24/08/25
年金に関する7つの期限、過ぎるとどうなる?もらえない?
私たちの老後や、人生の万が一の暮らしを支える年金。その受給を確実なものにするためには、年金制度への加入・切り替え手続きから保険料の納付、給付の受け取りまで、さまざまな期限を理解しているかどうかが大きな分かれ道です。そこで今回は、さまざまな期限の中でもとりわけ、みなさんが将来後悔しないために知っておきたい、年金に関する大事な7つの期限を紹介します。
年金の期限(1)14日:国民年金の加入・切り替え手続き
日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は全員、公的年金制度に加入しなければなりません。そして、厚生年金保険に加入する会社員や公務員などを除く、第1号被保険者および第3号被保険者は、国民年金に加入することになります。
<公的年金制度の種類>
日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」より
●第1号被保険者になる人の手続き
「第1号被保険者」は、自営業者や農業者、学生など、第2号および第3号の被保険者でない人が対象です。その資格取得手続きは、第1号被保険者となる事実が発生した日から14日以内。お住まいの市区役所または町村役場窓口のほか、マイナポータルからの電子申請も可能です。14日を過ぎてからも手続きはできますが、「未加入」期間をつくらないためにも、必ず期間内に手続きを行いましょう。
●第3号被保険者になる人の手続き
会社員や公務員など第2号被保険者に扶養されている配偶者で、一定の要件を満たす人は、「第3号被保険者」となることができます。第3号被保険者は、国民年金保険料の納付は求められません。その資格取得手続きは、配偶者のお勤め先経由で14日以内。「国民年金第3号被保険者関係届」は日本年金機構のウェブサイトからもダウンロードすることができますが、その他詳しい手続きや必要な書類については、配偶者のお勤め先の指示に従うようにしましょう。
●意外と忘れがちな「第3号→第1号」の切り替え手続き
本来は第1号被保険者期間にも関わらず、年金の記録上は第3号被保険者のままの人が多くいることが、これまでも問題視されてきました。第3号被保険者の資格を喪失して、第1号被保険者への切り替え手続きが必要となるケースとしては、主に次のようなものが考えられます。
・自身の収入が基準額以上に増加した。
・雇用保険の受給が開始された。
・第2号被保険者だった配偶者が退職した。
・第2号被保険者だった配偶者が65歳になった。
・第2号被保険者だった配偶者が亡くなった。
・第2号被保険者だった配偶者と離婚した。
そして、本来納付すべき国民年金保険料が納められていない期間は未納期間となるため、将来の年金給付へ影響が及ぶことは言うまでもありません。第3号被保険者資格を喪失する事実が発生したら、配偶者のお勤め先で扶養削除の手続きを行うとともに、14日以内にお住まいの市区役所または町村役場で、第1号被保険者への切り替え手続きを行いましょう。
年金の期限(2)翌月末日:国民年金保険料の納付
国民年金保険料は、納付対象月の翌月末日までに納めなければなりません。例えば、2024年8月分の国民年金保険料の納付期限は、2024年9月30日(月)が納付期限です。なお、月の末日が土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月31日、1月2日および1月3日)に当たるときは、翌月最初の金融機関等の営業日が納付期限となります。
障害年金や遺族年金では、公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていることが原則的な受給要件とされていますが、特例として直近1年間に保険料の未納がなければ受給要件を満たすことが可能です。万が一の事態に直面した場合に困ることがないよう、期限までに必ず納付しましょう。
年金の期限(3)2年:国民年金保険料の徴収・還付の時効
国民年金保険料は、納付期限から2年以内であれば納めることができます。保険料の支払い能力があるにも関わらず、度重なる納付勧奨を受けても納付を行わない場合には「最終催促状」が、それでもなお納付をしない場合には「督促状」が送付されることは、あまり知られていません。督促状で指定された期限までに納付しない場合には、財産の差し押さえや延滞金が発生する点にも注意が必要です。
<国民年金保険料の延滞金>
日本年金機構「国民年金保険料の延滞金」より
さらに、保険料の還付を受ける権利についても、時効は2年となります。払いすぎている保険料がある人は、忘れずに還付請求の手続きを行いましょう。
年金の期限(4)2年:離婚時における厚生年金の年金分割請求
離婚時の「年金分割」は、2007年4月に設けられたルールです。離婚後も相手の年金の一部を受け取る形式は、相手が亡くなったら受け取れなくなる場合があるなどの不安定さをはらんでいます。そこで「年金分割」では、婚姻期間中の厚生年金保険料の納付記録(標準報酬月額・標準賞与額)を分割の対象にすることで、分割された保険料の納付記録に基づき、直接国がそれぞれに年金を支給できるようになりました。
<年金分割のイメージ>
日本年金機構「離婚時の年金分割について」より
年金分割には、当事者間の合意(もしくは審判)に基づいて最大50%にあたる部分を分割できる「合意分割」と、国民年金の第3号被保険者だった期間(2008年4月以降)に係る相手方の厚生年金を合意なしに等分できる「3号分割」があります。いずれも、離婚や(事実婚関係を含めて)婚姻の取り消しをした日の翌日から起算して2年を過ぎると原則請求ができなくなるので、忘れずに請求手続きを行いましょう。
<合意分割と3号分割の概要>
筆者作成
年金の期限(5)2年:養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
