23/02/18
「どうせ早死にするから年金は繰り上げ」と考える人の残念な末路
50代、60代ともなると「いまさら何をやっても年金額は変わらない」とあきらめてしまう人がいます。しかし、制度の見直しで70歳までの就業確保が努力義務をなったため、働き方しだいで年金を受け取る時期の幅が広がりました。金額的には大したことがないから「早くもらったほうが勝ち」だと思っている人は、年金改正の知識をアップデートしておかないと、残念な老後が待ち受けているかもしれません。
年金は原則65歳からもらえるが、早くもらうこともできる
老後にもらうことができる老齢基礎年金や老齢厚生年金は、65歳から受け取るのが原則です。ただし、希望すれば65歳になる前、あるいは66歳以降に年金を受け取ることができます。年金を早く受け取り始めることを「繰り上げ」といい、遅く受け取り始めることを「繰り下げ」といいます。
このうち、年金の繰り上げは、60歳以上64歳11か月までの好きなときに月単位で請求することができます。請求すると請求した月の翌月分から年金を受け取れます。
ただし、年金の繰り上げをすると、65歳からもらえる年金額にくらべ、減額されます。減額率は65歳になる月の前月までの月数に0.4%を掛けて計算されます。たとえば60歳時点では60か月×0.4%=24%も減額されるのです。
●年金受給の繰り上げと繰り下げ
筆者作成
繰り上げ受給のデメリットに要注意
「できるだけ早く年金をもらいたい」と思う気持ちは理解できますが、年金を早くもらう繰り上げ受給にはデメリットがたくさんあります。
まず何より、もらえる年金額が減ってしまいます。一度決めた年金の受給率は一生変更されません。また、繰り上げ受給を取り消すこともできません。会社員等で老齢厚生年金をもらえる場合には、特別支給の老齢厚生年金をもらっている場合を除き、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰り上げ請求する必要があります。どちらか一方だけを繰り上げ受給することはできないので、もらえる年金がどちらも減ってしまいます。
さらに、病気やケガで一定の障害が生じた場合には、程度により障害年金が支給されます。しかし、繰り上げ受給をした後は、障害の程度が重くなった場合でも障害基礎年金をもらうことができません。
また、公的年金を補う制度として、私的年金制度のiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)があります。iDeCoは、掛金全額を所得控除ができるなどのメリットを受けながら、老後資金を増やすことができます。2022年の年金改正により、iDeCoの受給開始年齢が75歳まで延長され、加入できる年齢も65歳未満まで拡大されました。受取開始の時期の選択肢が増えたため、さまざまな活用方法が考えられます。
しかし、iDeCoに60歳以降も加入できる人は、厚生年金に加入して働いている人か、国民年金に任意加入している人になります。年金を繰り上げ受給してしまうとiDeCo(イデコ)を利用することができなくなります。
長生きはしないつもりでも平均寿命まで生きたらどうする?
「どうせ早死にするから」「長生きはしないから」と考えていても、寿命は誰にもわかりません。
厚生労働省の簡易生命表(令和3年)によると、平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。もし、平均より長生きする場合には、60歳から20年以上も老後の期間が続くことになります。
しかも、健康寿命と平均寿命の差は、男性で約8年、女性で約12年あります。
●健康寿命と平均寿命の推移
内閣府「令和4年版高齢社会白書」より
本当に年金を必要とするのは、医療や介護が必要で働けなくなったときではないでしょうか。
また、年金はあくまでも「保険」です。大勢の人が保険料を出し合うことで万一の場合を保障するしくみです。健康なうちに年金をもらいたいのか、改めて考えておく必要があります。
受け取る年齢で年金はどう変わる?
老齢年金は、65歳前にもらい始めると月に0.4%減額され、66歳以降にもらうと月に0.7%増額されることになっています。会社員などで老齢厚生年金がもらえる場合にも増加率は同じなので、両方の年金がもらえる場合にはダブルで受給額を増やすことができます。
令和4年度の老齢基礎年金の満額は、77万7800円です。この年金額が変わらないと仮定して、60歳・65歳・70歳・75歳から年金を受給開始した場合の毎年の年金額を計算してみると、もらえる年金額は、
・60歳開始 76% 59万1128円
・65歳開始 100% 77万7800円
・70歳開始 142% 110万4476円
75歳開始 184% 143万1152円
になります。
次のグラフは、老齢基礎年金の受給開始の年齢ごとに年金の累計額がどのようになるかを示したものです。
●受給開始年齢別年金累計額
筆者作成
累計額で見てみると、60歳開始は80歳で65歳開始に追い抜かれます。そして、81歳で70歳受給開始に追い抜かれます。85歳ではなんと75歳開始にも抜かれてしまいます。仮に90歳まで生きた場合には、60歳開始と70歳開始の累計額の差は何と約436万円にもなります。
年金をいつからもらうのが一番お得なのかは、「何歳まで生きるか」という寿命で変わってきます。年金額が84%増額される75歳受給開始は、増額率は最も高いのですが、90歳時点では、70歳受給開始の累計額を抜くことはできません。したがって、増額率だけで選ぶとかえって損するかもしれません。一方、60歳から受給開始した場合には、長生きをすればするほど繰り下げ受給した場合の年金額と差が開いてしまいます。
まとめ
年金の受給開始は、目先の損得に惑わされず、健康状態や働き方などを考慮に入れ、総合的に考えて判断すべきでしょう。老後の生活資金が足りないから「安易に年金を繰り上げ」を選ぶと長生きには対応できなくなることを押さえておきましょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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