22/03/07
年金で損しないために知っておきたい5つの数字
老後の暮らしを支えてくれる老齢年金、万が一障害を負ってしまったときにもらえる障害年金、一家の働き手が亡くなったときにもらえる遺族年金。これらの公的年金制度を支えているのが、国民年金や厚生年金です。そして、公的年金には覚えておくと役立つ、いくつかの「数字」があるのをご存じですか?ここでは将来年金の受給で損をしないために、ぜひ知っておきたい5つの数字をご紹介します。
老齢年金の受給額に関する数字
年金について気になるのは、将来どれくらいの年金が受け取れるのかという点かもしれませんね。そこで、老齢年金の受給額に関する、知っておきたい数字を2つご紹介します。
●①国民年金の満額受給額「月額64,816円(年額777,800円)」
20歳になると誰もが国民年金に加入し、60歳になるまで国民年金保険料を払い続けることになっています。そして、保険料を納付した期間が10年以上ある場合に、65歳から老齢基礎年金を受け取る資格が得られます。このとき、20歳から60歳までの全期間(40年)保険料を払い続ければ、満額の老齢基礎年金を受給することができます。
2021年4月からの満額は780,900円でした。しかし、物価と賃金の変動率がマイナスであることを受けた改定ルールに基づき、2022年4月からの満額となる老齢基礎年金額は2021年度より0.4%引き下げとなり、月額64,816円(年額777,800円)となります。
ただ、すべての人が満額の老齢基礎年金を受け取れるわけではありません。国民年金もしくは厚生年金の加入期間が40年に満たなければ、老齢基礎年金は減額されてしまうのです。(厚生年金保険の加入者は、同時に国民年金にも加入していることになっています。)
たとえば、大学に通う間は国民年金に加入していなかった場合。学生は十分な収入があるわけではないので、国民年金保険料を支払うことができない場合があるのではないでしょうか。そんな学生のために、在学中は保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」があります。これは老齢基礎年金を受給するのに必要な受給資格期間(10年以上)には含まれますが、年金額には反映されません。
また、経済的な理由で国民年金保険料を払っていない期間がある場合。未納期間は受給資格期間には含まれませんし、その期間に相当する分の年金額は減額となります。学生ではない人で保険料が払えないときは、国民年金保険料の「免除制度」もしくは「納付猶予制度」の手続きをしましょう。どちらも手続きをして承認されれば、免除期間・猶予期間は受給資格期間に含めることができます。ただし、免除制度の場合は免除の種類(全額・4分の3・半額・4分の1)に応じて年金額が減額になります。さらに納付猶予制度の場合は、その期間に相当する分は年金額に反映されません。
なお、老齢基礎年金をできるだけ満額に近づけるために、学生納付特例制度・免除制度・納付猶予制度を利用した期間の保険料は追納されることをおすすめします。
●②年金受給月額の平均「56,358円/146,145円」
65歳になると国民年金や厚生年金を受給できるようになりますが、どれくらい受け取ることができるのか気になりませんか?そこで、年金受給額の平均額を調べてみました。
厚生労働省が作成した「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2020年度での国民年金受給者の平均年金月額は「56,358円」でした。また、厚生年金保険を受給する人の受給者平均年金月額は「146,145円」となっています。これを見ると、自助努力で老後資金を貯蓄する必要性を感じるかもしれませんね。
とはいえ、貯蓄以外にもできることがあれば、受け取れる老齢年金を増やすことを考えてみてもいいかもしれません。
老齢年金の月額を増やす方法として検討できるのは、国民年金や厚生年金保険の加入期間を延ばすことです。
●老齢基礎年金を増やすためにできること
では、老齢基礎年金の額を増やすには何をすればいいのでしょうか?その方法の1つは、「任意加入制度」の利用です。
任意加入制度とは、以下の要件を満たすときに利用することができます。
・日本国内に住む60歳以上65歳未満の人
・国民年金保険料の納付月数が480月(40年)に満たないこと
・厚生年金保険に加入していないこと
・老齢基礎年金を繰上げ受給していないこと
60歳~65歳までの間に、任意加入で国民年金の納付月数を480月に近づけるとよいでしょう。
また、自営業者など国民年金の第1号被保険者や任意加入をする人は、国民年金保険料に付加保険料を上乗せして納めると、「付加年金」を受け取ることができます。付加保険料は月額400円で、「200円×付加保険料納付月数」が付加年金額となります。
●老齢厚生年金を増やすためにできること
老齢厚生年金を増やしたいときは、働く期間を延ばして長く厚生年金保険に加入することを検討してもよいでしょう。厚生年金保険は70歳まで加入できます。ただし、65歳以上も働き、同時に老齢厚生年金を受給するときは(これを在職老齢年金といいます)、場合によっては年金額の一部が支給停止となります。