子どもが生まれてしばらくは、短時間勤務や残業なしを希望する人も多いことでしょう。そのようなケースでは、子どもが生まれる前より標準報酬月額が下がることで、将来もらえる年金額もまた下がってしまうかもしれません。「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」は、子どもが3歳に達するまでの期間については、将来年金額を算定する際の標準報酬月額を「養育を始めた月の前月」とみなしてくれる措置です。
<「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」のイメージ>
厚生労働省「育児休業や介護休業をする方を経済的に支援します」より
この措置を受けるためには、みずからお勤め先に申し出なければなりません。その申出に基づいて、お勤め先が手続きを行います。申出を忘れていた人も、申出日の前月までの2年間に対象の期間があれば、さかのぼってみなし措置が適用されるので、すぐに確認をしましょう。なお、すでに退職をしてしまっている場合には、ご自身での手続きも可能です。
年金の期限(6)5年:年金給付を受ける権利の時効
受給要件を満たしていると自動的に年金がもらえると思っている人も多いかもしれませんが、年金給付の受け取りを開始するには請求手続きが必要です。老齢年金も、65歳に到達して自動的に支給が開始されるわけではありません。
●意外と忘れがちな「特別支給の老齢厚生年金」の請求手続き
年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年が経過すると、時効によって消滅します。つまり、受給開始年齢から5年を過ぎても請求をしていない場合、その後1ヶ月分ずつ時効が発生して、本来受け取れるはずだった年金が受け取れなくなってしまうので、請求手続きをしていない年金がないかを確認しましょう。
例えば、厚生年金保険への加入歴が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性が、65歳に到達するより前に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」は、手続きを忘れている人が多く見受けられる年金の一つです。特別支給の老齢厚生年金には、繰り下げ制度はありませんので、受給要件を満たしたら速やかに請求手続きをしましょう。
●老齢年金を繰り下げている人は「さかのぼり受給」もチェック
老齢年金の受給開始時期は、最大75歳まで繰り下げることができますが、65歳に到達した時点の本来の年金額に基づき、一括で受け取ることもできます。しかしながら、例えば71歳に到達した時点で請求を行うと、やはり66歳からの5年分しか一括で受け取れません。そこで2023年4月から新たに導入された制度では、66歳の時点で繰り下げ受給の申出があったものとみなして、66歳までの1年間の増額率(0.7%×12ヶ月=8.4%)を反映させた年金額に基づき、5年分を一括で受け取ることができるようになりました。
●遺族が受け取る未支給年金にも「5年」の時効が大きく関係
同様に、繰り下げをしている期間に亡くなった場合、亡くなった人が本来受け取るはずだった年金を、遺族が一括で受け取ることができます。しかしながら、この未支給年金は、亡くなった人の65歳時点の年金受給額をもとに計算されるほか、請求した時点から5年以上前の分は時効により受け取ることができない点に注意が必要です。つまり、繰り下げをしている状態で、72歳で亡くなった場合、遺族は65歳からの2年分については受け取ることができません。繰り下げ受給に際しては、ご家族への影響も考えながら、受給の開始時期を検討するようにしましょう。
年金の期限(7)10年:国民年金保険料の免除・猶予の追納
生活に困窮していて国民年金保険料を納付することが難しい場合には、免除制度(全額免除・一部納付)や納付猶予制度、学生納付特例制度を活用して、「未納」の状態をまずは避けることが大切です。これらの承認を受けている期間は、基礎年金の各種給付を受けるために必要な資格期間に算入されます。
しかし、保険料の免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けても、老齢基礎年金の支給額が満額になるわけではありません。支給額を本来の金額にするには、免除・納付猶予の承認を受けてから、10年以内に追納する必要があります。
<受給資格期間および老齢基礎年金額への反映(納付状況別)>
日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」より筆者作成
すでに保険料の徴収に係る2年の時効や、10年の追納期間が過ぎて、老齢基礎年金を満額もらうために必要な納付月数480月を満たしていない場合でも安心してください。60歳以降も国民年金に任意加入をすることでその期間をカバーできるほか、厚生年金保険に60歳以降も加入する人は、老齢基礎年金に相当する「経過的加算」が厚生年金保険から支給されることを覚えておきましょう。
人生100年時代への備えはもう始まっている
今回は、みなさんが将来後悔しないために特に押さえておきたい、年金に関する7つの大切な期限を紹介しました。私たちは20歳から亡くなるまで、常に年金制度と関わりながら生きていくことになりますが、就職や結婚、出産、離婚、退職、年金暮らしの開始など、さまざまなライフイベントと隣り合わせです。これらのライフイベントとリンクする形で年金に関する手続きも発生することを理解しておけば、過度に手続きの期限を心配する必要はありません。もしも年金に関する手続きや期限で分からないことがあればすぐに、年金事務所やお住まいの自治体、お勤め先などに相談するようにしましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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