22/03/05
「退職金+企業年金で老後は安泰」は大間違い? 7つの落とし穴に要注意
企業から退職した際に受け取る退職金は、多くの人にとって人生で手にする最大級の大金です。「会社を定年退職したら、退職金と企業年金でのんびり過ごす」そんな老後のイメージを思い描いている方も多いと思います。
ですが、自身が受け取る退職金の金額をしっかりと把握している方は少数派。「定年になれば退職金がもらえるだろう」と、安易にたかをくくっていると、大変なことになるかもしれません。今回は、退職金や企業年金にまつわる7つの落とし穴をご紹介いたします。定年が近づいてから慌てないよう、今から退職金についての理解を深めておきましょう。
退職金の種類は大きく4つに分けられる
そもそも退職金とは、会社を退職する際に勤めていた会社から支払われるお金のことをいいます。定年退職の場合だけでなく、定年前に退社した場合でも退職金を受け取ることができるケースもあります。
退職金制度は、退職金の受け取り方や準備の仕方によって複数の種類があり、会社によってどの方法を採用しているかも異なります。
主な退職金制度の種類を、以下の表にまとめました。
●退職金制度の種類
筆者作成
このように、ひとくちに退職金といってもさまざまで
①退職金をどのように受け取るのか(一時金形式か、年金形式か)
②会社が退職金をどのように準備するのか(独自に用意するのか、外部機関を利用するのか)
によって、もらえる退職金の種類が異なります。
また、退職金は上記のうちいずれか1種類とは限らず、会社によっては退職一時金制度と企業年金制度の両方を併用している会社もあるなど、退職金の支払い方法はさまざまです。
退職金を受け取る予定がある40代の7割強が「金額を把握していない
日本FP 協会が過去に全国の20代〜70代の男女1200人に対して実施した調査によると、自分が将来受け取る退職金についての認識は、以下のような結果となっています。
●退職金を受け取る予定があるか
日本FP協会「世代別比較 くらしとお金に関する調査2018」より筆者作成
まず、退職金を受け取る予定があるか聞いたところ、「受け取る予定がある」は36.8%、「受け取る予定はない」 は 63.3%で、退職金の受け取り予定がないという人が多数派となりました。
●退職金の金額をどのくらい知っているか(年代別)
日本FP協会「世代別比較 くらしとお金に関する調査2018」より筆者作成
また、退職金を受け取る予定があると回答した人に、自身が受け取る退職金の金額をどのくらい知っているかの意識調査では、年代別にみると、20 代から 40 代で『把握している』方は3割にも満たないことが分かります。このままでは、会社を辞めたとき、あるいは定年まで働いたときにもらえる退職金についてこんなはずではなかったと後悔することにもなりかねません。
それだけではありません。退職金や企業年金について把握していないと、次のような落とし穴にはまってしまう可能性もあるのです。
退職金や企業年金にまつわる7つの落とし穴
●退職金・企業年金の落とし穴1:退職金制度自体がない会社も存在する
退職金制度は法律で決まっているわけではないため、退職金がもらえるかは企業によって異なります。厚生労働省の統計によると、従業員数が多い会社ほど退職金制度を導入している傾向にありますが、それでも100%ではありません。従業員数が1000人を超える大企業でさえも、7.7%の会社は退職金制度を用意していないことから、会社によって導入状況は千差万別だということがよくわかります。
【退職金制度の導入企業割合(企業規模別)】
厚生労働省「就労条件総合調査」より筆者作成
退職金制度がない場合、老後生活に影響するだけでなく転職活動をする際にお金に困ることもあります。自分の勤めている会社に退職金制度があるかどうかは、就業規則の退職金規定や労働契約書で確認することができます。
●退職金・企業年金の落とし穴2:退職金制度があっても、給付要件を満たさなければもらえない
自分の勤めている会社に退職金があったとしても、まだ安心はできません。企業によっては「勤続年数が○年以下の場合は退職金の支払いはなし」と規定を設けていることもあるため、就業規則の内容を確認する必要があります。
