18/09/12
一度だけ過去か未来に行けるならどっち?『コーヒーが冷めないうちに』
暑い夏が少しずつ秋に移っていく気配を感じますね。
今回は、今月映画公開される川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』をご紹介します。
簡単にはいかないタイムリープ
とある町の片隅にある、レトロな喫茶店が舞台。あるひとつの席に座ると、過去か未来の時間に飛ぶことができます。コーヒーを飲むだけで、タイムリープできると聞いたら、誰もがさっそく試してみたくなりますね。
ただ『ドラえもん』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように、タイムマシンに乗って何度も楽しく行き来することはできません。面倒なルールが5つあり、そのすべてにそぐわないと時空を超えられないのです。
時間をさかのぼれるのは一度きり。そしてその席はいつも埋まっていて、なかなか座れません。さらに淹れたコーヒーが冷める前に戻ってこなくてはいけません。そう簡単にはいかず、ほんの短い時間しかないため、興味本位の人は億劫になって、あきらめてしまいます。
後悔に目をつぶるか、希望と向き合うか
それでもなお、過去に戻りたいと熱望する人たちは、それだけの深い理由を抱えています。
作中でタイムリープしたのは4人。未来にも過去にも行けますが、ほとんどが過去に向かい、それぞれの恋人、伴侶、妹、そして娘という身近な関係性の人たちに会いにいきます。
未来を知りたい人よりも過去に戻りたい人の方が多いというのは、それだけ悔やむ過去があるということ。かつての自分にとらわれて、今が幸せではないためです。
生きていく上で、誰もが失敗と後悔を重ねていきます。自分の恥ずかしい黒歴史を消したい時や、ささいな行き違いで相手との間に溝ができてしまった時など、できることなら過去に戻ってやり直したくなるものです。
ただ残念なことに、当時に戻ることができても、過去も現在も変えることはできないというルールがあります。何ひとつ変わらないのに、過去へ行く意味はあるのだろうか、つらい思い出を繰り返して心の痛みが増すだけではないかと、誰もが悩みます。
強い意志がないと、たった一度のチャンスにかけて、自分の後悔と正面から向き合う決心はつかないことでしょう。
また、未来に行って自分の将来を知りたいという人も現れそうですが、実際に知ってしまうと、下手をすると人生に幻滅して生きる希望を失ったりしないか、気になるところです。
作中では1人の女性が未来へ向かいましたが、目的は自分の姿ではなく、数年後でないと会えない人に会うためでした。
続編の『この嘘がばれないうちに』に、自分の未来を探ろうとする人が出てくるかもしれません。
過去を変えられなくても未来を変えるには
やりきれない思いを抱えて過去や未来へ向かっても、時の流れを変えることはできませんが、戻ってきた人たちは、気持ちに折り合いをつけてすっきりしています。みんな、相手と再び向き合い、深い愛情に触れたことで、大事なことに気がつきました。
これまでの人生にたとえ悔いがあっても、後ろを振り返るよりもこれから起こることに目を向けることが大切だと知ったのです。どんな明日になるかは、自分の意志や心のありよう次第。自分自身が変わっていけば新たな一歩を踏み出せて、未来も変えられます。過去を見つめ直し、今この時を丁寧に過ごすことで、何気ない日常の時間が色づき、意味を持っていくもの。そうやって深みを帯びた人生が織りなされていくのです。
あなたなら、時空を超えて誰に会いに行きたいですか?
未来を自分で作っていこうと前向きな気持ちになれる、コーヒーのように香り高く、コクたっぷりの小品集です。
『コーヒーが冷めないうちに』
(サンマーク出版)
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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