22/09/10
「住民税非課税世帯」の年代別割合は?年金生活者に多いのは本当なのか
電気、ガス、食料品、日用品。相次ぐ物価の高騰により生活が苦しい人に対する支援策として、政府は「住民税非課税世帯」に対して現金5万円を支給する対策を決定しました。住民税非課税世帯は、政府による現金給付の支援が行われるときの基準としてよく登場します。では、住民税非課税世帯は、どのくらいあるのでしょうか。
住民税非課税世帯は「住民税を課される人がいない世帯」
住民税は、お住まいの都道府県や市区町村に納める税金です。私たちが生活するにあたっては、教育、福祉、ゴミの処理など、さまざま公共サービスがかかせません。住民税は、そうした公共サービスの運営費用として徴収されています。
住民税には、一律に課税される「均等割」と、所得に応じて課税される「所得割」の2種類があります。均等割は一律で5,000円。本当は4,000円なのですが、2014年から2023年までの10年間は東日本大震災からの復興に伴う防災の財源確保のため、1,000円増額されています。それに対して所得割の税率は10%。所得に応じて、支払う金額が変わります。
基本的には、一定以上の収入があれば住民税を支払う必要があります。しかし、以下に当てはまる人は、住民税が非課税になります。
●住民税(所得割・均等割)が非課税になる人
・生活保護を受けている人
・未成年者・障害者・寡婦・ひとり親で、前年の合計所得金額が135万円以下の人
(年収が給与収入のみで204万3999円以下)
・前年の合計所得金額が、
(扶養親族がいない場合)45万円以下(年収が100万円以下)の人
(扶養親族がいる場合)35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族)+31万円の人
※扶養親族には16歳未満も含みます
※地域によって金額が異なる場合があります
住民税が非課税となるかどうかは、収入ではなく、所得によって決まります。所得は1年間の収入から経費(会社員の場合、給与所得控除)と個人の事情を税金に反映させる所得控除を引いて求めます。
そして、住民税非課税世帯とは、世帯全員が住民税非課税の世帯です。
たとえば、会社員と配偶者(専業主婦または主夫・収入なし)、子ども2人の4人家族の場合、所得が35万円×4+31万円=171万円までであれば「住民税非課税世帯」となります。給与所得控除前の年収でいうと、およそ255万円です。
住民税非課税世帯はどれくらいいる?
住民税非課税世帯の数をはっきりと示す統計はないのですが、厚生労働省「2021年国民生活基礎調査」をもとに計算することはできます。
●年代別の住民税納付額
厚生労働省「2021年国民生活基礎調査」より作成
表は年代別の世帯数と住民税課税世帯の数、そして住民税の納付額を示したものです。全世帯5,142万世帯のうち、住民税課税世帯は3,924万世帯となっています。また、29歳以下から80代以上まで、各世代の世帯数と住民税課税世帯が表示されています。
したがって、全世帯から住民税課税世帯の数を引けば、住民税非課税世帯の数が計算できます。
●年代別・住民税非課税世帯の割合
厚生労働省「2021年国民生活基礎調査」より作成
表のとおり、住民税非課税世帯の数は1,218万世帯。全世帯に占める住民税非課税世帯の割合は23.7%となっています。年代別の住民税非課税世帯の割合がもっとも多いのは80代以上の44.1%で、次が70代の33.1%となっています。70代以上の方の多くは、年金を受け取っているでしょうから、住民税非課税世帯は、年金生活者に多いといえます。
住民税非課税世帯を年代別の割合で見ると、29歳以下で23.5%、60代も20.7%、30代〜50代は10%前後です。割合で見ると、「29歳以下も意外と多い」と思われるかもしれませんが、29歳以下と60代以上では、世帯の数が全然違います。住民税非課税世帯全体に占める各年代の比率を計算すると、次のようになります。
●住民税非課税世帯全体に占める各年代の比率
厚生労働省「2021年国民生活基礎調査」をもとに筆者作成
住民税非課税世帯全体に占める60代〜80代以上の割合は82%。29歳以下の割合はわずかに2.9%です。いいかえれば、今回の5万円支給の対象の82%が60代以上ということになります。
年金生活者が住民税非課税世帯になる条件
年金収入があっても、収入が一定以下であれば、住民税非課税世帯になります。
年金収入は「雑所得」という扱いで課税対象ですが、公的年金の場合は「公的年金等控除」という控除が受けられます。
公的年金等控除の控除額は、
・65歳未満:60万円
・65歳以上:110万円
となっています。
また、住民税の均等割が非課税になる基準は、扶養する家族がいる場合といない場合で異なり、地域によっても異なります。
たとえば、東京23区の場合は、
・扶養親族がいる場合
35万円×(本人+扶養家族)+31万円 以下
・扶養親族がいない場合
45万円 以下
となっています。
つまり、年金額が公的年金等控除とこの基準の合計額以下ならば、住民税は非課税になります。東京23区の単身世帯・夫婦世帯(年金受給者が配偶者を扶養すると仮定)で住民税が非課税になる金額を計算すると、次のとおりになります。
【65歳未満の場合】
単身世帯:60万円+45万円=105万円
夫婦世帯:60万円+(35万円×2+31万円)=161万円
【65歳以上の場合】
単身世帯:110万円+45万円=155万円
夫婦世帯:110万円+(35万円×2+31万円)=211万円
なお、住民税の均等割の非課税の基準はお住まいの自治体で変わりますので、詳しくは各自治体にお問い合わせください。
住民税非課税世帯が受けられる優遇措置
5万円の現金支給の他にも、住民税非課税世帯には生活救済の観点から、さまざまな優遇措置が用意されています。
●住民税非課税世帯の優遇措置
・2歳未満の保育が無償化される
幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3〜5歳児の保育は無料ですが、 住民税非課税世帯の場合はさらに0〜2歳児も無料になります。
・高等教育無償化の対象になる
大学等に進学する際の費用の給付・減免を受けることができます。金額は通う学校の種類やどこから通うか(自宅か自宅外か)で異なりますが、住民税非課税世帯は第I区分といって、給付・減免が手厚くなっています。
・高額療養費の負担が減る
毎月の医療費の自己負担を一定額に抑えることができる高額療養費制度の自己負担額は所得水準で異なります。住民税非課税世帯は、この自己負担額も少なくて済みます。
・介護保険料の負担が減る
2019年10月より、住民税非課税世帯の65歳以上の介護保険料が軽減されています。
・国民年金保険料や国民健康保険料の負担が減る
国民年金保険料は申請すれば免除が受けられます。免除を受けた場合でも、将来、国民年金保険料を支払った場合の2分の1の年金をもらえます。また、国民健康保険料の負担も2割〜7割軽減されます。
・他の給付金の対象になる
たとえば2021年3月にスタートした子育て世帯生活支援特別給付金は、住民税非課税の子育て世帯や児童扶養手当を受給するひとり親世帯に児童1人あたり一律で5万円を支給する給付金です。
まとめ
住民税非課税世帯とは、住民税が課される人がいない世帯です。住民税非課税世帯の数は1,218万世帯ほどで、60代以上が8割を占めることがわかりました。
住民税非課税世帯には優遇がありますが、あくまでやむを得ない場合に利用するもの。何らかの理由で収入が減った場合にはぜひ活用するべきですが、そうでない場合にわざわざ収入を減らしてまで住民税非課税世帯を目指すようなものではないことを押さえておきましょう。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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