17/03/22
選択を誤ると危険! 間違いだらけの住宅ローン選び
住宅ローンを借りる時には、「無理なく返せる借入額はいくらか」「返済期間は何年にするべきか」「金利はどうするか」ということをよくよく考えて慎重に決める必要があります。ところが実際は、モデルルームで営業マンに案内されるがまま、よく比較検討せずにローン契約を結んでしまう人が多いのではないでしょうか?
適当に決めたローンがぴたりと当てはまればいいのですが、選択を誤るとその後の人生転落する危険もはらんでいます。こうした誰もが陥りやすい「住宅ローンの危険な落とし穴」を、不動産営業および銀行融資業務の経験をもつ住宅ローン専門家の筆者がお伝えします。
「年収の8倍は借りられますよ」は正解か?
マイナス金利の影響で、異常なほど低い水準まで低下した住宅ローン金利。今は低金利のおかげで、年収の割に多額なローンを組みやすい状況が続いています。
都市銀行のホームページにある「返済シミュレーション」で年収600万円の人が試算をすると、「借り入れ可能額の目安は4800万円」という結果が出てきます。昔は年収の5倍程度までしか貸さなかった金融機関が、今や年収の8倍まで貸すようになっているのです。
もっとも、「年収の8倍の借り入れが多いのか少ないのか判断がつかない」という人が大半でしょう。
ちなみに借入額4800万円を、大手都市銀行の変動金利0.625%(最優遇金利の場合)を利用して「35年元利均等返済」で借りると、月々の返済額は12万7270円です。
20年前、変動金利が2.625%であった時代に同じ4800万円を借りていたら、月々返済額は17万4830円と、約5万円多く支払ないといけません。20年前と比べると、現在の低金利であれば多額なローンを借りても返済額は少なくて済むし、なんとなく返せる気がしてきます。
ところが、一般的な家庭では、年収の8倍はやはり借り過ぎです。キャッシュフロー表を作成し、一生涯の家計収支の推移を時系列にシミュレーションして、その中に住宅ローンの返済計画を落とし込んでみると、10年後くらいに赤字になり、家計が破綻する家庭が少なくありません。10年後というと、住宅ローン控除還付金や児童手当の支給といった臨時収入がなくなる一方で、教育費がかさむ時期にさしかかるためです。
中には、「銀行が貸すのだから返せる金額ということだろう」と信じて疑わない人がいますが、そんなことは決してありません。融資先が減り、カネ余り状態の銀行は、積極的に融資をしたがっているだけです。
「銀行が貸してくれる金額=無理なく返せる金額」ではないのです。
住宅ローンの借入額を決める時には、現状の家計収支をきちんと整理し、将来の支出増加も予測して、ローン返済をしながら貯蓄ができる範囲の返済額にとどめておくようにしましょう。
「最初は35年で借りて、後で繰り上げ返済をすればいいですよ」は実際に可能か?
住宅ローンの返済期間は最長で35年です。多くの金融機関では、「最終返済時の年齢が満80歳未満であること」という規定を設けており、実際44歳までの人は最長の35年ローンを組むケースが多くなっています。
冷静に考えると、80歳までのローンを組むのは恐ろしいことなのですが、モデルルームでよく耳にするのが「最初は35年で借りて、後から繰り上げ返済して期間を短縮していけばいいですよ」というセールストーク。
確かに、私が金融機関にいた頃、ボーナスの度に繰り上げ返済をせっせとしているお客様や、定年退職時に退職金で一括返済しにくるお客様もいました。しかし、中には繰り上げ返済を一度もできずに定年退職を迎え、年金暮らしになった時点で2000万円以上のローンが残る人もいます。年金収入のみでローン返済を続けるのは現実的に厳しいものがあり、子供に返済を肩代わりしている人もいるのです。
安易に「繰り上げ返済すればいい」と思わずに、「子供が一人、二人と産まれるとなかなか繰り上げ返済は出来ない」という現実があることも考えに入れてください。また、多くの人が80歳まで返済が続くローンを組んでおきながら、定年退職時のローン残高を確認していないのも危険です。
もしも、繰り上げ返済ができなかった場合、65歳時点でローン残高が2000万円残るとして、退職金がまったく支給されなかったらどうやって返せるでしょうか? 退職金が出る場合でも、ローンの返済資金に充ててしまって老後の生活費は足りるでしょうか?
総務省の家計調査によると、現在年金暮らしをしている老後夫婦は、住宅ローンの返済が終わっていても、毎月約6万円の貯蓄の切り崩しが必要だそうです。
定年退職後の家計収支まできちんと予測をたて、本当に80歳までのローンを組んで大丈夫なのか、「最後まで返しきれる」という返済の目途がついた上で返済期間を決めるようにしてください。
「みんな変動金利で借りていますよ」は本当なのか?
マイナス金利導入後、住宅ローン金利の中でも特に全期間固定金利が急落しました。
2016年夏には35年固定が0.9%となり、現在も1.2%前後といった低い水準です。ほんの6~7年前は、35年固定が3%近かったことを思うと、変動金利との差がない今は長期固定金利に人気が集まっています。
ところが、モデルルームでは相変わらず変動金利で試算する営業マンが多く、中には「みんな変動金利で借りていますよ」という営業マンもいます。
住宅金融支援機構の調査によると、マイナス金利が導入される以前でも、住宅ローンを借りて住宅購入した人のうち、変動金利を選んだ人は全体の4割~5割にとどまっています。マイナス金利導入後は、長期固定を選ぶ人がもっと増えており、決して「みんな変動金利を選んでいる」などという事実はないのです。
もっとも、将来の金利は誰にも予測ができません。変動金利がいいのか固定金利がいいのかは、後から振り返ってみて結果論でしか判断できません。「正解はない」という前提のもと、住宅ローンの金利を選ぶときには、その人の「相場観」や、家計がどこまでリスクを許容できるか「金利と家計の適合性」などによって決めることになります。
「みんな変動金利で借りていますよ」というセールストークを信じて安易に決めてしまうのではなく、過去の金利推移や購入者が実際に選んでいる金利など、客観的なデータを参考にするとともに、家族構成や家計収支・保有資産状況によって、ご自身の家庭にあった金利を選ぶようにしてください。
住宅ローン 借り方・返し方 得なのはどっち?
普段の生活ではなかなか知るきっかけがないので、分かりづらい住宅ローンですが、危険な落とし穴はまだまだ他にもあります。以上に挙げた点以外の注意点を知りたい方は、拙著『住宅ローン 借り方・返し方 得なのはどっち?』をぜひご一読いただければと存じます。
これから住宅ローンを借りる人以外にも、既に借りていて見直したいという人にも役立つ渾身の一冊です。最初に借り方を失敗してしまったという人も、絶好の借り換え時である今、この本を読んでローンのリフォームをしてみてください。
『住宅ローン 借り方・返し方 得なのはどっち?』(河出書房新社)
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平井 美穂 平井FP事務所代表
ファイナンシャルプランナー(CFP®)、宅地建物取引士、証券外務員1種。
大学卒業後、新築マンションの営業を経験。その後、金融機関に転職し、企業系FPとして融資業務および投資信託・保険の販売に従事。出産後に独立、現在は企業に属さない独立系FPとして、「住宅ローンのお得な借り方・返し方」をコーチングしている。5000件超の相談実績を誇る実務家FP。著書に「住宅ローン 借り方・返し方 得なのはどっち?」(河出書房新社)がある。
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