20/04/22
2030年の世界はどうなる?~『2030年の世界地図帳』
SDGsという言葉をご存じですか?ニュースやSNSで聞いたことはあっても、説明できるほど詳しい人は少ないのではないでしょうか。SDGsは、ちょっと難しいですが「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」という意味で、現代のさまざまな問題を世界全体で解決していこうという取り組みです。
今回のレビューは、多方面にわたって活躍する落合陽一さんが、SDGsからこれからの世界を解説した『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs』。以前、彼と堀江貴文さんとの共著『10年後の仕事図鑑』をご紹介しましたが、今回はよりグローバルな視点から、将来の日本の可能性を探る内容になっています。
「持続可能な世界」ってなに?
SDGsは一つの国では対応が難しい問題の解決を全世界規模で目指します。目標に掲げる問題は「食料」「健康」「資源」「都市」「労働」など全17項目にわたり、国連やNGOといった公的機関だけでなく、企業などの営利組織も関わっていることが特徴。2015年の国連サミットで採択され、2030年の達成を目指しています。
しかし、日本ではなかなかSDGs の理解が深まらず、人々の行動にも繋がっていません。それは「持続可能」という言葉が漠然としすぎているからではないでしょうか。正直私は、この本を読むまでよくわかりませんでした。SDGsの目指す持続可能な世界とは、現在に生きる私たちが生きやすく、そして未来の世代に必要な資産を残せる、よりよい社会を指すのこと。それを成功させるには、人々がその趣旨を理解して当事者意識を持ち、未来の世界を見すえることが必要です。
今後のリーダーは、アメリカでも中国でもない?
2000年代はアメリカの巨大グローバル企業GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)を中心とした「アメリカン・デジタル」の時代で、2010年代後半からは中国政府の後押しを受けて成長した企業BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)による「チャイニーズ・デジタル」の時代になりました。
次の世界のリーダーはどちらになるのか、両国の動向が注目されますが、2020年代は「ヨーロピアン・デジタル」が存在感を高める可能性があります。
資本主義を法と倫理で支配しているのは、実は個人情報保護に厳格なヨーロッパ諸国。GDPR(EU一般データ保護規則)は、米中の情報戦力さえも牽制する威力を持っています。
世界共通の目標を掲げるSDGsは、ヨーロッパ式のルールを設けて、自国第一主義の大国の活動を規制しています。
また、食糧問題や貧困問題が深刻なアフリカ諸国では、近年GDP成長率がめざましく上がっています。これまでの物々交換からモバイル送金サービスへの変更などが起こっているためです。携帯電話も急速に普及し、今や所持率80%以上のアフリカでは、一足飛びにイノベーションが進む「サードウェーブ・デジタル」が起きているのだそう。このようにさまざまな国が起こすデジタル・ムーブメントによって、現代世界は動いていきます。
日本は世界とどう戦っていくのか
世界の情勢は刻々と変わり、日本がアジアのリーダーと言われた時代は、もはや過去の話となりました。少子高齢化が進む我が国の未来に、明るい見通しはあるのでしょうか。
巨額の資本を武器に戦う米中の熾烈な開発競争に参戦しても勝算はほぼ見込めませんが、ヨーロッパ式の持続可能な開発手法は、今後の日本に見合った戦い方のひとつになるでしょう。目に見えるデータにとらわれず、実際の支配力がどこにあるのかを理解していると、世界動向の見方が変わります。
SDGsが示す世界の問題は、どれも私たち、そして未来の子供たちにとって生きる上で身近なものばかり。世界を動かすデジタル・ムーブメントの流れを見ながら、私たち一人ひとりが持続可能な世界をめざして行動するべき時がきています。先行き不安な世の中ですが、国や企業、個人のSDGsへの活動から、世界の動きが見えてくるでしょう。この本は、SDGsを理解したい、10年先を見据えるために世界の現状を正しく認識したいという人にお勧めの入門書です。
『2030年の世界地図帳』
(SBクリエイティブ )
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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