20/08/03
ジェネリック医薬品のほうが高くつく? 新薬との価格差を徹底比較
病院や調剤薬局等の医療機関で「ジェネリック医薬品」という言葉を耳にする機会は多いのではないでしょうか。
「新薬より安い」「効き目は同じ」と言われる「ジェネリック医薬品」ですが、「なぜ新薬より安い値段で同じ効き目の薬を飲むことができるのか?」、「どのくらい安いのか?」と気になることでしょう。
今回はジェネリック医薬品の概要や安さの理由、新薬との差額等について見ていきましょう。
新薬(先発医薬品)とジェネリック医薬品の違いとは? どうして安い?
ジェネリック医薬品とは、新薬(先発医薬品)と同じ有効成分を使用した医薬品で新薬の特許が切れた医薬品であることから、後発医薬品とも呼ばれます。
新薬の研究・開発には9~17年程度の年数と数百億円の費用がかかるため、はじめて私たちの手元に届くときは比較的値段が高めになることが多いのです。
一方でジェネリック医薬品は、新薬の特許が切れた後の医薬品ですので研究・開発費がかからず、新薬より安い値段となっています。
「新薬より安いなら効果も劣るのでは?」とお考えの方もいらっしゃるでしょうが、ジェネリック医薬品は厚生労働省が定める十数種類の試験をクリアし承認を経て始めて市場に出回ります。また新薬の特許は20~25年ですが、その間患者さんが同等の主成分が入った医薬品を飲み続けていますので、ある程度の安全性は担保されていると言えるでしょう。
また新薬が出た頃より製剤技術が進化し、味を改良したり、錠剤を口の中で溶けやすくしたりなど、工夫をしている企業も存在します。
ただし、新薬とジェネリック医薬品は、主成分は同等ですが、特許の関係で添加物が違うため中にはアレルギーを起こす方もいらっしゃいます。また「ジェネリック医薬品は効かない、効き目が劣る」と思っている方が飲むと、効き目に影響を及ぼす可能性があります(プラセボ効果)。
最近は添加物も新薬と同じである「オーソライズドジェネリック」というジェネリック医薬品も存在しますので、アレルギーを持っている方や一度試してみて合わなかった方は一度医療関係者に相談してみましょう。
ジェネリック医薬品に関する加算制度について
薬局で「ジェネリック医薬品にしませんか?」と声を掛けられる機会は多いかと思います。
厚生労働省では高齢化社会に伴い年々増加する医療費を削減するためジェネリック医薬品の使用促進を呼びかけています。
その政策の一環として、病院・クリニックや調剤薬局でジェネリック医薬品を処方すると診療(調剤)報酬という医療機関の収入源となる点数(1点=10円)が加算されます。
また、調剤薬局では「後発医薬品調剤体制加算」という名称で、薬局内の医薬品におけるジェネリック医薬品の占める割合に応じて点数が加算されます。病院やクリニックでは最大47点、調剤薬局では最大28点が加算されます(2020年4月現在)。そのうえ、調剤薬局では全体の医薬品の中で新薬からジェネリック医薬品への置き換えが40%以下の場合2点減算される仕組みとなっています。
新薬をジェネリック医薬品に置き換えた方が医療機関の収入が増える事や厚生労働省で使用促進されていることから、「ジェネリック医薬品にしませんか?」と呼びかけられるのです。
ただしあくまでどちらの医薬品を選ぶかは患者個人の価値観です。「医療費削減には繋がるが、どうしても不安」という方や「以前服用したが体に合わなかった」という方は断ったほうが良いでしょう。
ジェネリック医薬品と新薬の差額はどのくらい?
ジェネリック医薬品と新薬ではどのくらい値段が違うのでしょうか?
