22/03/27
65歳と68歳で年金受取開始、もらえる年金はいくら違うのか
老後の収入の柱となる公的年金は、基本的に65歳から受け取るしくみですが、希望すれば60歳から75歳(2022年4月以降)の間で受け取ることができます。今回は、65歳から受け取った場合と、それから3年繰り下げて68歳から受け取った場合で、受け取れる金額の差がどのくらいなのかを紹介します。
年金の繰上げ受給・繰下げ受給の制度を確認
日本の公的年金には、国民年金と厚生年金があります。国民年金は、20歳から60歳までのすべての人が加入する年金です。一方の厚生年金は、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する年金です。原則として、65歳になると国民年金・厚生年金から老齢年金を受け取ることができます。
しかし、必ず65歳から受け取らなければならない、というわけではありません。公的年金は、60歳から70歳(2022年4月以降は75歳)の間の希望する時期に受け取りをスタートできます。64歳までに受け取ることを繰上げ受給、66歳以降に受け取ることを繰下げ受給といいます。
繰上げ受給・繰下げ受給をすると、受け取れる年金の額が変わります。
2022年4月以降、繰上げ受給をすると、1か月受給を早めるごとに、65歳から受け取れる年金額より0.4%ずつ減っていきます。60歳まで年金の開始を早めると最大で24%減額。本来受け取れる金額の76%になるのです。
反対に、繰下げ受給をすると、1か月受給を遅らせるごとに、65歳から受け取れる年金額より0.7%ずつ増加していきます。75歳まで年金の開始を遅らせると、最大で84%増額し、本来受け取れる金額の184%になるというわけです。
●年金の受給率(2022年4月以降)
(株)Money&You作成
「75歳まで10年繰り下げて84%増」のインパクトは、大きなものがあります。老後の年金を増やすためには、できるだけ繰下げ受給をするに越したことはありません。
しかし、年金を繰り下げている間は、もちろん年金が受け取れません。貯蓄しておく、働くなどして、その間の生活費を用意する必要があります。
また、繰下げ受給の「損益分岐点」はおよそ12年(11年11ヶ月)。繰下げ受給せずに65歳から年金を受給した場合と、75歳から繰下げ受給した場合を比べると、75歳まで繰り下げた人の年金の受給総額が65歳を上回るのは「86歳」のときとなります。
日本人の平均寿命は男81.64歳、女87.74歳(厚生労働省「令和2年簡易生命表の概況」より)。平均寿命は年々延びているとはいえあくまで平均です。「10年も繰り下げるのは厳しい」と思われる方もいるかもしれません。
65歳と68歳の年金額を比較してみよう
10年も繰り下げるのは厳しくても、3年だったらどうでしょうか。65歳からの年金を繰り下げて、68歳から受け取ることにすると、年金額はどのくらい増えるのでしょうか。
会社員の厚生年金には国民年金が含まれていますので、老後に国民年金と厚生年金の両方から老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を受け取ることができます。
国民年金は原則20歳〜60歳までの40年間、所定の国民年金保険料を支払えば、年収がいくらであろうと、誰もが満額が受け取れます。2022年度の満額は年77万7800円です。なお、保険料の納付月数が40年に満たない場合、その分受け取れる金額も減少します。
それに対して、厚生年金の金額は、おおまかにいうと「平均年収÷12×0.005481×加入月数」という式で計算できます。平均年収が高く、加入月数が多いほど、もらえる金額が増えます。
●国民年金+厚生年金の合計額
(株)Money&You作成
表は23歳から厚生年金に加入した場合に受け取れる、国民年金(満額)と厚生年金の合計額(年額)を示したものです。65歳未満の金額は、その時点で退職して65歳から年金を受け取った場合の金額を示しています。
仮に、65歳まで厚生年金に加入して平均年収が400万円だった場合、受け取れる年金額の合計(年額)は173.9万円となります。この年金を68歳まで繰り下げると、受け取れる年金は65歳時点の受給額より25.2%増加(125.2%になる)します。つまり、173.9万円×125.2%=217.8万円となります。
年額173.9万円の年金は、月額にするとおよそ14.5万円です。それが3年間の繰り下げによって217.8万円になると、月18.2万円に増加します。つまり、3年間の繰下げによって毎月の年金が3.7万円変わるというわけです。この差は大きいでしょう。
同様に、上の表の金額を使って、平均年収を変えて計算してみましょう。
●65歳と68歳の年金額の差は?
・平均年収200万円:125.9万円×125.2%=157.6万円(+年31.7万円、月2.6万円)
・平均年収300万円:151.3万円×125.2%=189.4万円(+年38.1万円、月3.2万円)
・平均年収400万円:173.9万円×125.2%=217.8万円(+年43.8万円、月3.7万円)
・平均年収500万円:193.7万円×125.2%=242.6万円(+年48.8万円、月4.1万円)
・平均年収600万円:219.2万円×125.2%=274.4万円(+年55.2万円、月4.6万円)
・平均年収700万円:244.6万円×125.2%=306.3万円(+年61.7万円、月5.1万円)
平均年収が高いほど、同じ「25.2%」でも増える金額が多くなっていくことがわかります。
なお、65歳以前に退職した場合も同様に、「ご自身の年金額×125.2%」で68歳時点の年金額がわかりますので、ぜひ計算してみてください。
68歳で繰下げ受給を開始した場合、受給額の合計が65歳受給の方を上回るのは79歳のときです。年金は保険であり、本来は損得で語るものではありませんが、79歳であれば「これなら繰り下げても大丈夫」と思われる方が多いのではないかと考えます。
まとめ
65歳から68歳まで、3年間繰下げ受給を行った場合に、年金額がどの程度増えるかを紹介してきました。10年間といわず、3年繰り下げるだけでも、年金の月額は2.6万円〜5.5万円も増えることがわかりました。繰下げ受給は年金を増やすのに有効な手段です。ぜひ利用を検討してみてくださいね。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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