22/10/07
再雇用・再就職の時、給与の一部を退職金に回す契約にすれば95万円得するのは本当か
定年後も再雇用・再就職して働く人は増加の一途を辿っています。総務省「統計からみた我が国の高齢者」によると、60歳〜64歳の71.5%、65歳〜69歳の50.3%が定年後も再雇用・再就職して働いています。しかし、定年後の給与は大きく下がってしまうのが現実です。定年後も手取りを増やしたいと思ったら、給与の一部を退職金に回すことを検討しましょう。給与の一部を退職金に回せば95万円得するケースも。どういうことか、解説します。
希望すれば65歳・70歳まで働ける時代
2013年に施行された高年齢者雇用安定法では、会社に60歳未満の定年を禁止したうえで、65歳までの希望する社員に対して高年齢者雇用確保措置(雇用確保措置)を取ることを定めています。
雇用確保措置には、
①65歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度等)の導入
の3つがあり、原則として希望者全員にいずれかの措置を取らなくてはなりません。
厚生労働省「高年齢者の雇用状況」によると、すでに99.9%の会社が何らかの雇用確保措置を導入しています。とはいえ、実際に導入されている雇用確保措置の内訳を見ると、全企業の約4分の3、従業員301人以上の企業の9割近くが「③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度等)」を導入しているのです。
65歳まで定年を引き上げたら、65歳までは正社員として雇う必要があります。また定年制を廃止したら、極端にいえば本人が望む限りは正社員として雇う必要が出てきます。しかし、再雇用であれば正社員である必要はありません。雇用確保措置の実施状況からは、会社もできるだけ人件費をかけたくない様子が見て取れます。
なお、2021年に改正された「高年齢者雇用安定法」では、70歳までの就業機会を確保することを努力義務と定めています。
定年後の年収は下がるが仕事は変わらない
定年後、再雇用されることで年収は下がるものの、仕事は変わらないというデータがあります。
●定年後の年収・職務の変化
著書「定年後ずっと困らないお金の話」より
パーソル総合研究所「シニア人材の就業実態や就業意識に関する調査」によると、定年後再雇用者の年収の減額率は平均44.3%。50%程度下がった人が22.5%、50%以上下がった人も27.6%いるのです。また、年収が下がっても、定年前とほぼ同様の業務をしている方が55%もいます。定年退職、再雇用を取り巻く現実は、厳しいのです。
再雇用・再就職の契約で手取りを増やす方法
再雇用・再就職によって年収が減るなら、税金・社会保険料を減らしてできるだけ手取りを増やしたいですよね。そこで、再雇用・再就職の契約で手取りを増やす方法を考えてみましょう。
60歳を迎えたあと、これまで勤めてきた会社に再雇用されたり、違う会社に再就職したりするときには、新たに雇用契約を結び、給与や働く条件などを決定します。このとき、給与の一部を退職時にもらう退職金に回し、退職時に退職一時金として後払いしてもらうと、税金や社会保険料を節約できる場合があります。つまり、手取りを増やすことができるわけです。
退職金を一時金でもらう場合には、退職金にかかる所得税や住民税を大きく減らす「退職所得控除」という控除が利用できます。退職所得控除の合算対象になる条件は「前年以前4年以内に受取った一時金」なので、60歳で退職金をもらったとしても、給与の一部を退職金に回して、5年以上空けてから退職金を受取れば、60歳以降の勤続年数に基づく退職所得控除が活用できる、というわけです。
具体的に、60歳から65歳まで5年間働いた場合を比較してみましょう。
●「年収300万円」vs「年収240万円+退職金300万円」の税額
(株)Money&You作成
60歳から65歳までの5年間にわたって再雇用されるとします。この5年間、月給25万円(年収300万円)で働いた場合、年間の税金+社会保険料の合計は約64.3万円。5年間で321万円ほど負担することになります(簡易的に、所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみで試算しています)。
一方、月給20万円(年収240万円)で働き、毎月5万円を退職金に回した場合、年間の税金+社会保険料の合計は約48.7万円、5年間の総額は243万円ほどです。そして、65歳になって、毎月5万円ずつ貯めてきた退職金300万円をもらうとき、退職所得控除が利用できるのです。この例では、65歳時点の退職金にかかる税金の合計は7.5万円となります。また退職金を一時金でもらう場合、社会保険料はかかりません。これによって、手取りが70万円も増えるのです。
同様に、年収400万円で働いた場合と、年収300万円+退職金500万円で働いた場合の税額の違いは次のとおりです。
●「年収400万円」vs「年収300万円+退職金500万円」の税額
(株)Money&You作成
年収400万円よりも、年収300万円+退職金500万円のほうが、税額が95万円も減ります。つまり、手取りが95万円も増えるのです。
再雇用・再就職で働いて得た給与にも、税金や社会保険料はかかります。税金や社会保険料は基本的に、給与が多くなるほど高くなっていきます。そこで、毎月の給与の一部を退職時に回し、給与を抑えることで毎月の税金や社会保険料の負担を減らし、退職時には退職金に回したお金を、退職所得控除を生かしてもらうことで、税金・社会保険料を安くできる、というわけです。
会社に交渉してみよう
再雇用・再就職先の会社の制度によっては、給与の一部を退職時に回せない場合もあります。しかし、会社に交渉してみるのは悪いことではありません。給与の一部を退職金に回せば、自分の手取りが増やせるだけでなく、会社としても折半している社会保険料の負担が減らせるメリットがあるからです。再雇用・再就職先の会社での勤務スタート前に確認してみましょう。
ただし、給与の一部を退職金に回すと、社会保険料が減ることになります。社会保険料が減ると、その分厚生年金が減る影響があることには留意しておきましょう。
●年間で増える厚生年金の金額
(株)Money&You作成
表の縦軸は60歳以降の年収、横軸は60歳以降の年収となっています。今回は、60歳から65歳までの5年間、厚生年金に加入するので、5年の列をみます。
「年収300万円」が「年収240万円+退職金300万円」になった場合、厚生年金は年1.6万円程度減ります。同様に「年収400万円」が「年収300万円+退職金500万円」になった場合、厚生年金は年2.8万円程度減ります。
年1.6万円、あるいは年2.8万円減るのをどうとらえるかは、人により異なるでしょう。年金が減っても70万円、あるいは95万円をもらったほうがいいという人もいれば、年金が増えたほうがいい人もいるはずです。ご自身の状況に合わせて選んでいただくのがいいと考えます。どちらを選んだとしても、こうしたテクニックを知っておくと、手取りが増やせる可能性がある、という話ですので、ぜひご検討いただければと思います。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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