24/02/25
2024年度・2025年度の国民年金保険料が大幅に上がるのは本当か
自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者や、国民年金に任意加入をしている人は、毎月国民年金保険料を納めています。この国民年金保険料の金額が、2024年度・2025年度と大幅に値上がりすることをご存じでしょうか。そこで今回は、毎年の国民年金保険料の金額がどのように決まるのかを解説するとともに、国民年金保険料をよりお得に納める方法や、納めることが難しい場合の対処法を紹介します。
物価上昇で2025年度の国民年金保険料は17,000円を突破
まずは、国民年金保険料の金額が、どのようなルールで決まっているのかを見ていきましょう。
●法律で定められた国民年金保険料の水準は17,000円
国民年金保険料は、将来の現役世代の負担が重くならないよう、2004年の制度改正でその最終的な水準が定められました。具体的には、2004年の13,300円から、2005年以降毎年280円ずつ引き上げが行われて、2017年度以降は16,900円で固定されることになりました。その後、2019年4月に始まった「産前産後期間の保険料免除制度」に伴って100円程度の引き上げが行われたため、現在は17,000円で固定化されています。
●国民年金保険料は「物価変動率」と「実質賃金変動率」で決まる
しかし、2019年度以降の17,000円という金額は、あくまで「2004年度価格」にすぎません。実際には物価や賃金の伸びを反映した「保険料改定率」を乗じた金額に調整が行われます。2025年度の国民年金保険料を決める際に乗じられた保険料改定率は、2010年度(保険料改定率:1.008)以来、久しぶりの1以上となる「1.030」となりました。
毎年度の実際の国民年金保険料の計算方法は、次のとおりです。
【毎年度の実際の国民年金保険料額の計算方法】
実際の国民年金保険料額=2004年の制度改正で決められた国民年金保険料額×(※)①保険料改定率
(※)①保険料改定率=②前年度保険料改定率×名目賃金変動率(③物価変動率×④実質賃金変動率)
物価変動率は「前々年の物価変動率」、実質賃金変動率は「5年度前から3年度前までの3年度平均」が用いられている点がポイントです。つまり、2025年度の国民年金保険料の計算では、「2023年の物価変動率:+3.20%」および「2020~2022年度の実質賃金変動率平均:▲0.10%」が用いられることになります。
つまり、国民年金保険料が初めて17,000円を突破することになった背景には、経済動向が大きく関係しているのです。
なぜ、2025年度の国民年金保険料がこのタイミング(2024年1月)に決まるのか。それは、2023年平均の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数)が総務省から公表されたことを受けて、保険料の計算に必要なすべての経済指標がそろうためです。
近年、国民年金保険料は、16,000円台半ばを±100円前後の動きで推移してきました。2023年度の国民年金保険料は16,520円です。しかし、歴史的な物価上昇となった2022年の物価変動率を反映する形で国民年金保険料の金額は上昇。2024年度の国民年金保険料は、2023年度から一気に460円増加して16,980円に。さらに2025年度の国民年金保険料は530円増加して17,510円になります。つまり、2025年度の年間納付額は、2023年度と比べて11,880円も増加することになるのです。
国民年金保険料をお得に納めるには?
国民年金保険料をお得に納めるためにはどうすればよいのでしょうか。知っておきたい3つのポイントを、一緒に見ていきましょう。
●国民年金保険料をお得に納める方法①:前納制度を活用する
国民年金保険料は、通常の「毎月納付」に加えて、「6ヶ月前納」、「1年前納」、「2年前納」を選択できます。前納期間に応じた割引額が適用されるので、毎月納付よりもお得です。
【2024年度における「納付書払い」の前納額】
・6ヶ月前納(2024年4月~2024年9月分または2024年10月~2025年3月分)
101,050円(毎月納付より830円の割引額が控除)
・1年前納(2024年4月~2025年3月分)
200,140円(毎月納付より3,620円の割引額が控除)
・2年前納(2024年4月~2026年3月分)
398,590円(毎月納付より15,290円の割引額が控除)
納付書払いによる前納の納付期限は、「6ヶ月前納」は4月末日および10月末日、「1年前納」および「2年前納」は4月末日です。家計の状況も見ながら、前納制度を効果的に活用するとよいでしょう。
●国民年金保険料をお得に納める方法②:口座振替もしくはクレジットカード納付にする
国民年金保険料の納付は、「納付書払い」のほかに、「口座振替」、「クレジットカード納付」から選ぶことができます。納め忘れが防げることは、口座振替やクレジットカード納付の大きなメリットです。また、クレジットカード納付の場合、クレジットカード会社やカードの種類によっては、納付額に応じたポイントが付与される点は魅力かもしれません。
毎月納付の場合には、どの納付方法を選択しても納付額は同じですが、前納額は納付方法によって異なります。先ほど紹介した前納額と割引額は、納付書払いもしくはクレジットカード納付を選択した場合の金額です。口座振替による前納は、他の納付方法よりもさらに割引率が高くなります。2年前納だと特に、毎月納付1回分ほど安くなる点に注目です。
【2024年度における「口座振替」の前納額】
・当月末振替(早割:毎月の国民年金保険料を納付期限よりも1ヶ月早く振替)
16,920円(通常の毎月納付より60円の割引額が控除)
・6ヶ月前納(2024年4月~2024年9月分または2024年10月~2025年3月分)
100,720円(毎月納付より1,160円の割引額が控除)
・1年前納(2024年4月~2025年3月分)
