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19/02/28

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【書評】「ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想」

便利なことは豊かなこと?

う~ん、長い題名ですね。ひと息では言い切れません。文字数が多すぎて読みづらく、意味がすんなり頭に入ってこない、つまり不便なタイトルです。でも、書店で見かけたら「このやたら長いタイトルの本は何なんだ?」と、つい手に取ってしまいますよね。それこそが実は筆者の狙いなのです。

「不便益(ふべんえき)」とは「不便であるからこそ得られるいいこと」という意味だそうです。

人類の歴史とともに、産業が発展してきました。その目的はずばり便利であること。便利さは快適さにつながり、人々の暮らしは昔に比べてとても楽になりました。その流れから現代社会では「便利=いいこと」「不便=改善すべきこと」と見なされますが、はたして「便利=豊かなこと?」とこの本は問いかけます。

たしかに便利さは豊かさを生み出しますが、全ての場合にそれが当てはまるわけではありません。便利な世の中だからこそ、不便さが重宝される逆向きのパターンも存在するというのです。

不便益は新しいビジネスチャンスにもつながる

不便益はビジネスのヒントにもなる新しい発想として、今注目を集めているキーワード。実際に不便益を産んでいる商品がいくつか紹介されています。

たとえばロボット。機械ですから、無駄のない効率的な働きで人をサポートするものですが、今はなぜか役に立たない弱いロボットが続々と開発されています。効率主義の社会に疲れた人は、もたもたするロボットを手助けすることで癒される効果があるとか。アニメ『ベイマックス』のロボットにもそうした面がありましたね。

それから旅行。交通網の発達により、どんな場所にも行きやすくなりましたが、数あるツアーの中でもアクセス困難な山奥の秘湯が人気だそう。冒険心を刺激されるのでしょうか。

『ウォーリーをさがせ!』が世界的ベストセラーになったのは、群衆の中からあのキャラクターを探し出す作業がおもしろいから。面倒で労力がかかる作業の全てが、改善すべき厄介なものというわけではないのです。手間暇をかけるところに楽しさを見出すこともあるんですね。

いろいろな例の中で、一番「なるほど」と思ったのは、「富士山にエレベーターがついたらつまらないでしょう?」という発想でした。
うーむ、それは楽ですが、味気ないですね。自分の足で苦労して登るからこそ価値が生まれ、達成感に感動していい思い出になるのですから。

便利になりすぎると、人はかえって物足りなくなるのかもしれません。「便利と不便は状況に依存する」と著者が言うように、効率がいいから幸せだとは限らないのです。

不便を選ぶ心の余裕を

最新テクノロジーのもとで人々の生活はどんどん便利になっていますが、簡単になりすぎて物足りなさを感じられることも時にあります。そのためか、個人の好みであえて面倒さを選ぶ動きも見られるようになりました。

著者の川上浩司氏はケータイを持たず、ガラケーさえ使わないそうです。たまに不便を感じるものの、案外問題なく過ごせているとのこと。
私は電子辞書より紙の辞書、Kindleなどの電子書籍よりも紙媒体の書籍派です。かさばって重くても、本のページをめくるのが好きで、タブレットの画面をスライドするだけではどうも物足りません。

便利さを選ばない姿勢は、周りに「遅れている」と思われがちですが、自分の意志で動く主体性を持てたり、自分だけというちょっとした優越感を感じられたりします。また不便な中であれこれ工夫するという楽しさは、日々を丁寧に暮らすことにつながっていきます。
「不便は手間だが役に立つ」という「逃げ恥」風の文句も添えられています。便利な世の中で、あえて不便を選ぶ心の余裕を持っていたいものですね。

『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想』
(インプレス)

小野寺 理香 おのでら りか

読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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