21/12/25
老後の賃貸住まい、年金だけで家賃を払っていけるのか
「年金だけでは暮らせない…」。そうした老後の不安を大きくしたのが、金融庁の「老後資金2000万円不足」の報告書でした。しかしこの結果に対して、自分は質素な生活をしているから大丈夫と言い切れない事情があります。中身をよくみると、思わぬ誤算が生じる可能性もあるのです。
今回は、老後の住まいとして賃貸を続けていく場合には、どんなことを考慮に入れておくべきかを解説していきます。
平均年金月額はいくら?
まだ年金を受給するまでに期間がある人なら、将来自分がどれだけ年金をもらえるかが気になるところでしょう。厚生労働省の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、平均年金月額は厚生年金保険で14万6162円、国民年金で5万6049円という結果が出ています。国民年金を満額納めた場合には、2021年度(令和3年度)は月額6万5075円(年額78万900円)もらえることになっているので、国民年金でも平均では満額より9000円ほど少ない金額になっています。
もちろん働き方によって、人によっては平均月額より年金が多い人もいれば、少ない人もいます。しかし、年金をもらう前の50代といえば、現役時代でも収入が一番多いとき。一転して年金生活となれば、生活をダウンサイジングする必要に迫られます。現役時代と年金をもらう頃の定年後の収入のギャップは、想像以上にキツイものがあります。
高齢夫婦世帯の高齢独身世帯の家計収支はどうなっている?
次に65歳以上の暮らしぶりを、総務省「家計調査年報(家計収支編)2020年」を夫婦のみの無職世帯と単身無職世帯の場合とに分けて見ていきましょう。
●65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支(2020年)
家計調査年報(家計調査編)2020年結果の概要より引用
夫婦無職世帯の場合には実収入25万6660円、このうち年金は約22万円。収入から税金や社会保険料を差し引いた可処分所得は22万5501円です。住居費は1万4518円となっています。夫婦世帯の家計収支は、約1100円の黒字になっています。
●65歳以上の単身無職世帯の家計収支(2020年)
家計調査年報(家計調査編)2020年結果の概要より引用
一方、単身無職世帯では、実収入13万6964円で、そのうち年金収入は約12万2000円です。可処分所得は12万5423円となっています。住居費は1万2392円かかっています。さらに単身世帯の場合には、毎月7723円が不足分として赤字になっているので、おひとりさまになった場合には、よりシビアな経済状況になります。
高齢者では、5人に1人の割合で一人暮らしになっているという2020年国勢調査の結果も発表されており、他人事では済まされない現実があります。
この統計結果で注意したいのは、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の場合の持家率が、93.1%と多いことです。老後2000万円問題の提起された「高齢社会における資産形成・管理」の報告書の中でも用いられているデータは家計調査年報(2017年)をベースとしています。月に約5万円程度資金が不足するので、30年では約2000万円老後の生活費が足りないという内容でした。もともと賃貸住まいを前提にした金額ではないので、老後も賃貸に住み続ける場合には、住宅の賃貸料を見込んだ収支計画を考えておく必要があります。
賃貸に住み続ける場合の住居費の考え方
借家(専用住宅)の賃料は、総務省「平成30年住宅・土地統計調査」を参考にするとよいでしょう。首都圏や地方では、家賃相場に大きな開きがあります。1か月あたりの家賃・間代の全国平均は5万5695円となっています。都道府県別では、東京都が最も高く8万1001円で、最も低い鹿児島県(3万7863円)の2.1倍になっています。1畳あたりに換算すると東京都は5128円で、最も低い青森県(1882円)にくらべて2.7倍です。あくまで参考ですが、賃貸に住み続けるとすれば、お住まいの都道府県の家賃データを参考に、住居費を見積もる必要があります。
●借家の1か月当たり家賃・間代―都道府県(2018年)
※総務省統計局「統計Today No.152」より引用
先ほどの家計調査年報(家計収支編)2020年に当てはめてみます。
たとえば東京都の賃貸物件に夫婦で住むのなら、住居費を1万4518円から8万1001円とし、支出金額を6万6483円増やす必要があります。先ほどの統計では、高齢夫婦世帯は家計収支において黒字だったものが、賃貸住宅に住むことで1か月に6万5373円の赤字が発生することになります。
25万6660円(実収入)-3万1160円(非消費支出)-290873円(消費支出)
=-65373円
借家の賃料の全国平均額も、前回調査の平成25年とくらべると平成30年では3%増になっています。仮に60歳から90歳までの30年間賃貸物件に住むとなると、賃貸に必要な金額も膨らむため、家賃を抑えるために小さく暮らす工夫が必要になるでしょう。
老後も賃貸住まいを希望する場合に取るべき方法
年金生活になって、年金だけで家賃を払っていけるかというと、かなり厳しいという結果になります。特に単身世帯になると、収入を1人でまかなう必要があるため、支出における家賃の割合が高くなってしまいます。
資金面では、若いうちから将来を想定して、住宅を購入した場合かかる費用と賃貸住まいをした場合の差額にあたる金額を運用しながら積み立てておきましょう。こうすることで、生涯賃貸暮らしをする費用にあてることができます。iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどを利用して、コツコツ貯めていきましょう。
また、地方に移住して、生活費や家賃を下げることも方法の一つです。気候が温暖で物価が安い沖縄県に移住する人が増えています。自治体の中には、過疎対策として給付金や住宅の支援を行っているところもあります。地方でなくても、都市部から郊外へ引っ越すだけでも家賃を下げることができます。
さらに働く環境に恵まれている人なら、元気なうちはできるだけ働き続けることで、実収入や年金を増やす選択肢を選ぶことも可能でしょう。
最近の賃貸住宅の高齢者への取り組み
賃貸住宅は、ライフスタイルの変化に合わせて住まいを選べる反面、家賃を払い続けなければなりません。また高齢者になると、一般的に新規で賃貸契約を結ぶことが難しくなります。
一方で子どもの独立や配偶者の死亡を機会に、持ち家から賃貸住宅に住む人も増えてきました。高齢者の孤独死のリスクに対応するため、遺品処理や家賃損失補償の保険なども発売されていて、賃貸住宅を借りやすくする業界の動きもあります。
賃貸は、住まいを維持するコストはかからないとしても、家賃がかかり続けます。老後の家計の収支のバランスを確認して、住宅費の負担に耐えられるように資金計画をしましょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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