会社によっては、雇用形態によってそもそも退職金制度の加入対象外だったり、一定の勤続年数を満たさないと退職金の積立が開始されなかったりするケースがあります。また、退職金は退職理由も大きく影響することがあり、自己都合だと少なくなり、想定していた金額より少なくなる傾向があるようです。
退職金を必ず受け取りたいという方は、
・契約社員やパート・アルバイトでも対象になるのか
・勤続年数などに一定の制限はあるのか
・退職理由(自己都合か会社都合)などにより違いはあるか
など、就業規則の給付要件を前もって確認しておきましょう。
●退職金・企業年金の落とし穴3:ポイント制導入により、同期入社でも退職金の格差は広がる
従来の退職金額は「退職時基本給×勤続年数×退職事由別係数(自己都合もしくは会社都合)」という数式で算出され、入社年次が一緒であれば、ほぼ同じ退職金をもらうことができました。しかし、今では勤続年数など年功ではなく、社員の等級・職位や業績を反映した成果型のポイント制退職金制度を導入する企業が増えてきています。
ポイント制退職金制度とは、社員の等級・職位や業績により、退職時までその都度ポイントが累積される仕組みです。したがって、同期入社でも、どのように会社で過ごしてきたかにより受け取れる退職金の金額は大きく変わってきます。そのため、ただ単に勤続年数が長いからという理由だけで安心していると、退職金額は期待はずれに終わってしまう可能性が高いのです。会社の制度を確認する際は、退職金制度の有無や種類だけでなく、どのような計算方法になっているのかも確認しておきましょう。
●退職金・企業年金の落とし穴4:企業年金がある会社は3分の1以下
退職金制度は、会社によって制度内容も異なります。会社の業績が思わしくないと、企業の退職金制度を維持するのにも限界があります。企業年金のある会社は、5年間で34.2%から29.1%と約5%も減っており、減少傾向にあることがわかります。逆に、「一時金のみ」の会社は約5%増えています。運用の手間やリスクを考えて、退職金制度を「一時金のみ」にする会社が増加している様子がうかがえます。
【導入している退職金制度の組み合わせ】
厚生労働省「就労条件総合調査」より筆者作成
またもう一つの背景に、制度改正があります。中小企業向けの適格退職年金制度が2012年に廃止されました。もう1つの厚生年金基金も、解散やほかの企業年金への移行を促す法律が2014年に施行されました。本来であれば別の年金制度に移ることになるのですが、積み立て不足や資金不足もあって、企業年金自体をやめる中小企業が増えたのです。これは、社員にとっては定年後に受け取るはずの年金給付の約束がなくなってしまうことになります。退職後の生活のためにも、制度を一度確認して終わるのではなく、規程に変更がないかを定期的に確認することも大切です。
●退職金・企業年金の落とし穴5:企業年金があっても、「確定拠出年金」かつ「有期払い」が主流に
少し前までの企業年金といえば「確定給付年金」が中心でした。これは、「毎月一定の金額が天引きされ、会社側が運営して、約束した利率を載せた上で、退職後に一定期間給付する」という、夢のような制度です。しかし、超低金利時代の現在、そんな運用は極めて難しくなっています。運用がうまくいかない分は、会社側が身銭を切って支出することになるので、大きな負担となってしまいます。
そのため、企業年金制度を廃止しなくとも、制度の内容を変える会社が増えてきています。企業年金を準備するための制度を種類別に見ると、5年前の2013年に一番多かった「厚生年金基金」が大きく減っています。厚生年金基金は、前述のとおり、制度が廃止され、移行時期にあるため、大きく減っているのです。
【導入している企業年金制度の種類】
厚生労働省「就労条件総合調査」より筆者作成
厚生年金基金が減った分は、利回りが決まっている「確定給付年金」と、積み立てる金額だけ決まっていて運用を指図する必要がある「確定拠出年金」に向かいました。
