22/03/20
年金は生涯いくら払って、いくらもらえるのか
「年金を払っても元が取れないのでは?」と考えて年金保険料を納付しない人も少なくありません。しかし、公的年金は一生涯もらえる終身年金。日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳(厚生労働省「令和2年簡易生命表」より)と、年金生活の期間もかなり長くなっています。
本記事では年金保険料の納付額と受け取れる年金額について説明します。年金は払った分を回収できないのか、それとも払った方が得なのかを考えてみてください。
国民年金の保険料納付額と受給額
公的年金には国民年金と厚生年金があります。このうち、国民年金は20歳から60歳までの国民全員が加入するもので、保険料は一律、受給額も払った保険料に対応する形で一律です。一方、厚生年金は会社員などが加入するもので、保険料・受給額は給料の額によって差があります。
まず、国民年金について、納付する保険料の総額と受け取れる年金額を見てみましょう。保険料や年金受給額は毎年少しずつ変動するためざっくりとした計算になります(※以下、本文中の金額は令和4年度(2022年度)のもの)。
●国民年金保険料はトータルでいくら払う?
国民年金保険料(月額)は1万6,590円。この金額を20歳から60歳までの40年間(480か月)全額納付すると、約800万円を払うことになります。
【国民年金保険料の総額】
1万6590円×480か月=796万3200円
●国民年金(老齢基礎年金)の受給額は?
国民年金からは、老齢基礎年金を受け取れます。保険料の全額を納付した人が原則どおり65歳から老齢基礎年金を受給する場合、年間受給額は77万7,800円です。仮に女性の平均寿命である87歳まで生きるとすると、22年間受給することになり、総額は次のようになります。
【65歳から87歳までの老齢基礎年金の総額】
77万7,800円×22年=1,711万1,600円
受け取れる年金額は払った保険料の約2.1倍になり、損するどころか、随分得しています。国民年金はだいたい10年程度で元が取れるので、75歳くらいまで生きれば、払い損にはならないということです。
厚生年金加入の場合の保険料納付額と受給額
自営業者など国民年金だけの人でも、年金を払うことでかなり得することがわかりました。続いて、会社員など厚生年金に加入していた人について考えてみます。
厚生年金は給料の額によって保険料や受給額が変わるので、月収(標準報酬月額)30万円で20歳から60歳まで働いたと仮定して計算します。
●保険料はトータルでいくら払う?
厚生年金保険料の半額は会社が負担してくれるので、月収30万円の場合の厚生年金保険料自己負担額は月2万7,450円です。厚生年金保険料の中には国民年金保険料分も含まれているため、この金額を負担するだけで国民年金保険料も全額払っていることになります。
20歳から60歳までの40年間(480か月)に支払う厚生年金保険料の総額は、次のとおりです。
【厚生年金保険料の総額】
2万7450円×480か月=1,317万6,000円
●受け取れる年金額は?
老齢厚生年金の受給額は「平均標準報酬月額×給付乗率×加入月数」で計算します。給付乗率や加入月数は生年月日や加入期間等によって変わりますが、ここでは給付乗率が5.481/1000と仮定します。平均標準報酬月額30万円の場合、老齢基礎年金・老齢厚生年金を合わせた年金受給額(年額)は次のとおり約157万円です。
【老齢基礎年金・老齢厚生年金の年額】
77万7,800円+(30万円×5.481/1000×480か月)=156万7,064円
60歳で退職し、65歳から87歳に達するまでの22年間に受給する年金の総額を計算すると、次のようになります。
【65歳から87歳までの老齢基礎年金・老齢厚生年金の総額】
156万7,064円×22年=3,447万5,408円
この場合、払った保険料の約2.6倍を受け取れます。厚生年金の方は8~9年程度で元が取れますから、国民年金よりもさらに有利です。
厚生年金に加入していれば、国民年金だけの場合と比べて、約2倍の年金を受け取れることもおわかりいただけるでしょう。現役世代の間、会社で働いて厚生年金に加入していたかどうかで、老後に大きな差が出てくるのです。
年金を繰り下げるとどうなる?
年金は原則65歳からもらえますが、受給開始を遅らせる繰り下げ受給も可能です。繰り下げ受給を選択する場合、1か月受給を遅らせるごとに0.7%受給額がアップします。年金を繰り下げした場合の年金受給額をみてみましょう。
●70歳から受給開始する場合の年金受給額
受給開始を70歳まで繰り下げると、受給額は42%増額します。上と同じ条件(標準報酬月額30万円、給付乗率5.481/1000)で年金受給額を計算すると、次のとおり年額で約66万円増えます。
【70歳受給開始の老齢基礎年金・老齢厚生年金の年額】
156万7,064円×1.42=222万5,230円
この場合、70歳から87歳に達するまでの17年間に受け取れる年金の総額は、次のようになります。
【70歳から87歳までの老齢基礎年金・老齢厚生年金の総額】
222万5,230円×17年=3,782円8,910円
70歳まで受給開始を遅らせても、生涯でもらえる年金額は増えており、損益分岐点年齢は81歳です。受給開始を70歳まで繰り下げしても、81歳を超えて生きていれば、年金受給額の総額は増えることになります。
ちょうど男性の平均寿命が81歳くらいですから、男性は70歳まで繰り下げすべきかどうか悩むかもしれません。女性なら繰り下げを前向きに検討したいところです。
●75歳から受給開始する場合の年金受給額
2022年(令和4年)4月から、年金受給開始年齢の上限が、従来の70歳から75歳まで引き上げられます。75歳まで繰り下げした場合の増額率は84%です。上記の例で75歳まで繰り下げた場合の受給額をみてみましょう。
【75歳受給開始の老齢基礎年金・老齢厚生年金の年額】
156万7,064円×1.84=288万3,397円
この場合、75歳から87歳までの12年間に受け取れる年金額の総額は、次のとおりです。
【75歳から87歳までの老齢基礎年金・老齢厚生年金総額】
288万3,397円×12年=3,460万764円
75歳まで繰り下げしても、65歳から受給した場合と、年金額は大きく変わりません。損益分岐点年齢は86歳です。平均寿命だけから考えると、女性も受給開始を75歳まで繰り下げするかどうかは悩むところでしょう。
ただし、90歳まで生存する女性の割合は52.5%というデータもあります(厚生労働省「令和2年簡易生命表」より)。現状でも女性の2人に1人は90歳を超えて生きており、今後も寿命は延びるかもしれません。女性は75歳まででも繰り下げした方が有利になる可能性があります。
夫婦の場合には、夫はそのまま、妻は繰り下げという方法も考えられるでしょう。ライフスタイルや生活状況に合わせて、無理することなく、年金受給開始時期を決めてください。
なお、今回の計算では考慮していませんが、繰り下げ受給を行い年金額が増えることで、税金や社会保険料が上がるため、手取りの年金額は繰り下げ受給の年金の増額率ほどは増えない可能性がある点も押さえておきましょう。
公的年金を充実させておけば長生きしても安心
公的年金は10年程度で元が取れます。一生涯受け取ることもできるので、公的年金を増やしておけば、老後の大きな安心につながります。年金受給開始前なら、国民年金の未納期間は埋める、パート・アルバイトでも社会保険に加入する、給料をアップさせるなどの方法で、年金を増やせます。年金受給開始年齢になっても、繰り下げ受給によって年金の増額が可能です。老後の生活に不安があるなら、まずは公的年金をしっかり活用しましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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