支給停止が発生するケースは老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以上の場合です。47万円を超えた分の2分の1に相当する老齢厚生年金が支給停止となるので留意しておきましょう。
将来の年金収入の増減に関する数字
国民年金の加入者になると、60歳になるまで国民年金保険料を納め続けることになります。2022年度の保険料は月々16,590円となっています。しかし、生活に困窮して保険料が払えず放置していたり、自分の都合で滞納していたりすると、将来の生活を支える老齢年金が受け取れなくなる場合があります。保険料の未納期間があると老齢年金が減額されますが、後から払い込むことで減ってしまった年金を増額することも可能です。ここでは、年金収入の増減に関する数字を3つご紹介します。
●③国民年金保険料の時効「納付期限から2年」
国民年金保険料には納付期限があります。たとえば、4月に納めるべき保険料の納付期限5月末です。この納付期限から2年経過すると時効となって、その後は納付ができなくなり、将来受け取る老齢年金が減ってしまいます。けれども、納付期限を過ぎてから「2年以内」であれば納付が可能です。この場合、日本年金機構から自宅へ届いている納付書を使って納めることができます。もし該当する保険料がある場合は、2年以内に必ず払い込みましょう。
●④国民年金の免除・納付猶予制度を受けた場合の追納できる期間「過去10年以内」
経済的な理由などで国民年金保険料が納付できなくなっても、免除制度や納付猶予制度、学生納付特例制度などを利用すれば、老齢基礎年金の受給資格期間への影響は出ません。ただし、受け取れる老齢基礎年金は減額となってしまいます。そんなとき、追納制度を利用すれば、将来の年金額を増やすことができます。
国民年金保険料の追納制度は、保険料の免除・納付猶予制度、学生納付特例制度を受けている人が利用できる制度で、保険料を納めていない期間の追納が可能です。ただ、追納できる期間は「過去10年以内」となっています。また、2年前までの保険料は当時の保険料をそのまま払い込めばいいのですが、3年以上前の保険料については一定の加算額が上乗せされる点は留意しておきましょう。
追納する際は「国民年金保険料追納申込書」に必要事項を記入し、最寄りの年金事務所へ提出します。郵送による申し込みも可能です。申込書の用紙は日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
もし免除制度などを利用した場合は、「過去10年以内」を頭に入れておき、経済的に余裕ができたときに追納することをおすすめします。
●⑤老齢年金の繰下げ受給「最大84%増額」
老齢基礎年金と老齢厚生年金は65歳から受給できるようになりますが、受給開始年齢を繰り下げることができます。これを繰下げ受給といいます。
繰下げ受給のできる年齢は、これまでは66歳から70歳となっていました。けれども、2022年4月からは受給開始年齢の上限が75歳まで引き上げられます。受給開始年齢を繰り下げると、受け取れる年金額を増額することができます。
繰下げ受給の増額率は、次のように計算します。
◎年金の増額率=65歳に達した月から繰下げを申し出た月の前月までの月数×0.7%
年金を繰り下げると、1ヶ月につき0.7%増額が可能です。もし70歳まで繰り下げた場合の増額率は42%、75歳まで繰り下げた場合は84%となります。繰り下げは月単位となり、一度繰り下げると、決定した増額率は一生変わりません。
もし繰下げ受給をしたい場合は、66歳以降の希望するときに、65歳になる3ヶ月前に日本年金機構から届く「年金請求書」とともに「老齢基礎年金・老齢厚生年金 支給繰下げ申出書」を最寄りの年金事務所または年金相談センターへ提出します。
繰下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方を選択して繰り下げることも可能です。一方のみを繰り下げる場合は、65歳になる前に日本年金機構から送られてくる年金請求書とともに、日本年金機構のホームページにある「老齢年金の繰下げ意思についての確認書」を提出しましょう。
なお、繰下げ受給をして年金額が増えると、その分税金や社会保険料の負担が高くなる場合があります。また、加給年金(※1)や振替加算(※2)を受給できる場合、老齢厚生年金を繰り下げている間は加給年金が、老齢基礎年金を繰り下げている間は振替加算の支給が停止となります。さらに、繰下げ受給をしても加給年金額や振替加算額は増えないので注意しましょう。
(※1)加給年金
厚生年金保険に20年以上加入した夫が65歳に到達したとき(または定額部分の支給開始年齢に達したとき)、65歳未満の配偶者を扶養している場合に加算される年金。妻が65歳に達するまで受給できる。
(※2)振替加算
加給年金の対象で昭和41年4月1日以前生まれの妻が65歳になり夫の加給年金が打ち切りになったとき、妻の老齢基礎年金に加算されるもの。
まとめ
年金で損しないために知っておきたい5つの数字をご紹介してきました。ぜひ押さえておいていただくとともに、自分の年金をどう受け取るかを考えるときにぜひ活用していただければと思います。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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