25/03/12
若者は本当に年金がもらえないのか

SNSなどでたびたび沸き起こる「将来、年金はもらえるのか?」論争。少子高齢化・人口減少が進むなか、年金をもらい始めるまで時間がある若者ほど、年金に対して不信感を持つのも無理はありません。果たして、今後ますます支給額が減っていくと噂される年金に明るい希望はないのでしょうか。そこで今回は、1994年度生まれと1959年度生まれの平均年金額も示しながら、若者の年金不信・不安に答える5つの注目ポイントを紹介します。
年金の基本的な仕組みを理解しよう
なかなか教えてもらえない年金の話。まずは、今回のテーマを理解するために知っておきたい、年金の基本的なポイントを3つ紹介します。
●亡くなるまでもらえる年金は2階建てでさらに充実
日本の公的年金は2階建ての構造です。保険料を納付した期間に応じて支給される1階部分の基礎年金に加えて、会社員や公務員などで厚生年金保険に加入していた人は、現役時代の賃金と厚生年金保険の加入期間に応じた2階部分の厚生年金が将来支給されることを、まずは押さえましょう。
<年金制度における保険料と将来の給付の関係>

筆者作成
●日本の年金は「賦課方式」でインフレにも強さを発揮
私たち現役世代が納めた保険料は、(一部運用する分を除いて)その時の年金受給者の年金給付に充てられます。逆に、私たちが将来もらう年金は、私たちより下の世代が納める保険料からまかなわれる形です。この「賦課(ふか)方式」と呼ばれる財政方式は、海外を含めて、公的年金制度を運営するほとんどの国で採用されています。
<賦課方式のイメージ>

厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」より
「世代間の仕送り」や「世代間扶養」、「社会的扶養」とも表現される賦課方式は、インフレや現役世代の給与水準の変化に対応しやすく、価値が目減りしにくい点が最大のメリットです。一方で、みなさんの多くは今、「少子高齢化・人口減少が進む日本で、賦課方式に希望を見出せるわけがない」と思っているところでしょう。
●将来世代のために給付水準を抑える「マクロ経済スライド」
年金制度については、少子高齢化・人口減少を見越した制度改革が、2004年からいち早く行われてきました。現役世代の負担に配慮する形で保険料(率)の上限が定められたのも、その一つです。そして、(国庫負担や積立金を含めた)限られた財源の中で、年金財政が100年にわたって均衡するよう、現在年金をもらっている人たちの給付水準も自動的に抑えられています。これが、「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みです。
若者の年金にある2つの希望
「将来世代のための調整はあっても少子高齢化で希望が見出せない」「将来支給されても金額が少ないかもしれない」などと、不安を持つ方も多いでしょう。しかし、若者の年金には大きく分けて2つの希望があります。
●若者の年金への希望(1):2024年までの5年間で年金財政の見通しがグッと明るく
2024年7月に公表された、最新の年金財政の健康診断(財政検証)結果では、「1人当たりゼロ成長」の経済ケースを除いて、所得代替率50.4~56.9%(2024年度:61.2%)の給付水準を今後100年確保できることが確認されました。経済が好調に推移しても50%ぎりぎり、経済が横ばいに推移した場合には、40%台になると見込まれていた前回(2019年)の検証から比べると、明るい兆しと言えるでしょう。
<年金給付水準の将来見通し(経済ケース別)>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果」より筆者作成
【注目ポイント①:女性や高齢者の労働参加で「支え手」が拡大】
年金財政が5年前の見通しより良くなった理由の一つとして、厚生年金保険の加入者数が5年前の想定より250万人増加したことが挙げられます。高齢者1人を支える現役世代(15~64歳)の数は、1980年が7.4人だったのに対して、2023年は2.0人。さらに、2070年は1.3人(中位推計)と変化していく日本社会の様子は、「胴上げ型(過去)→騎馬戦型(現在)→肩車型(未来)」とよく喩えられます。しかしながら、これはあくまで人口動態に基づく切り口にすぎません。
厚生年金保険には70歳になるまで加入ができるほか、逆に会社員や公務員等の配偶者に扶養されている第3号被保険者のように、現役世代とは言っても自身で保険料を負担していない人もいます。したがって、年金制度の支え手という意味では、「現役世代」よりも「就業者数」の方がより実態を表していると言えるでしょう。
そこで、就業率(15 歳以上人口に占める就業者の割合)を通して1980年と2023年を比較してみると、それぞれ62.0%と61.2%で、この約40年間あまり変わっていません。今回の財政検証でも、第3号被保険者の数が想定より61万人減少するなど、女性や高齢者の労働参加が年金財政にもたらしている効果は絶大です。
【注目ポイント②:堅調に推移する積立金の運用】
私たちが納めている保険料の一部は、国内外の株式と債券4資産に25%ずつを基本ポートフォリオに、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による積立金の運用が行われています。好調な市場環境も相まって、2023年度末時点における年金積立金は、前回の財政検証における見通しより約70兆円多い291兆円。これは、現在の水準では、約5年分の年金給付に必要な金額に相当します。
<2001年度以降のGPIF運用実績(2024年度第3四半期時点)>

