19/06/17
【書評】『あんぱんはなぜ売れ続けるのか』長寿企業に共通するマーケティング法
やさしい甘さで食べやすいあんぱん。パンとあんを組み合わせた日本独特の菓子パンですが、海外でも人気が高く、今では欧米のパン屋にも「Anpan」として並んでいます。
あんぱんといったら、やっぱり銀座の木村屋總本店。大人が嬉しい酒種の味わいですね。
今月ご紹介する『あんぱんはなぜ売れ続けるのか』(井上昭正著)は、会社と商品を紹介しながら、百年以上続く国内の優良マーケティング事例を解説した一冊です。
あんぱんっていつからあるの?
あんぱんは明治時代に登場しました。明治維新の折に商売を始めた元武士の木村安兵衛が、日本人の口に合うパンを作ろうと酒種のあんぱんを考案したのが始まりです。
明治8(1875)年の明治天皇と皇后の花見行幸の際に、安兵衛の桜あんぱんが献上されました。それが両陛下に喜ばれ、宮中御用商に加わることになると、あんぱんは文明開化の味として、一気に日本中に広まったのです。
安兵衛が献上用に開発したのは、吉野の桜の花びらの塩漬けが埋めてある桜あんぱん。口に入れると甘い中にほのかに塩味と酸味がします。明治7(1874)年の木村屋(現在の木村屋總本店)の創業以来、145年間ずっと売れ続けているロングセラー商品です。
木村屋ブランドが確立した理由
桜あんぱんは、なぜ一世紀以上もの長い年月にわたって売れ続けてきたのでしょうか。
西洋のパンにあんを入れて日本らしいイメージにした独自性や、桜の花びらを織り込んだ季節感、皇室御用達品という最高品質の保証といった特徴がある桜あんぱんは、他社のパンとは違う木村屋独特の差別化戦略だといえます。
製品開発に加えて、安兵衛が幕末の三舟、山岡鉄舟と出会ったことで明治天皇への自社製品の献上が実現しました。人との縁がブレイクスルーとなって木村屋の発展につながったのです。
さらに木村屋は過去四度の火災に見舞われながらも、そのたびに本店を銀座に再建し続けました。並大抵の苦労ではなかったと思いますが、銀座本店という一流のイメージが定着し、ロケーション戦略に成功しました。
この高級イメージ路線は、金鳥が広告キャラクターに美空ひばりを起用した点にも表れています。一流の商品はすべて一流のモノと組むことが必要で、三流のモノを選んだら商品も降格するというマーケティング戦略に沿っています。
長寿企業に共通するマーケティング法とは
日本のマーケティングの始まりとみなされる、独自の戦略で発展した木村屋。本書ではほかに金鳥、キューピー、カゴメ、ゼブラ、田崎真珠、イトーキといった大企業が紹介されています。
長年存続してきた7社には、共通したマーケティング戦略があります。
それはどの会社も目先の損得ではなく、本当に正しいものを判断基準にして、社会的貢献をめざす社是を持っている点です。
たとえば、欧米の輸入商品が普及していた当時、キューピー社はマヨネーズを国産化して日本人の食生活を整えようと考え、イトーキ社は発明品を普及させて日本の国益を増大し、発明家の人材育成に貢献しようと考え、ゼブラ社は日本国家のためにペン先を国産化して自社で製造販売しました。どの会社も日本の発展を願ってオリジナルの製品を生み出し、その姿勢が国民に支持され続けているのです。
この本で紹介されている会社は、ブランド力を維持し続ける優良企業ばかり。激動の時代を越えて発展を続ける企業は、社会経済の変化を感じ取り、対策を講じるマーケティング戦略に長けています。一世紀以上売られているロングセラー製品には、それだけの理由があるんですね。
かつて明治という新しい時代に入った人々が、試行錯誤しながら会社を立ち上げ、発展させていったことを考えると、百年たって令和に入った今でも、彼らのマーケティング戦略から教わることはたくさんあるなあ、と思いました。
『あんぱんはなぜ売れ続けるのか』』
(清流出版)
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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