18/11/14
古来、人は何を想って夜空を見上げてきたのか『星のなまえ』
秋たけなわですね。きれいな空が広がる行楽シーズンになりました。
夜空を見上げる機会が多くなった季節にご紹介する本は、人々が星にどんなまなざしを向けてきたかに思いをはせるエッセイ。著者の高橋順子氏は、今年度の講談社エッセイ賞の受賞者です。
古来より今に至るまで、人々は星をどのように捉えてきたのでしょう。
紹介されるのは、神話、古典、民話、童話、小説、詩、短歌、俳句、歌謡曲といった、多ジャンルの文学。その引用から、詩人であり編集者でもある著者が繰り広げる星語りの文章は、繊細さと正確さが織り混ざった豊かな内容になっています。
いいイメージも悪いイメージも
星には「手の届かない、きれいですてきなもの」というイメージがありますが、そのほかにも人は星をいろいろなものになぞらえてきました。
星座の多くは古代ギリシャ神話が元になっていますが、日本の神話や民話に星はあまり登場しません。たしかに思い出すのは『かぐや姫』くらいですし、あれは星ではなく月の物語。和歌でも月を詠んだものの方がはるかに多いそうです。月の方が圧倒的に目立つからでしょうか。
『日本書紀』に星神の記載がありますが、なぜか悪い神だと断定されています。星の捉え方は今とずいぶん違ったようです。
『枕草子』の「星はすばる。」のくだりは有名ですが、星についての記述はその一節のみ。清少納言は天体よりも「夜這い星」といった星の名前の方に興味があったのだろうと、著者は推測しています。
宮沢賢治の『よだかの星』やサン=テグジュペリの『星の王子さま』といった星の物語には、孤独感がともないます。暗い銀河の中でぽつんと光る星に、人は寂しさと親しみを感じてきたのでしょう。
それは、孤独な魂を持つ詩人の作品にも反映されます。金子みすずや小林一茶には、月や星の詩が多いそうです。谷川俊太郎は中2の時に “万有引力とは ひきあう孤独の力である” という詩を作ったそう。すでに詩人だったんですね。
「Star」は花形、憧れの人という意味にも使われますが、警察用語での「星」はがらりと変わって犯人や容疑者を指します。スターから犯人まで、星の持つイメージは幅広いものになっています。
星を支えに生きていく
さらに、星には死のイメージもあります。『銀河鉄道の夜』も『星の王子さま』も、ファンタジーと死が結びついた物語。このテーマが深く掘り下げられているのは、執筆中に著者の伴侶が急逝されたことが大きいでしょう。
死という絶対的な別れを前に、なすすべもない人間は、ただ夜空の星を探します。著者は、空により近い八ケ岳山麓で星を見上げた話を、あとがきに替えています。
“こんな美しい夜空と一体化できるのなら、大切な人びとの死も、自分の死も、いのちの幸いでなくて、何であろう [中略] 星はすべての生きものの死を荘厳すべく輝いている。”
(あとがきより)
ギリシャ神話では、命を落とした勇者は悼まれて空に上げられ、星座になります。夜空の星々はチカチカとまたたき、まるで生きているかのように見えます。
愛する人との永遠の別れののちも、見守られ、支えられていると信じる気持ち。現実と非現実の間にある、この世を離れた大切な人たちがいる場所として、人は遥か彼方の天空の星を見つめるのです。
大気が澄んでいる秋は、星々がよく見える、天体観測にいい季節。歳時記にも「流星」「銀河」「星月夜」といった星に関する言葉が揃っています。高原や海辺からは、広々とした夜空を眺められるし、ほとんど星が見えない都会でも、プラネタリウムに行くと星降る空が眺められるでしょう。
秋の夜長にじっくりと読み、星空を見上げて、身近な人と静かに語り合いたくなる一冊です。
『星のなまえ』
(白水社)
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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・『星のなまえ』〜古来、人は何を想って夜空を見上げてきたのか~
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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