22/10/12
生活保護世帯はどれくらい?高齢者世帯で急増しているのは本当か
このところ、生活保護世帯が増えているようです。なかでも、高齢者世帯で生活保護を受けなければいけなくなるケースが増えています。なぜ、高齢者世帯は生活保護を受けるくらい経済的に困窮してしまうのでしょうか?今回は、生活保護制度について解説し、高齢者世帯で急増する理由をご紹介します。
生活保護とはどんな制度?
生活保護とは、生活に困る人に対して憲法第25条で定められている「健康で文化的な最低限度の生活」を保障して、自立した生活を送れるように援助する制度のことです。
(※日本国憲法第25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。)
世帯収入が最低生活費に満たない場合に「保護費」を受けることができます。支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。
●生活保護で受給できる額はどのように決まるの?
保護費は次のような計算式で算出されます。
◎保護費=最低生活費-世帯収入
世帯収入が最低生活費を超える場合は、保護費を受給することができません。
●世帯収入はどんなものが該当するの?
世帯収入となる収入は、給与収入、事業収入、年金、仕送り、国や自治体から受けられる各種手当、保険給付金、不動産などの財産を処分して得た収入などです。まずは、預貯金や不動産など、持っている財産を活用して生活費に充てることを求められます。
●生活保護で受けられる扶助の種類は8つ
生活保護では、以下の8つの扶助に対する費用が支給されます。
(1)生活扶助:日常生活に必要な費用
(2)住宅扶助:アパートなど賃貸住宅の家賃
(3)教育扶助:義務教育を受けるのに必要な学用品費
(4)医療扶助:医療サービスを受けるための費用
(5)介護扶助:介護サービス費を受けるための費用
(6)出産費用:出産時にかかる費用
(7)生業扶助:仕事に必要な技能を修得するための費用
(8)葬祭扶助:葬儀に必要な費用
高齢単身世帯で生活保護受給者が急増中!?
生活保護を受ける世帯は年々増え続けています。下記は1971年から2020年までの間に生活保護を受けた世帯の数(1カ月平均)を世帯類型別のグラフにしたものです。
●世帯類型別被保護世帯数の1カ月平均
厚生労働省「令和2年度被保護者調査 月次調査(確定値)結果の概要」より
データによると、2000年頃から生活保護を受ける世帯が年々増加しています。それに、障害者世帯やその他の世帯に比べると、高齢者世帯(ピンク)が急激に増加しているのがわかります。
では、最近の状況はどうでしょうか?2022年9月7日に公開された被保護者世帯数(2022年6月の月次調査:保護停止中は含まない)によると、被保護者世帯の総数は約163万世帯でした。この中で高齢者世帯は91万908世帯で、全体の55.8%を占めています。2020年度の高齢者世帯数は90万3991世帯ですから、生活保護を受ける高齢者世帯数は増えているということですね。
実は、もう1つ興味深いデータがあります。2022年6月時点で生活保護を受けている高齢者世帯数は91万908世帯でしたが、このうち高齢単身世帯は84万1092世帯もあるのです。つまり、生活保護を受ける高齢者世帯のほとんどが高齢単身世帯ということになります。
生活保護のメリット・デメリット
最低限度の生活が保障される生活保護ですが、良い面もあれば、さまざまな制限があるため受け入れがたい面があるかもしれません。生活保護のメリットとデメリットには、次のようなものがあります。
●生活保護のメリット
・最低限度の生活が保障される
・8つの扶助があり、費用面でのサポートが受けられる
・住民税、固定資産税、国民年金保険料、上下水道料金が減免される
・NHK放送受信料が全額免除される
・都営住宅の共益金が減免される など
●生活保護のデメリット
・親族に扶養照会が入るので、生活保護を受けることが知られてしまう
・毎月、収入申告書を提出しなければならない
・年に数回、福祉事務所のケースワーカーによる訪問調査がある
・車など贅沢品は持てない(ただし事情によっては、車は認められる場合あり)
・ローンを組むことができない など
高齢単身世帯の生活が困窮しやすい理由は?
どうして高齢単身世帯は生活が困窮しやすいのでしょうか?
考えられる理由は、核家族化と長寿化、高齢による医療費の増加です。
日本では核家族化が進み、親子三代(祖父母・父母・子)で生活する家庭が減っています。大家族であれば生活費の助け合いができるかもしれません。けれども、親元から離れて暮らす子世帯は増え、子世帯も親世帯に仕送りするほど生活に余裕がない場合があります。そのため、親世帯は年金と預貯金の取り崩しによる生活を送ることになります。
しかし、年々平均寿命が延び長寿化が進むと、預貯金は徐々に目減りして、場合によっては底をつくことがあるかもしれません。そうなると生活費を補てんすることができなくなり、生活費が不足してしまうのです。
特に女性は生活が困窮しやすいかもしれません。専業主婦だった人の場合、もらえる年金は老齢基礎年金のみです。若い頃会社員として働いた期間があれば老齢厚生年金ももらえますが、働いた期間が短ければ、受給できる老齢厚生年金はわずかでしょう。そんななか、夫に先立たれると遺族年金があるとはいえもらえる年金額は減り、場合によっては最低生活費を下回ることがあるかもしれないのです。
また、追い打ちをかけるのが高齢化による病気やケガのリスクです。人は高齢になると病気やケガのリスクが高くなるため、かかる医療費は増えがちです。治療費が増えれば家計を圧迫して、生活が困窮することになるかもしれません。
不十分な預貯金、少ない年金、かさむ医療費などの理由により、高齢者世帯は生活が厳しくなりがちです。また、もらえる年金額が少ない単身世帯の人は、さらに生活が困窮しやすくなるため、生活保護に頼らざるを得ない人が増えるのではないでしょうか。
まとめ
憲法で定められている最低限度の生活ができなくなった人たちを経済的に救う生活保護制度を利用している世帯は、高齢単身世帯で急増していることがわかりました。高齢者が生活保護を受けざるを得なくなるのは、核家族化と年金や預貯金の不足、医療費の増加が原因だと考えられます。また、最低限度の生活が守られても、親族への扶養照会や生活の中で数々な制限を受けるなどデメリットも多いです。
まだ現役世代の私たちは、高齢になってから生活が困窮しないように、ライフプランの確認や老後資金の貯蓄など今からできることを確実にやっておきたいですね。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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