20/11/07
私立中学校に通うために世帯年収はいくらあれば足りるのか
「家庭の経済事情が許すならば、かわいい我が子には良質な教育環境を与えたい」
親がそう願うのはごく自然なことです。少子化が加速する近年はその傾向が顕著で、誕生する子供の数こそ減ってはいても、私立中学校に通う生徒数は年々微増しています。それでは、中学受験には一体いくらお金が必要なのか。そして、その支出に耐えうる世帯年収はいくらなのかを見ていきましょう。
少子化でも私立中学校への進学を希望する生徒は多い
文部科学省「令和2年度学校基本調査」によると、中学生の数は全国で約321万1千人と前年度より約7千人減少しており、過去最少人数となっています。しかし、そのうち私立中学校に通う生徒数は約24万人で、こちらはわずかながら増え続けています。
●中学校の在学者数
文部科学省「令和2年度学校基本調査」をもとに作成
中学受験にかかる費用はどのくらい?
中学受験を目指す子供は通常、塾や家庭教師を利用します。塾の場合、遅くとも小学校4年生からで、毎月の塾代はおよそ4万円。5年生時は5~6万円、6年生時は8~10万円と学年が上がるにつれてその費用も上がっていきます。他にも季節ごとの講習や合宿・公開模試などがあり、小学校卒業までの3年間にかかる塾代の総額は平均200万円と言われています。さらに通塾のための交通費・文房具や参考書・塾への行き帰り時の飲食費などが別途必要になります。
現在、検定料(受験料)は2〜3万円としている中学校が多く、複数校を受験するとなるとその分の費用がかさみます。そして合格すると、ほどなく平均20~30万円ほどの入学金を納めなければいけない学校が多いのが実状です。第一志望の中学校の合格発表前に滑り止め校の入学金納入締め切り日があったので、泣く泣く納めた、というのはよくある話です。
初年度納付金平均額は約97万円。高い学校だと189万円にもなる!
人口、私立中学校の数ともに全国一である東京都の例で見ていきましょう。
東京都にある私立中学校の令和2年度の初年度納付金の平均額は約97万円で、前年度に比べて約1万円(約1.1%)増加しています。
初年度納付金に含まれるのは授業料、入学金、施設費及び学則上のその他納付金です。
●各費目の平均額
東京都「令和2年度都内私立中学校の学費の状況」より
上の表で分かるように、学費だけでほぼ100万円になります。
なお、初年度納付金の最高額がなんと約189万円にもなる中学校もある一方、最低額は約55万円という中学校もあります。学校によってその差が大きいようです。
そして下の表から、初年度納付金平均額は毎年わずかながら値上げをしていることが分かります。
●初年度納付金(総額)平均額の推移
東京都「令和2年度都内私立中学校の学費の状況」より
●学校種別・公立私立別学習費総額合計の推移
文部科学省「平成30年度子供の学習費調査の結果について」より
さらに、文部科学省「平成30年度子供の学習費調査の結果について」によると、保護者が支出した1年間・子供一人当たりの学習費総額(保護者が子供の学校教育及び学校外活動のために支出した経費の総額)は平均約140万円となっています。(約421万円÷3年間=140万円)つまり、学費以外にさらに上乗せで年間40万円ものお金が必要というわけです。
私立中学校に通うために必要な世帯年収は最低1,000万円?!
ここまで見てきただけでも、子供を私立中学校に通わるのには相当な費用がかかることが分かりますね。では、世帯年収がいくらあれば通わせることができるのでしょうか。
たとえば、次のような世帯の場合はどうでしょうか。
【ある世帯の例】
夫45歳(会社員)・妻44歳(専業主婦)・長女(13歳)
年収800万円・マイカー所有・住宅ローン支払いあり
年収が800万円の場合、社会保険料や税金が引かれると、手取り収入はおよそ600万円になります。長女が私立中学校に入学した年の家庭の年間収支を表にしてみると、以下のようになります。
(各項目の支出は概算。教育費は前述の学習費総額140万円を使用)
年間の手取り600万円に対して、年間支出の合計は710万円ですので、110万円もの赤字になってしまいます。
仮に年収が1,000万円ならば、手取りがおよそ750万円になります。同じ支出だった場合、収支は40万円ほどプラスにはなりますが、エアコンのように高額な家電製品が故障するなど、急な出費があった時にはそのわずかなプラスさえも消えてしまう可能性があります。そうすると全く貯蓄ができない状態に陥るだけでなく、下手をすれば赤字に転落です。
しかもこの例では子供が一人の想定ですので、子供の人数に比例して各項目の支出がかさむことは言うまでもありません。
もちろん、奨学金や教育ローンといった選択肢も、ないわけではありません。しかし、それらに頼らず私立中学校に通わせるなら、年収1,000万円で何とか私立中学校に通わせることは叶いそうです(子供が一人の場合)。
けれども、その先に高校・大学進学を控えていること、ゆくゆくは夫婦の老後資金の準備も必要なことを念頭に置いて、綿密な計画を立てることが大切です。
どうやって教育費用を準備すれば良いのか
年収が1,000万円ある世帯であっても、収入源を夫または妻のどちらか一方に頼っていると、子供が大きくなるにつれてさらに教育費がかさみ、家計を圧迫するようになっていきます。余裕を持たせるためには、夫婦揃って働くことが望ましいですね。
また、子供が生まれたらできるだけ早いうちから教育資金の準備に取り掛かりましょう。支給される児童手当は生活費で使ってしまったりせずに、勤務先の財形貯蓄制度があれば利用したり、自動積立定期預金で管理したりするのも良いでしょう。
また、多少のリスクを取れるのであれば一般NISA(ニーサ)・つみたてNISAなどの非課税制度を併用してみるのも一案です。ジュニアNISAもありますが、2023年に廃止が決まっていますので、長期運用を前提とすると3歳くらいまでの小さな子供がいる家庭向きでしょう。
投資はタイミングによって元本割れの恐れはありますが、誕生から中学校入学までには10年以上ありますので、長期運用が可能になります。ご自身のリスク許容度をよく確認しながら、手堅い財形制度や自動積立定期預金とあわせて、資産を増やせる可能性がある投資を始めてみることをおススメします。
まとめ
中学校受験にかかる費用は、受験前も受験後も青天井です。子供が望むから、あるいは周りの子供が通っているから、といって無計画のまま受験・入学をしてしまうと、のちに家計が火の車になりかねません。優先順位を決めて、慎重にライフプランを立てましょう。
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小河由紀子 「発達障害がある子」を育てる親御さんを元気にするFP
神奈川県出身。結婚・出産後に産婦人科で医療事務に従事。一念発起してCFP®と日商簿記2級の資格を取得。お金の勉強と数字の楽しさに目覚める。その後保険代理店勤務などを経て、2018年に独立系FPのためのプラットフォーム会社に所属。翌2019年に「FPオフィスOgawa」を開業。顧客がお金に振り回されず、自らコントロールする力を身に着けてもらえるよう、分かりやすい言葉で現実的なアドバイスを行っている。FP Cafe登録パートナー
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