GPIF「2024年度の運用状況」より
年金積立金は、保険料と国庫負担ではまかないきれない部分を補いながら、おおむね100年後に1年分程度の年金給付に必要な積立金が残る計画です。四半期ごとに公表される運用実績に一喜一憂することなく、長期的な視点でその推移を見守りましょう。
●若者の年金への希望(2):「平均年金額」は現在の65歳よりもアップ
年金不信の背景には、現在の高齢者より年金額が少なくなることに対する不安も見られます。その根拠としてよく使われる「モデル年金」は、「夫:40年就業」と「妻:40年専業主婦」からなる世帯の年金額を示すものです。このモデル年金は果たして、若い世代の実態を表しているのでしょうか。
「所得代替率」もまた、モデル年金額を現役男性の手取り収入で割った数字にすぎません。驚くべきことに、現在の物価で換算した1994年度生まれの男女の平均年金月額(合計)は、1959年度生まれより1.2万円高くなることが示されています。
<65歳時点における平均年金月額(世代別・男女別)>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②―年金額の分布推計―」より筆者作成
【注目ポイント③:若い世代ほど長くなる厚生年金保険の加入期間】
夫1人分の厚生年金と、夫婦2人分の基礎年金からなるモデル年金額の減少は、基礎年金に依存する世帯ほど、給付水準の低下による影響を受けやすいことを示す内容です。一方で、妻(女性)には厚生年金保険の加入歴がないことを前提とするモデル年金の想定とは裏腹に、加入期間が20年以上ある「厚生年金期間中心」の女性の割合は、1994年度生まれで71.6%(1959年度生まれは38.5%)まで上昇することが見込まれています。
<厚生年金保険の加入期間の変化見通し(世代別・男女別)>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②―年金額の分布推計―」より筆者作成
そして、厚生年金保険の加入期間が長くなることで、1994年度生まれの女性が将来もらう平均年金額は、月10~15万円が42.4%と最多になる見通しです。1959年度生まれの女性の42.0%が月7~10万円であることを考えると、厚生年金保険に長く加入することで自分名義の年金が充実するメリットはやはり無視できません。
<老齢年金の平均年金月額分布の変化見通し(世代別・女性)>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②―年金額の分布推計―」より筆者作成
【注目ポイント④:厚生年金保険のさらなる適用拡大で平均年金額もアップ】
厚生年金保険に加入できるのは、正社員の人ばかりではありません。パートタイムやアルバイト等の短時間労働者も加入できますが、現行では「週の所定労働時間が20時間以上」、「所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代や賞与等は含まない)」、「従業員数51人以上」すべての要件を満たす必要があります。
そこで注目を集めるのが、勤め先や働き方を問わず厚生年金保険加入の門戸を広げる、「適用拡大」の動きです。2025年に行われる年金制度改正では、週20時間以上働く約200万人が、今後新たに厚生年金保険の加入対象となる方向性が示されています。
<適用拡大200万人案による平均年金月額の変化>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②―年金額の分布推計―」より筆者作成
実際には2035年10月にかけて段階的に行われるものの、2027年10月に200万人を対象とする適用拡大を行った場合の平均年金月額の変化を上の表で示しました。1994年度生まれの平均年金月額(男女合計)は、現行制度からさらに約7,000円アップ。男性は、適用拡大で1959年度生まれの平均年金月額(14.9万円)を上回るようになります。
【注目ポイント⑤:経済が良くなれば平均年金額もアップ】
ここまで紹介してきた平均年金額の試算結果はいずれも、財政検証の経済ケースの中でも保守的な「過去30年投影ケース」に基づくものです。実は、1994年度生まれの平均年金月額を、経済が上向く「成長型経済移行・継続ケース」で試算すると、「過去30年投影ケース」よりも、男性で6.9万円、女性で5.7万円も上回ります。
<65歳時点における平均年金月額(経済ケース別・世代別・男女別)>

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②―年金額の分布推計―」より筆者作成
経済が好調に推移することで、年金財政のバランスをとるために行われている給付水準の調整も早く終わる見通しです。終了後は、現役世代の賃金や物価の伸びがダイレクトに年金額に反映されるため、50歳または40歳前後の人たちにとっても希望が持てる内容と言えるでしょう。その経済成長の果実を受け取るためにも、厚生年金保険に加入して働くメリットを改めて強調しておかなければなりません。
注目は「増え方」!若者にもおすすめの年金試算ツール活用法
将来自分はいくら年金をもらえるのか、その具体的な見込み額は、パソコンやスマートフォンからアクセスができる「ねんきんネット」や「公的年金シミュレーター」を使って、試算をすることができます。
しかしながら、年金の受給開始が20~40年先の若い人にとっては、平均額や見込額にピンとこないかもしれません。今後の年金制度改正や経済情勢によって、給付水準が向上もしくは下落する可能性もあります。
そこで若いみなさんが注目すべきは、年金額の「増え方」です。厚生年金保険の加入期間や賃金でどのように将来の年金額が増えていくのか、試算ツールを使うことでイメージがより具体的な形になることでしょう。とくに「公的年金シミュレーター」では、ねんきん定期便に記載されている二次元コードをスマホで読み取り、生年月日を入力するだけで利用可能。将来の年金額がどうなるか、働き方や給与が変わったらどうなるかがスライドひとつで感覚的にわかります。まずは、思い描くキャリアを試算ツールに反映して、モデル年金や平均年金額を超える一歩を踏み出してみませんか。
自分の未来をデザインする年金の新時代
今回は、「将来、年金はもらえるのか?」という若いみなさんの疑問に答える、5つの注目ポイントを紹介しました。モデル年金額や平均年金額が示す内容は、若者の年金不信や不安をさらに煽るものではありません。むしろ、厚生年金保険の適用拡大などにより、これまでの世代より多くもらえる可能性が広がるなか、どのように制度を活用するかが私たちひとり一人に問われています。
未来の予測があてにならないからこそ、年金制度は5年ごとに財政の健康診断を行い、社会や経済の変化に応じて、持続可能な仕組みへと進化を続けてきました。そんな年金の「今」に関心を持ち続けることは、資産形成やキャリア形成の土台となり、将来の選択をサポートしてくれることでしょう。2025年に行われる年金制度改正にも注目です。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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