199,490円(毎月納付より4,270円の割引額が控除)
・2年前納(2024年4月~2026年3月分)
397,290円(毎月納付より16,590円の割引額が控除)
口座振替およびクレジットカード納付による前納(6ヶ月前納、1年前納、2年前納)は、従来、2月末日(6ヶ月前納の場合には2月末または8月末)必着で申し込みを行う必要がありました。しかし、2024年3月からは、年度の途中からでも前納の申し込みが可能になるので、さらに使い勝手がよくなります。
●国民年金保険料をお得に納める方法③:社会保険料控除を上手に活用する
納付方法の見直し以外にも、節税で家計の経済的負担が軽減できるかもしれません。
国民年金保険料(付加保険料を含む)は、納税者本人の分だけでなく、「生計を一にする」配偶者やその他親族に係る分について支払った場合にも、その支払った金額のすべてを所得から控除することができます。別居をしていても生活費や学資金、療養費等の送金が行われていれば、「生計を一にする」ものとして取り扱われるため、例えば高所得の家族がまとめて納付するなど、家計の実態に合わせた税金の軽減効果が期待できます。
13ヶ月以上の前納(つまり2年前納)では、各年分の保険料に相当する額を各年に控除することもできますが、前納制度を活用している人は、節税効果もさらに強力です。支払った国民年金保険料に漏れなく社会保険料控除が適用されるよう、確定申告(もしくは還付申告)の手続きを必ず行いましょう。
納付が困難な人は免除・猶予・学生納付特例制度を活用しよう
収入の減少や失業等によって、国民年金保険料の納付が困難な人は、納付の免除もしくは猶予の手続きを行うようにしましょう。
国民年金保険料は、納付対象月の翌月末日までに納めなければなりません。例えば、2024年4月分の国民年金保険料の納付期限は、2024年5月31日(金)が納付期限です。そして、この納付期限から2年を経過すると、時効によって「未納」扱いとなるので注意してください。
保険料の免除や猶予の承認を受けている期間は、老齢基礎年金や障害基礎年金、遺族基礎年金を受給するために必要な資格期間に算入されます。さらに、10年以内に、免除や納付猶予になった保険料を追納すれば、老齢基礎年金には満額が反映されるので、忘れずに手続きを行いましょう。これは、申請により在学中の保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」も同じです。
<受給資格期間および老齢基礎年金額への反映(納付状況別)>
日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」より筆者作成
出産の予定がある人は「産前産後期間の保険料免除制度」をチェック
国民年金第1号被保険者が出産をする場合、出産予定日または出産日の前月から4ヶ月間(多胎妊娠の場合には3ヶ月前から6ヶ月間)、国民年金保険料の納付が免除されます。
例えば、単胎妊娠で出産予定日が2024年10月4日なら、2024年9月から12月までの4ヶ月分67,920円(16,980円×4ヶ月)の納付が免除されるので、忘れずに手続きを行いましょう。免除された期間は、保険料を納付した期間として老齢基礎年金の受給額に反映されるため、追納を行う必要はありません。
<産前産後期間の保険料免除制度のイメージ>
筆者作成
なお、この免除制度に係る届け出は、出産予定日の6ヶ月前から可能で、期限は定められていません。したがって、制度適用の対象となる2019年2月1日以降に出産した人で、すでに国民年金保険料を納めた人も、届け出をすることで還付(もしくは未納分への充当)が受けられます。
先ほども紹介したように、この制度を実施するために、国民年金保険料の水準が100円程度引き上げられました。対象になる人は、活用しないと非常にもったいない制度です。
毎月400円の付加保険料で将来の年金収入を手厚くできる
国民年金保険料が上がることを憂鬱に思うのと同時に、少しでも将来の年金収入を手厚くしておきたいと思っている人も多いかもしれません。国民年金保険料を納めている人(65歳以上の任意加入被保険者は除く)は、毎月400円の付加保険料を国民年金保険料に上乗せして納付することで、基礎年金額からさらに「200円×付加保険料の納付月数」の付加年金が将来支給されます。
加入口数に応じて給付額が変わる国民年金基金や、掛金の運用まですべてを自分で行うiDeCo(個人型確定拠出年金)といった私的年金、小規模企業共済なども、公的年金が手薄な第1号被保険者が、それを補うために活用できる制度です。付加年金は中でも、「月400円」という金額からも分かるように、手軽に年金収入を手厚くすることができます。国民年金基金を除いて併用も可能です。
40歳から60歳まで付加年金保険料を納めた人の場合、20年間で納付する付加年金保険料の合計は96,000円(400円×240ヶ月)。基礎年金に上乗せして支給される付加年金額は年48,000円(200×240ヶ月)なので、受給開始からわずか2年で元が取れる点でも、付加年金は非常にお得な制度と言えます。
家計の状況に合わせて制度やルールを上手に活用しよう
今回は、国民年金保険料に注目して、2024年度から2025年度にかけて保険料が大きく上がる背景や、お得な納付方法、納付が困難な場合の対処法を詳しく解説しました。2022年に始まった歴史的な物価上昇が、2024年度以降の国民年金保険料の金額にまで影響を及ぼすことに、驚いた人も多いかもしれません。
保険料額が大きく上がる今だからこそ、これまで当たり前に納付してきた方法を見直すチャンスです。家計の状況に合わせて、国民年金保険料の納付に関するさまざまな制度やルールを上手に活用することが、今後ますます大切になってきます。今回の記事も参考にしながら、2024年度に向けて新しい一歩を踏み出していきましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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