19/05/21
米中貿易戦争、トランプ大統領の発言で円高・株安になるのはなぜ!?
2019年5月5日。日本ではゴールデンウィークの終盤、子供の日を祝い終えた頃、世界経済は「またか」という声とともに「まさか」という危機が高まりました。ドナルド・トランプ米大統領がいつものごとく、ツイッター上で発言したのです。
「中国に対する関税を現行の10%から25%に引き上げる」
このトランプ発言がきっかけで、為替相場は不安定になり、株価も世界的に下落しました。それはいったい、どうしてなのでしょうか。
今回は、その背景にある米中の貿易戦争について紹介します。
貿易赤字を解消するための関税引き上げ
今問題となっている貿易戦争は、2018年初頭に始まった、アメリカ対中国との関税引き上げによる政治的駆け引きを指します。
関税は、わかりやすくいえば、外国から商品を輸入するときにかかる手数料です。外国の安い商品をたくさん輸入してしまうと、自国の商品が売れなくなってしまいます。それを防ぐために、輸入品に関税をかけることがあるのです。
トランプ大統領は就任前から、中国に対する貿易赤字を強く非難していました。就任後にはそれを解消するために、関税の引き上げを強行しているのです。
2017年の中国の発表によると、トランプ大統領が懸念している対中国との貿易赤字額は2758億ドル(約30兆円)と、過去最高を記録しています。
これを是正すべく、中国からの輸入製品に対する関税を10%から25%に引き上げると発表したのです。対象となる輸入製品の額は2000億ドル(約22兆円)。さらに、追加で現状関税の対象外になっている3250億ドル(約36兆円)についても関税を課す可能性があるとしています。
すでにこれまでに関税を引き上げたものと追加分とを合わせると、中国からの輸入製品はほぼすべて関税が引き上げられたことになります。
大統領支持層の多くが、現役世代ではなくすでにリタイアメントした世代といわれています。この世代の生活者は、目先の経済指数の変化にそう大きく影響を受けません。何よりも底堅い今のアメリカ経済の強さが、トランプ大統領にここまで強気に事を進めさせる要因になっているのでしょう。
経済大国のリスクが世界に波及する
では、米中の貿易戦争がどうして日本の円高・株安につながるのでしょうか。実際、10連休を挟んで日本市場は5営業日続落し、為替は最大値2円ほど円高で推移しています。
まず株価については、貿易「戦争」とまで呼ばれるのですから、「悪材料」として市場に影響するのは、想像できるかと思います。
10%だった関税が25%に引き上げられた場合、中国はもちろん、中国製品を購入するアメリカの消費者や、同製品を扱う国内業者にとっても痛手となります。中国を苦しめる為の策でありながら自国の経済にも打撃を与えるわけですが、その影響は国内にとどまりません。
世界一の経済大国であるアメリカ、そして第2位の中国に悪影響があれば、つられて他国の経済にも影響が及びます。特に株式市場では、予測・予想に基づいて日々売買が行われていますので、良くも悪くも「材料」が出れば株価は大きく変動します。
貿易戦争は、アメリカと中国のいわば「ケンカ」ですから、大きな悪影響が予測され、株価が下がるのです。
次に円高についてですが、いつも筆者が為替をイメージしてもらうのに用いるのが、運動会などで行われる「綱引き」です。通貨の「安い・高い」は、2国間の通貨が綱引きをするようにして、常に変動しています。
日本の「円」とアメリカの「米ドル」の綱引きを考えてみてください。
貿易戦争の影響で、アメリカの経済が弱まる事が予測されると、「米ドルは(以前より)リスクが高まったから、他の通貨に換えておこう」と、米ドルを売る人が増えるのが自然なシナリオなのです。米ドルが綱を引く力が弱まり、円の力が相対的に強まります。つまり、円高になるというわけです。
実は、日本円は「安全通貨」と呼ばれています。アメリカの問題に限らず、世界では何かのリスクが高まると「有事の円買い」と言って、日本円が買われる傾向にあります。
今回の米中の貿易戦争下においては、世界の基軸通貨(貿易で使われる力の強い通貨)である米ドルのリスクが高まっているのですから、日本円が「逃避」する形で買われています。その結果、綱引きのパワーバランスは日本側に傾き、円高になっているのです。
景気後退を最も避けたいのはアメリカでは?
この記事を書いているとき、中国製品2000億ドルに対する関税が25%に引き上げられました。この日の米中貿易協議は合意に至らず、長期化が払拭されないまま。市場が明るい材料を手にするにはもう少し時間がかかりそうです。
しかし2020年は大統領選挙があるため、トランプ大統領は選挙キャンペーンに入らなければなりません。この貿易戦争が悪化することで起こる最悪のシナリオ「景気後退」を最も避けたいのは、中国以上にアメリカでしょう。今は25%に上がった関税も、どこかのタイミングで10%へ戻す調整が行われると、筆者は考えます。
みなさんもぜひ、日々このような経済事情をとらえ、要因や展開を自分なりに考えて、金融リテラシーを上げる力をつけていきましょう。
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佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅰ種
国内外の保険会社で8年以上営業、証券IFAを経験後、リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
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