24/01/29
在職老齢年金の罠、年金をもらわなくても適用される「50万円ルール」
60歳以降も厚生年金に加入しながら働く場合、働きながら厚生年金をもらうことができます。この年金を「在職老齢年金」といいます。ただ、在職老齢年金の「50万円ルール」によって、年金がカットされてしまうケースもあります。
在職老齢年金「48万円ルール」「50万円ルール」で年金がカットされる
在職老齢年金は、60歳以降に働きながら受給する老齢厚生年金です。
在職老齢年金でもらえる年金額は、年金額と給与(正確には、年金の基本月額と給与の総報酬月額相当額)の合計によって、減額されたり、全額支給停止されたりします。
2023年度時点で、60歳以降の年金額(月額)と給与の合計が支給停止調整額の48万円を超えると、年金の一部がカットされます。
つまり、カットされる金額(月額)は、
(基本月額+総報酬月額相当額-48万円)×1/2
で計算できます。
年金額と給与の合計が48万円を超えるとカットされることから、「48万円ルール」と呼んでいます。
以前は、65歳未満と65歳以上で支給停止調整額が違い、計算も複雑でした。しかし、2022年4月からは支給停止調整額が一律で47万円となり、計算もシンプルになりました。また、2023年4月からは支給停止調整額が48万円に増額されました。
さらに、2024年4月から支給停止調整額が50万円に増額されることが決まりました。したがって、2024年度の在職老齢年金の計算式は
(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)×1/2
となります。年金額と給与の合計が50万円を超えるとカットされるので「50万円ルール」ですね。
2024年度、65歳の人が月10万円の年金と44万円の給与をもらう場合、
(10万円+44万円-50万円)×1/2=2万円
となり、年金が月額2万円支給停止になるという具合です。
さらに、年金が月10万円の場合、給与が月60万円まで増えると、
(10万円+60万円-50万円)×1/2=10万円
となり、年金は全額支給停止となります。
なお、国民年金は在職老齢年金の対象ではありません。
在職老齢年金はもらわなくても「50万円ルール」は適用される
「在職老齢年金で減額されるなら、厚生年金を繰り下げ受給して金額を増やそう」と考える人がいるかもしれません。しかし、在職老齢年金によって支給停止されるはずの部分は、繰り下げても増額の対象外です。
確かに年金を繰り下げれば、繰り下げ受給を始めるまでは年金をもらっていません。しかし、繰り下げ受給で増額になる金額は、本来の年金額から在職老齢年金によってカットされる部分を引いた残りだけなのです。
どういうことか、具体例で考えてみましょう。
●繰り下げ受給額が在職老齢年金で減額になる例
以下の方が、65歳から70歳まで働いて、年金を70歳まで繰り下げ受給するとします。
・65歳からもらえる国民年金(年額):81万6000円(2024年度満額)
・65歳からもらえる厚生年金(年額):156万円(月額13万円)
・65歳からの給与(月額):43万円
・賞与なし
この場合、仮に在職老齢年金をもらう場合、カットされる年金の月額は
(13万円+43万円-50万円)×1/2=3万円
となります。
厚生年金を70歳まで繰り下げ受給すれば、年金額は42%増加します。この増加の対象になる年金額は、65歳からもらえる厚生年金の「13万円」ではなく、13万円からカットされる3万円を引いた「10万円」となります。つまり、繰り下げで増額になるのは、カット後の年金額のみというわけです。
これにより、70歳からもらえる年金額(年額)は、以下のように変わります。
※誤りのある計算です
・国民年金…81万6000円×1.42=115万8720円
・厚生年金…13万円×1.42×12か月=221万5200円
合計:331万9676円
※正しい計算です
・国民年金…81万6000円×1.42=115万8720円
・厚生年金…(13万円+10万円×0.42)×12か月=206万4000円
合計:322万2720円
収入が多い人ほど「繰り下げ受給でいくら増えるのか」をチェック
上では厚生年金が3万円減ったと仮定して紹介しましたが、給与が多ければ厚生年金がさらに減ることもあるでしょう。その場合、繰り下げ受給で増える年金額はさらに減ってしまいます。極端にいえば、65歳から70歳までの給与がとても多く、年金が全額支給停止になってしまう人の場合、70歳まで厚生年金を繰り下げても、厚生年金は増えません。
このことを知らないでいると「厚生年金を繰り下げたけれど、思ったほど増えなかった」という事態に陥るかもしれません。老後の生活の見直しを迫られることもありえます。
ですから、収入が多い人ほど「厚生年金の繰り下げで増額になるのはカット後の年金額だけ」ということを踏まえて、老後にもらえる年金額をチェックしておくことをおすすめします。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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