防接種が免除されます。たとえば神戸市にお住いの方は、接種当日に医療機関の窓口で以下のものを提示(または提出)する必要があります。
【提示または提出するもの】
・介護保険料のお知らせ(納入通知書)
・介護保険負担限度額認定証
自治体によって条件が異なるため、詳細は市区町村に確認してみましょう。
●介護施設での「食費と住まいの費用」が軽くなることも
将来、特別養護老人ホームなどの介護施設に入ることになった場合、「介護サービス費」だけでなく、食費や居住費(家賃のようなもの)も自己負担になります。これが意外と大きな負担になることもあります。
ですが、本人と同じ世帯の全員が住民税非課税で、預貯金などの資産が一定の基準以下であれば、これらの費用が軽くなる制度があります。これにより、食費や住居費に関する負担が大きく軽減されます。
●自治体独自のサービス・利用料の優遇
自治体によっては、さらに独自の支援を用意している場合があります。
・生活支援:指定ゴミ袋の無料配布や、水道基本料金の免除など
・外出支援:高齢者向けの公共交通乗車証(敬老パス)の発行手数料の減免など
「壁」を超えることで広がる、新しい生活の可能性
今回は、年金収入における「211万円の壁」の正体についてお伝えしてきました。確かに、住民税非課税世帯の枠内に収まることで、保険料や医療費の負担が軽減されるというメリットはあります。しかし、その数字に縛られすぎて「壁を超えないように」と生活を制限してしまうのは、本末転倒かもしれません。
たとえば、少しだけ年金を増やす工夫をしたり、短時間の仕事を始めてみたりすることで、日々の生活に心地よい張りが生まれます。新しい仕事を通じて交友関係が広がったり、誰かの役に立っているという実感が得られたりと、おカネだけでは計れない心の豊かさが手に入ることも多いのです。
また、社会情勢の変化に伴い、今後この「211万円」という基準自体が見直される可能性も否定できません。制度の変更に一喜一憂するよりも、どんな状況になっても対応できる「自分なりの生活基盤」を作っておく方が、結果として安心に繋がります。
大切なのは、「壁を超えるかどうか」という損得勘定だけで決めるのではなく、「自分らしく、豊かに暮らすためにはどのくらいの収入が必要か」という広い視点で将来を描くことです。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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