医薬品の値段は、厚生労働省で定められた薬の値段である「薬価」が基準となりますが、調剤薬局で薬をもらう場合、薬局により「調剤基本料」「後発医薬品調剤体制加算」が違います。また処方日数、頓服といった薬の飲み方でも点数が異なります。よって薬価だけで差額を判断する事はできず、ジェネリック医薬品のメーカーによっても薬価が異なります。そして薬価によっては「後発医薬品調剤体制加算」によりジェネリック医薬品の方が高くなってしまうケースも存在します。
2019年時点で「後発医薬品調剤体制加算」を行っている調剤薬局は約67%ですので、ジェネリック薬品を希望した場合、約3分の2以上のケースで点数が加算されることになります。
調剤薬局では「後発医薬品調剤体制加算」は15~28点で、調剤薬局にジェネリック医薬品の占める割合が多い方が加算される点数が高くなります。
ですから、あくまで参考までですが、ここでは、風邪で処方される機会の多い薬と、30~40代に多い高血圧や高脂血症等の医薬品について先発医薬品とジェネリック医薬品の薬価の差を比較してみましょう。
●風邪薬の比較
風邪で処方される医薬品には総合感冒剤や解熱鎮痛剤、去痰剤(たんを切り出しやすくする薬)があります。1日3回の薬を7日間処方されるケースで比較してみましょう。
・総合感冒剤
先発医薬品とジェネリック医薬品の差額は0.2円なので、1日3回を7日間処方されても4.2円となります。
「後発医薬品調剤体制加算」は最低でも15点(150円)加算されます。3割負担の方でも50円加算されますので、加算対象の薬局に行った場合、先発医薬品の方が安いという結果になります。
・解熱鎮痛剤
薬価は115.5円、ジェネリック医薬品の方がお得になる結果となりました。「後発医薬品調剤体制加算」が多めの薬局では逆に高くなってしまう可能性があります。
・去痰剤
薬価は約59円、ジェネリック医薬品の方がお得になる結果となりました。こちらも、「後発医薬品調剤体制加算」の薬局では、ジェネリック医薬品の方が逆に高くなってしまう可能性があります。
●高血圧・高脂血症等の薬
続いて30~40代の方が生活習慣病として服用する機会の多い高血圧症、高脂血症(脂質異常症)のお薬で使用頻度が高い薬を例に差額を計算してみましょう。
双方とも1日1回30日分で処方されるケースで試算します。
・高血圧の薬
薬価は684円、ジェネリック医薬品の方がお得になる結果となりました。
「後発医薬品調剤体制加算」の薬局でも、ジェネリック医薬品の方が数百円安くなる可能性があります。
・高脂血症(脂質異常症)の薬
薬価は1,020円、ジェネリック医薬品の方がお得になる結果となりました。
「後発医薬品調剤体制加算」の薬局でも、ジェネリック医薬品の方が500円以上安くなる可能性があります。
薬価は2020年までは2年に1回、2021年より1年に1回改定され、年々下がっていきます。
古くからある医薬品ほど新薬・ジェネリック医薬品共に安いため、差額が少ない傾向にあります。
PL配合顆粒やムコダイン錠等昔からある薬は差額が少なく、クレストール錠のように比較的新しい薬は差額が多くなります。
また、医薬品によっては様々な事情により新薬が存在しない医薬品があります。たとえば、ビタミンB12製剤として手先・足先のしびれに用いられることが多く整形外科等でよく処方される「メチコバール」という薬は、先発医薬品が存在しません。こうした医薬品の場合は、自動的に「後発医薬品調剤体制加算」が加算されることになります。
まとめ
新薬が安くなるか、ジェネリック医薬品が安くなるかは、薬の種類によって異なります。風邪薬は上記の比較通り差額は少ないと予想されます。
鼻水やくしゃみが止まらない時に処方されるアレルギー系の医薬品では比較的差額が大きいですが、生活習慣病などの慢性疾患と違い飲む機会が少ないため、年間でも数百円程度安くなる程度でしょう。場合によってはジェネリック医薬品の方が高くなってしまうケースもあります。
高血圧症、高脂血症(脂質異常症)など生活習慣病のお薬では、年間数千円以上安くなる可能性があります。生活習慣病など慢性の病気がある方はジェネリック医薬品を選ぶとお得なケースが多いでしょう。
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田中あさみ ファイナンシャルプランナー(AFP)
大学の経済学部在学中にファイナンシャルプランナー(AFP)の資格を取得。
卒業後は製薬会社の営業を始め医療系の仕事に携わる。MR認定資格(医薬情報担当者)、簿記3級保有。記事を通し、女性に役立つ情報や金融リテラシー向上を目指しライターとして活動中。田中あさみのブログ
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