20/03/26
AIが普及した世界で勝ち抜く道が示された一冊〜『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
書店に行くと、たくさんのAI(人工知能)関連書籍が平積みされており、人々の関心の高さがうかがえます。今回は現在の学校教育に疑問を投げかける、2019年ビジネス書大賞受賞作です。
AIといったら、人間と同レベルの知能を持ち、自由自在に動くロボットを連想しますね。アニメや映画上に登場するAIは人間そっくり。スピルバーグ監督の映画「A.I.」でアンドロイド少年の切なさに涙した人も多いでしょう。
人間を助けるいいイメージから、今では仕事を奪う、不気味な存在になりつつあるAI。ただ、私たちが恐れるAIは、まだこの世に存在していません。
今あるのはAIではなく、開発中の技術だけですが、私たちはAIとAI技術をごっちゃにしちゃいます。iOS搭載の「Siri」も世界囲碁チャンピオンを倒した「Alpha Go」も、膨大なデータから「このパターンならこうなる」という傾向に沿って動くAI技術。こうした存在が人類を駆逐するとは、考えられません。
しかし「なんだ、心配して損した」と胸をなでおろすのは、まだ早いのです。
著者が開発したAI「東ロボくん」は、入試問題は理解できなくても、MARCHや関関同立に合格できる偏差値65になりました。いまやAIは受験生の上位30%の学力レベルになっています。
文章の意味が分からない子どもたち
次に、子どもたちの学力を見てみましょう。膨大な量のデータを覚え込めるAIが、どうしても人間にかなわない分野があります。それは人間だけが持つ、読解力。この能力で子どもたちとAIとの差が開くと思いきや、中・高校生の多くは教科書の文章を正確に理解できない、深刻な読解力不足だということが、調査で明らかになりました。
過半数の受験生が読解問題を解けなかったという事実。この本のタイトルは決して大げさではないのです。
熾烈な受験下にある子どもたちは、パターンで解く効率的なテスト攻略法を身につけていますが、その代償としてじっくりと時間をかける読解力に欠けています。暗記や計算問題に強い彼らですが、残念ながらAIには勝てません。ミスをせず、文句を言わず、休憩も給料も必要ないコンピュータは、雇用者にとって人間よりも扱いやすいため、求められる仕事さえこなせれば、人間とチェンジになることだってあるでしょう。
テストの結果から、今の中高校生は受験攻略勉強の弊害として読解力が低く、AIと差をつけられないこと、そのため多くの仕事がAIに肩代わりされる未来がすぐそこまで迫っていることがわかりました。
AIに負けないためにはどうするか
AIに人間を滅ぼす能力はありませんが、子どもたちにはAIに勝てる読解力がありません、読解力よりも暗記や計算に重点を置いた現在の教育では、AIとの競争に勝てない上に、マニュアルを理解できないと仕事に支障をきたしてしまいます。社会に出ても読解力は必要なのです。
AIに負けないためには、どうすればいいのでしょう。
受験対策中心の日本の教育を、読解力や柔軟性を養うプログラムに変える必要がありますが、実現には年月がかかりそうです。個人で取る対処法は、AI以上の偏差値になるか、AIにない感性の能力を伸ばすかの二つ。前者は高い学力を保ち続ける必要がある上に、今後AIの学力が上がる可能性もあり、かなりハードです。後者は、やはり読解力を身につけるべき。そのためには読書体験を増やすことですね。
この本には子どもたちやその親が知っておくべき内容が盛りだくさん。読解力の低いままで成人し、社会に出ると、ミスをしないAIに簡単に負けてしまうと著者は指摘します。AIと比べられるシビアな将来に備えて、子どもたち一人ひとりが今のうちから対策に乗り出すことが肝心です。
テクノロジーのおかげで暮らしが便利になる反面、AIと人間とのリアルな生存競争が待っているこれからの世の中。AI技術が普及した厳しい世界で勝ち抜くための道が示された一冊です。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
(東洋経済新報社)
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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