24/01/15
専業主婦・主夫の「第3号被保険者」が廃止されたら年金保険料負担はいくら増えるのか
労働時間を調整しながら扶養の範囲内で働く「年収の壁」が、少子高齢化が進む中で問題視されるようになってきました。扶養の範囲内で働くために、労働時間を調整する人も多くいます。この社会保険料を自ら納付せず、配偶者の会社の健康保険のサービスを受けられ、基礎年金も受け取れる第3号被保険者の制度を廃止すべきという意見も出ています。
今回は、第3号被保険者の制度がもしも廃止されたら、国民年金保険料の負担はいくら増えるかを確認していきます。
そもそも、第3号被保険者とは
日本国内に住んでいる20歳から60歳未満の人は、職業や収入に関わらず、国民年金への加入が義務付けられています。その国民年金の加入者を被保険者と呼び、職業によって3つに分けられています。自営業や学生などは第1号被保険者、会社員や公務員は第2号被保険者、そして会社員や公務員に扶養されている配偶者は第3号被保険者です。
専業主婦(夫)だけでなく、パートなどで働いていても、年収が130万円未満の配偶者は、第3号被保険者になります。
近年、厚生年金保険の加入枠が拡大し、年収が106万円以上でも従業員数が100人超の事業所に勤務している場合、社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料など)を払わなくてはなりません(2024年10月からは従業員数50人超)。また、年収が130万円以上になると、従業員数が100人以下の事業所でも社会保険料が発生します。
ただ、扶養を外れて働くと、会社の扶養手当がなくなったり、手取り収入が減ったりするので、扶養の範囲内に留まりたいと考える人も多くいます。
第3号被保険者が廃止されたら国民年金保険料の負担はいくら?
一方、かねてより第3号被保険者については、制度を廃止すべきという意見もあります。2023年には、労働組合の連合からも第3号被保険者制度の廃止を検討すべきだという意見が出たことが話題になりました。
仮に第3号被保険者が廃止されて、第1号被保険者と同額の国民年金保険料を支払うことになるとすると、月額1万6520円(2023年度)を納付する必要が出てくるかもしれません。年間で約20万円、40年間では800万円の負担増になることも考えられます。
第3号被保険者の問題点はなに?
第3号被保険者は、1961年の基礎年金制度導入時からあるものです。しかし、基礎年金制度は加入が任意だったので、自分の年金がないという人もいました。そのため、1985年の年金改正で1986年4月から第3号被保険者は国民年金へ強制加入することになりました。
ただし、第3号被保険者は国民年金保険料を自分自身で納めず、配偶者が納める厚生年金保険料の中に第3号被保険者の保険料分も入っていると説明されています。つまり、厚生年金保険の被保険者全体で第3号被保険者の国民年金保険料を負担していることになります。
しかし、第3号被保険者には問題点も指摘されています。
問題点の1つ目は、加入者間の年金の負担と受給の不公平さです。
たとえば、同じ専業主婦(夫)といっても、第1号被保険者に扶養されている専業主婦(夫)は国民年金保険料を納めるのに対し、第3号被保険者は自ら保険料を納めることなしに国民年金をもらえます。また、夫の年収が高くなると専業主婦世帯の割合が高くなり、働かない選択をしている人が保険料を支払わないのは不公平だという意見もあります。
今や夫婦のいる世帯全体では、共働き世帯は7割を超えています。働いている夫と専業主婦の妻を標準モデルにしている片働き世帯を優遇する制度は、時代にあっていないと考える人も増えています。
問題点の2つ目は、パートなどの短時間労働者が、保険料の負担のない第3号被保険者に留まろうとすることで労働を抑制する原因になっていることです。
先にも紹介したとおり、扶養を外れると税金と社会保険料の負担が生じるので、収入の一定額を超えないように調整します。本来なら納められるはずの保険料も第3号被保険者の制度があるために社会保障費として役立てることができません。
そして、問題点の3つ目は、会社にとっても社会保険料の負担が大きいことです。パートが多い職場ではパートの賃上げは経営に大きく響きます。社会保険料を納めるようになれば会社の保険料負担も増えるので、安い労働力確保のためには非正規社員の賃金が安く限られた時間で働いてもらうほうが会社にも都合がよいのです。
第3号被保険者の今後の動向をチェックしておこう
今回紹介した第3号被保険者の見直しは、現時点で決まったものではありません。また、国民年金保険料を支払うことになったとして、もらえる年金額がどうなるかもわかりません。
もしかすると、国民年金保険料を支払っても、もらえる年金額は今と同じ、ということもあるかもしれません。
しかし、社会保険料をめぐる財政事情を考えると、第3号被保険者の廃止や見直しも十分に考えられます。
現に、政府はいわゆる106万円・130万円の壁を気にせず働けるように、「年収の壁・支援強化パッケージ」によって、年収106万円・130万円の壁を超え、社会保険料の負担が生じても手取りが減らないようにする措置を講じています。
この措置は2025年度末までの暫定的なもので、その後抜本的な見直しが行われる予定です。このときに、第3号被保険者についても廃止、あるいは何らかの見直しが行われるものと考えられます。
第3号被保険者の今後の動向をチェックしておきましょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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