22/02/15
公的年金は将来どのくらい減る可能性があるのか
日本の公的年金制度は納めた保険料に応じて年金が支給される社会保険方式なので、国が崩壊しない限り、制度自体はなくならないと考えられています。しかし、少子高齢化の影響により年金の支給額は今後も少しずつ下がっていく傾向にあると考えられるため、自身で将来の備えはしておく必要があるでしょう。
今回は、今の現役世代が受け取る公的年金は将来どのくらい減る可能性があるのか解説します。また、年金の目減りを含めて考える老後資金の対策についても紹介します。
将来、年金が目減りしていく可能性が高い
公的年金制度は、現在の現役世代が納めた保険料によって年金が支給される「世代と世代の支え合い」を基本としています。そのため少子高齢化が進む現代の日本においては給付水準を維持することが難しくなってきています。
少子高齢化にともない、現役世代の年金保険料が際限なく上昇してしまうことを防止するため、2004年に「マクロ経済スライド」という制度が導入されました。マクロ経済スライドは、現役人口の減少や平均寿命の伸びといった社会情勢に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するしくみです。
基本的に年金受給額は、物価や賃金に連動します。しかしこの方法では、少子高齢化が進むと将来もらえる年金が減ってしまいます。そこで、マクロ経済スライドによる調整を行うことで、年金受給額の上昇率を物価や賃金の上昇率よりも小さくするのです。
マクロ経済スライドによる調整は、物価や賃金による年金額の伸びから「スライド調整率」を差し引いて行います。たとえば、賃金(物価)上昇率が1.5%、スライド調整率が0.9%の場合、実際の年金の改定率は0.6%となります。
●調整期間における年金額の調整の具体的な仕組み
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」より
その結果、物価や賃金水準の上昇と比較して年金受給額が増えなくなります。「受け取る年金額」は減っていませんが、「受け取った年金額で買えるものの量」が減ってしまう「目減り」が進んでしまいます。
将来の年金は、どのくらい目減りしていくのか?
厚生労働省は、将来の年金がどの程度の目減りになるのかを5年に1度検証する「財政検証」を行なっています。2019年に行われた直近の財政検証では「所得代替率がどれくらいになるか」という観点で結果が公表されています。
所得代替率とは「年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か」を示すものです。例えば、所得代替率50%といった場合は、そのときの現役世代の手取り収入の50%相当を年金として受け取れるイメージです。
政府は、経済成長や人口の動向で6通りの所得代替率の試算をしています。
●ケース別将来の所得代替率
※所得代替率が50%を下回ることが予測される場合は、制度の再検討を行う趣旨の記述があるが、機械的に年金が目減りした場合の数値を記入
厚生労働省「2019年財政検証結果」より
現役世代は、現在の水準から3割減を覚悟しておきたい
ここで特に確認しておきたいのが「現在の水準よりもどのくらい年金額が減ってしまうのか」についてです。これは、「所得代替率が今と将来とでどれくらい変化しているか」が年金の目減り分に近いものだと考えれば、計算できます。
2019年時点の年金の所得代替率は61.7%なので、これを基準にして、各ケースでの年金目減り率(変化率)を計算したのが、以下の表です。
●ケース別年金目減り率(変化率)
厚生労働省「2019年財政検証結果」より
ケースⅠは、現在、日本銀行と政府が目標としているインフレ率2%を達成できたとした場合の水準のため、かなり高いハードルではないかと考えられます。そう考えると、ケースⅡ~Ⅵの範囲で年金が目減りしていく可能性が高いでしょう。
この目減りした分は、年金を受け取っている間、ずっと続きます。70歳、80歳と年を重ねていくにつれて、年金の目減りが進み、年金でまかなえる生活費が減っていくことになるのです。
現在40歳前後の方が60代になる2040年ごろには15%程度の目減り、80代になる2060年ごろには現在の水準から30%程度の目減りは覚悟しておかなければならないでしょう。
年金の目減りを補うための方法
年金でまかなえる生活費が減っていくため、ダウンサイジングをして老後の出費を抑える工夫はもちろん必要ですが、それだけでなく、現役世代の間に資産を増やして老後の準備をしておくことも重要です。
将来に備え資産を増やす手段としては、「つみたてNISA」や「iDeCo」といった長期の資産形成に有利な優遇制度を積極的に活用しましょう。また、自営業やフリーランスで国民年金のみに加入している方は、「付加年金」や「国民年金基金」という制度も利用できるので検討されても良いと思います。
また、このような制度を活用しても、なお資産額に不安があるのであれば、年金の繰り下げ受給も検討の余地があります。これは、年金を65歳で請求せずに66歳以降75歳までの間で申し出た時から繰下げて請求できる制度です。具体的には、1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されます。1年繰り下げると8.4%、10年間繰り下げると最大で84%年金額が増額されます(※75歳まで繰り下げることができるのは2022年4月より)。
つまり、65歳になっても働けるうちは現役時代と同様に働いてお金を稼ぎ、その数年間は年金を繰り下げることにより将来もらえる年金受給額を引き上げるといった方法です。
いざという時に備えて、このような選択肢もとれるように金銭面だけでなく、「より長く働ける身体づくり」といった健康面も意識して日頃からメンテナンスしておきたいですね。
まとめ
少子高齢化と低金利が続く今の日本では、年金が目減りしていくことは避けられません。そして、一度目減りすると、将来にわたって受け取る年金にも影響があります。だからこそ、老後の生活費は充分に余裕があるようにしておくことが大切です。
70才、80才になってから、このままでは生活費が不足してしまうと気づいても、どうすることもできません。今のうちから、「年金の目減りが大きく、かつ、平均寿命よりもかなり長生きした場合」でも、資産が底をつくことのない生活設計をしましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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