22/11/28
老後の年金が国民年金のみ。生活保護は受けられる?
生活保護とは、さまざまな理由で生活に困窮している方を経済的に援助する、国の制度です。最低限度の生活の保障や自立を支援することを目的としています。では、老後の年金が国民年金のみで生活が厳しい場合、生活保護は受けられるのでしょうか?
結論からいえば、年金が少なく、生活に困窮している場合は生活保護の対象になります。ただし、生活保護を受けるためにはいくつかの条件があり、年金が少ないという理由だけでは生活保護は受けられません。
生活保護でもらえるのは年金などの収入を差し引いた額
生活保護では、世帯の収入が、国が定める最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額をもらえます。つまり、最低生活費を上回る収入がある場合は生活保護費をもらうことはできません。年金と生活保護の両方から支給を受けることはできますが、年金は収入とみなされるため、その分は生活保護が減額されます。
なお、年金収入だけでなく、働いて収入を得ている場合でも、最低生活水準に満たないのであれば、生活保護を受けられます。
生活保護を受けるための4つの条件
生活保護を受けるためには、次の4つの条件を満たしている必要があります。
●生活保護を受ける条件1:働きたくても働けない理由がある
生活保護を受けるには、まず「働けるなら働く」ことが大前提となります。年金を受給している高齢者でも、心身ともに元気で働けるのであれば働く必要があるということです。
病気や怪我をしていて働ける状態にない場合や、働いて収入を得ているがそれでも最低生活費に満たない場合には、生活保護の対象になります。
●生活保護を受ける条件2:保有している資産があるなら換金する
生活保護を受ける場合、生活に必要な資産を除き、保有している資産を手放さなければならないというデメリットがあります。
年金をもらう場合には、保有している資産の有無は問われません。しかし、生活保護を受けるためには、預貯金や不動産、株などの資産を取り崩したり換金したりして生活費に充てなければなりません。売れるものは売って生活費に充てた上で、それでも生活が困窮する場合に生活保護が受けられるということです。
貯蓄性のある生命保険や自動車などのほか、売却すればまとまったお金になる貴金属や高級家具なども対象となります。生命保険は、解約して解約返戻金をもらって生活費に充てることが求められます。
ただし、場合によっては、資産を保有することが認められるケースもあります。例えば、以下のような場合です。
・賃貸に引っ越すより持ち家のほうが生活保護で支給される額が安くなる、家が古くて価値がつかず売却に費用がかかる、不便な場所にあり買い手がつかない、などの理由で、不動産の保有が認められるケース
・公共交通機関がなかったり、心身に障害があったりして、車がないと生活ができず、自動車の保有が認められるケース
●生活保護を受ける条件3:生活保護以外に利用できる公的制度がない
生活保護は、保有する資産やさまざまな制度をすべて利用しても最低限の生活ができないときに利用できる最後の手段です。そのため、生活保護以外に利用できる公的融資制度や給付金制度がある場合は、生活保護より先に、それらの融資制度や給付金の利用を勧められます。
例えば、生活困窮者に対する公的な融資制度には、生活福祉資金貸付制度があります。社会福祉協議会が実施しており、低利または無利子でお金を借りることができます。
●生活保護を受ける条件4:家族や親戚から援助が受けられない
家族や親戚から経済的な援助してもらい安定した生活を送れる人は生活保護を受けられません。家族や親戚の扶養を受けられる場合は、そちらが優先されます。ただし、家族や親戚がいても、扶養が困難と判断される場合や扶養する意思がない場合は、生活保護の対象になります。
生活保護を受けている世帯の半分以上は高齢者世帯
厚生労働省の「生活保護の被保護者調査(2022年8月分概数)」によると、生活保護を受けている総数164万世帯のうち約91万世帯が高齢者世帯となっており、半分以上が高齢者世帯を占めています。年金をもらいながら生活保護を受けている高齢者が非常に多いことが分かります。また、働くのが難しいとされる世帯は139万世帯にのぼっています。
老後に備えるにはどうすればいい?
生活保護は生活がどうしても立ち行かないときの手段です。そうなる前に、次のような方法で老後に備えておきましょう。
●年金を増やす
税制優遇のあるiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)などを活用して、将来もらえる年金を増やす備えをしましょう。個人年金保険は、 保険料を毎月一定年齢まで払い込むことで、受取開始時期になると年金がもらえます。個人事業主やフリーランスの方であれば、国民年金に上乗せして、付加年金または国民年金基金に加入しましょう。
●老後資金を用意しておく
NISA(一般NISA)やつみたてNISAをうまく利用して、老後資金を準備しておきましょう。通常なら投資で得た利益には税金がかかってしまいますが、NISAやつみたてNISAは毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品で得た利益に税金がかかりません。その分、効率よくお金を増やす期待ができます。
●長く働く
できるだけ長く働くのもいいでしょう。働いて収入が増えれば、将来に備えて貯金を増やすことができます。また、会社員や公務員であれば、定年以降も働くことも検討しましょう。収入が得られるのはもちろん、働いていれば最長70歳まで厚生年金に加入し続けることができます。厚生年金の加入期間が長くなる分、年金額を増やせます。
まとめ
年金をもらっていても、条件を満たせば生活保護の対象になります。とはいえ、生活保護は資産を売却しなければならないなどのデメリットも大きいです。生活保護に頼らなくても生活できるように、今のうちから備えることが大切です。老後に備える対策を始めていきましょう。
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目黒 桂 ファイナンシャルプランナー
税理士事務所勤務後、企業にて経理・経営企画業務に従事。その後、出版社に転職し雑誌編集に携わる。金融・税務関連の執筆を中心に雑誌やWEB媒体でも活動中。
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