21/12/31
単身世帯の年金250万円と夫婦世帯の年金250万円、手取りはどのくらい違う?
「年金をいくらもらえるのか」実際に年金を手にしてみるまでは、不安に思われている方も少なくないと思います。しかし、年金は、社会保険料、税金などが天引きされて、額面がそのままもらえるわけではありません。また、働き方や世帯の人数によって、同じ額の年金でも手取りが変わってきます。
今回は、世帯で年金を250万円もらった場合を単身世帯と夫婦世帯とに分けて手取りの違いをくらべてみましょう。
前提条件と年金から差し引かれるもの
今回のシミュレーションでは、東京都世田谷区に住んでいる単身世帯で年金を250万円もらう場合と、夫が200万円、妻が50万円世帯合計で年金を250万円もらう夫婦世帯の場合でくらべます。前提として、もらう年金は、すべて公的年金等であり、単身世帯、夫婦世帯ともに年齢は65歳だとします。
老後に受け取る「公的年金等」には、老齢基礎年金、老齢厚生年金のほか、企業年金、国民年金基金、企業型や個人型の確定拠出年金などが含まれます。これらを受け取った場合には、合計した額が公的年金等の年金収入になります。
また公的年金等控除は、65歳未満と65歳以上に分けて控除額に違いがあります。
公的年金等以外の合計所得金額が1000万円以下の場合には、公的年金等控除額は次のようになります。
●公的年金等控除額
老齢年金を受取るようになっても、社会保険料を納めなければなりません。年に18万円以上の年金を受取っている場合には、介護保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料は、自動的に年金から引かれるしくみになっています。お住まいの自治体によって、保険者が異なるので、金額が若干違うことがあります。
さらに、老齢年金は税金の課税対象である「雑所得」にあたるので、所得税がかかります。同じ年金でも、遺族年金と障害年金には税金はかかりません。
単身世帯で年金を250万円もらう場合の社会保険料
●国民健康保険料
国民健康保険料は、前年の所得をもとに計算します。元になる賦課基準額(所得割額を計算するもとになる金額)は、次のようになります。
公的年金等の収入金額-公的年金等控除額-住民税基礎控除額(43万円)
単身で年金をもらう場合には、97万円が賦課基準額になります。
250万円-110万円-43万円=97万円
国民健康保険料の内容には、基礎分・支援金分・介護分の3つがあります。65歳以上の場合には基礎分と支援金分のみです。それぞれ所得割額と均等割額に分けて計算します。単身の場合には、14万4538円になります。
●令和3年度世帯の国民健康保険料の計算方法(世田谷区)
●介護保険料(令和3年度~令和5年度)
介護保険料は、合計所得に応じて決まり(年金・給与・事業等の所得)、扶養控除や基礎控除など所得控除前の金額になります。ここでは、年金250万円から公的年金等控除110万円を差し引いた140万円が合計所得金額になります。
250万円-110万円=140万円
世田谷区の場合には、第1号被保険者(65歳以上の方)の介護保険料は17段階に分かれており、このケースでは第8段階にあたるので、年額92,700円になります。
※第8段階
本人が住民税課税で、合計所得金額が120万円以上210万円未満の方
単身世帯の社会保険料の合計は、国民健康保険料14万4538円と介護保険料9万2700円を合わせた23万7238円です。
夫婦世帯で年金を250万円もらう場合の社会保険料
夫の年金は200万円、妻の年金は50万円としてシミュレーションします。
●国民健康保険料
夫の年金200万円から公的年金等控除と住民税基礎控除を差し引くと、賦課基準額は47万円になります。
200万円-110万円-43万円=47万円
一方、妻の場合は、年金から公的年金等控除を差し引くとゼロになります。
この結果、世帯の賦課基準額は47万円。国民年金に加入する世帯の人数が2人なので、国民健康保険料は年額14万8838円になります。
●介護保険料
夫の合計所得金額は、年金200万円から公的年金等控除110万円を差し引いた90万円が合計所得金額になります。妻の合計所得金額は、年金50万円から公的年金等控除を差し引くとゼロになります。
後ほど詳しく計算しますが、夫の場合にも住民税がかからないので、第3段階で3万7080円、妻の場合には第2段階で2万2248円が年間の介護保険料になります。
世帯では、年間5万9328円の介護保険料がかかります。
※第2段階
本人および世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入額と合計所得金額の合計が80万円以下の方
※第3段階
本人および世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入額と合計所得金額の合計が80万円を超え120万円以下の方
単身世帯と夫婦世帯の手取りはどう変わる?
●単身世帯の場合
単身世帯の場合には、年金の雑所得から基礎控除と社会保険料控除を差し引いたものが、税金をかけるもととなる課税所得金額になります。
所得税の場合は、
(250万円-110万円)-48万円-23万7238円=68万2762円
所得税5%に復興特別所得税1.021%をかけると5.105%なので、68万2762円に税率をかけたものは3万4855円になります。100円未満は切捨てるので、納める所得税等の税額は3万4800円です。
また住民税は、
(250万円-110万円)-43万円-23万7238円=73万2762円
住民税は所得割が10%、均等割が5000円なので、
73万2762円×10%+5000円=7万8276円
100円未満を切り捨てるので、住民税額は7万8200円になります。
・単身世帯の所得税と住民税
手取りは、年金から社会保険料、所得税、住民税を差し引いた金額ですので、
250万円-23万7238円-3万4800円-7万8200円=214万9762円となります。
●夫婦世帯の場合
夫婦世帯の場合には、妻には雑所得がありませんでした。夫に所得税や住民税がかかるのかを見てみましょう。
夫婦世帯の夫の税金の計算では、妻がいるので配偶者控除があります。所得税の場合には38万円、住民税の場合には33万円の控除です。なお、妻が70歳以上になると「老人控除対象配偶者」になるため、所得税は48万円、住民税は38万円に控除額が変わります。
夫婦世帯の夫の場合は、所得税と住民税ともに、雑所得から基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除を差し引くとマイナスになってしまいます。つまり、税金はかからない世帯ということになります。
・夫婦世帯(夫)の所得税と住民税
夫婦世帯の手取りは、夫婦おのおのの年金額から国民年金保険料と介護保険料を合わせた社会保険料を引いた金額になります。したがって、手取りは
200万円+50万円-20万8166円=229万1834円となります。
今回の試算では、単身世帯年金250万円の手取りは214万9762円、夫婦世帯の年金合計250万円の手取りは229万1834円ですから、手取りの差は14万2072円となりました。同じ「世帯の年金250万円」でも、ずいぶんな差がつくことがわかります。
まとめ
「将来の年金額がいくらもらえるか」に意識がどうして向いてしまいますが、年金にも社会保険料や税金がかかることを考えると、手取りがいくらになるかに気を配る必要があります。年金受給者には、確定申告がたいへんだということで、確定申告不要制度があります。これは公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ、公的年金以外の収入の他の所得の金額が20万円以下の場合には、確定申告が不要というものです。しかし、医療費控除や保険に加入している場合には、還付申告を受けることができます。還付がありそうな方は確定申告にチャレンジして、税金を取り戻しましょう。
また年金の受給開始の時期が、2022年4月以降、75歳まで繰り下げ可能になります。年金をいつからもらうのか選択肢の幅が広がってきます。これからは年金の額面だけではなく、手取り額を考慮に入れたうえで老後の生活設計を考えることがより大切になります。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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