しかし、先ほども紹介したように、「確定給付年金」は、運用がうまくいかなかった場合は、企業の責任となります。そのため、企業側が極力リスクを避けるため「確定拠出年金」を選択する企業の方が多くなっています。
また、企業年金の受け取り方も有期年金がほとんどで、終身年金を選べるケースは少なくなっています。低金利の長期化で年金原資が増えないにもかかわらず、長寿化により終身年金を支払うだけ多額の資金を準備するともなれば、年金財政はますます火の車になってしまうためです。多くの場合、10年、15年など受け取る期間を決める有期年金を採用しています。公的年金と違い、一生もらえる年金ではないので、老後の資金計画を練る際はその点も十分に考慮しておきしましょう。
●退職金・企業年金の落とし穴6:受け取り方によって手取り額が異なる
退職金は、定年後の生活を支える意味合いが強いことから、税制面で優遇があり、非課税枠が大きいことも特徴です。簡単に言うと、勤続20年までは年間40万円、それ以降は年間70万円ずつ退職金の控除枠が増えていく仕組みになっています。しかも、税金がかかる対象は、退職金から控除額を差し引いた金額の2分の1のみです。
ここで注意すべきなのが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておくことです。この書類の提出をうっかり失念した場合、退職所得控除枠が一切使えず、退職金総額に直接、所得税率が掛けられるため手取り額は大きく減ることになってしまいます(なお、確定申告することで払い過ぎになった税金は還付されます)。
また、受け取り方による手取り額の違いがあることも注意が必要です。退職金は一括受け取るよりも、一部を企業年金として受け取る方が、運用益が付加されるため受け取り総額は多くなるように思いがちです。しかしながら、年金として受け取る場合は「雑所得」となるため、一括で受け取る場合の優遇措置がありません。そのため、良かれと思って年金受け取りにしたつもりが、実際の手取り額は一時金を下回ってしまうことが多くなってしまうので注意しましょう。
●退職金・企業年金の落とし穴7:以前勤めていた会社の企業年金は忘れずに申請を
解散した厚生年金基金の原資などを引き継いでいる企業年金連合会によると、2021年3月末時点で企業年金の未請求者がなんと116.6万人もいるそうです。その半分以上が、「請求書不達者」で占められています。これは、受給年齢が近くなると企業年金連合会が、受け取れる年金の存在を郵送でお知らせしますが、その案内自体が届かない方が多くいるのです。
そもそも会社を退職後、転居して住所が変わったとしても、昔勤めていた会社に住所変更の届出をする事はまずないでしょうから、会社側としても連絡の手段が途絶えることになってしまいます。せっかく企業年金連合会が、受け取れる年金の存在をお知らせしても、住所がわからず郵便物が戻ってきてしまっているのは、非常に残念な話です。もし過去に勤めていた会社に企業年金(厚生年金基金)があった場合、あるいは、よく分からない、記憶があいまいでよく覚えていないという方も、その会社や企業年金連合会に直接問い合わせてみて下さい。
まとめ
会社にお勤めの方なら、自社の退職金制度を確認することは当然の権利です。もし「自社の退職金制度がよくわからない」という場合は、会社の人事や総務担当に聞いてみたり、社内のイントラネットなどで「退職金規程」を確認したりして調べてみましょう。会社に確定拠出年金がなければ、個人型の確定拠出年金であるiDeCoで運用することも併せて検討するなど、自分で将来受け取る年金の仕組みを作ることもできます。ぜひ、将来への備えの参考にしてくださいね。
【関連記事もチェック】
・貧乏夫婦のお金に共通するヤバイ10のポイント
・「老後破綻」の可能性を高めてしまう6つの残念な行動
・「老後破綻」を防ぐ定年前の支出の見直し5つのポイント
・老後資金はいつから貯めはじめるのが正解? 50代からでは間に合わないのか
・老後の賃貸住まい、年金だけで家賃を払っていけるのか
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう