22/03/16
公的年金の賦課方式、積立方式って何?積立方式にある決定的な3つの問題点
みなさんが毎月支払っている年金保険料は「賦課方式」といって、現在の高齢者の年金を支払うために使われています。というと、「将来の自分のために積み立てられる積立方式のほうがいいのでは?」と言われることがあります。しかし、年金を積立方式にすると、問題点もあるのです。今回は、公的年金の賦課方式・積立方式の仕組みと、積立方式にある決定的な3つの問題点を紹介します。
賦課方式は「世代間の助け合い」
賦課方式とは、現役世代が支払っている保険料を、現役世代の為に積み立てるのではなく、現在の高齢者(年金受給者)の年金の支払いに充てる仕組みのことを言います。では、現在の現役世代の年金はどうするのか?というと、将来の現役世代の保険料によってまかなわれます。つまり、自分の子供や孫に自分が受け取る年金の原資を用意してもらうという事ですね。この事から、賦課方式の年金は「世代間の助け合い」であると言われています。
●賦課方式のイメージ図
厚生労働省「いっしょに検証! 公的年金」より
賦課方式は、現役世代が今の物価・給与水準に対応した保険料を今の高齢者のために支払う仕組みのため、インフレ(物価の上昇)に強いことが特徴です。
しかし、賦課方式では少子高齢化(高齢者の比率の上昇)が起こるほど現役世代の負担が増加することになります。世代間の損得が現状では大きくなっているので、不公平感が生じているのも事実です。
自分の年金を自分で積み立てる積立方式との違いは?
賦課方式が採用されている年金制度は日本では「公的年金制度」だけです。民間の保険会社が提供している個人年金保険、あるいは確定拠出年金は積立方式です。
積立方式とは、原則として自分がもらう年金は自分で積み立てるという方式です。そこには賦課方式のような、現役世代が高齢者世代の面倒を見るという考え方はありません。自分の拠出した原資金でまかなうので、少子高齢化の影響は少ないものの、インフレや金利変動の影響を受けやすく、インフレになると年金の価値が減るという点に注意が必要です。
●積立方式のイメージ図
厚生労働省「いっしょに検証! 公的年金」より
積立方式では、運用が失敗したらもらえる年金が少なくなるものの、それは自己責任だと割り切れるので、賦課方式のもとで現状蔓延している不公平感を感じることはありません。そういう意味では、制度に対する納得感は得られやすいと言えます。
ここで、それぞれの制度の方式の特徴を整理しておきましょう。
●賦課方式と積立方式のメリット・デメリット
筆者作成
積立方式にある決定的な3つの問題点
賦課方式と積立方式、それぞれ一長一短があることが分かりましたが、なぜあえて公的年金は賦課方式を採用しているのでしょうか。
日本の公的年金には3つの役割があります。高齢になるともらえる「老齢年金」、障害のある人を支える「障害年金」、遺された遺族の生活を助ける「遺族年金」です。こうした公的年金制度が存在する目的には、「経済的弱者の生活を公的に支えるための基盤」という考え方が根底にあります。つまり、制度の破綻リスクのより少ない賦課方式を採用するほうが合理的だといえるのです。
このような公的年金をもし積立方式で運用するとなれば以下のような問題が生じる可能性があります。
●積立方式の問題点①寿命がいつまでかは誰にもわからない
社会保険である公的年金制度において、確定拠出年金のような積立方式、完全な個人別残高方式をとることは困難です。なぜなら、積立方式では、残高が枯渇すればその人に対する年金原資がゼロになって年金を支払えなくなるからです。
寿命がいつまでかは誰にもわからないため、予想より早く亡くなる人もいれば、予想外に長生きする人もでてきますよね。"社会保険・社会保障"である公的年金制度なのに、個人の原資がゼロになったからと言って終身で年金がもらえないのはおかしな話です。生活が立ちいかなくなっては、公的年金制度の目的が果たせません。
●積立方式の問題点②資産運用に失敗すると年金がもらえなくなるリスクがある
積立方式においては、積立金の運用は必須と考えられます。全く何の運用もしない状態だと物価上昇分の価値が目減りしますし、現役の時に支払う保険料が高くなりすぎてしまうからです。
将来自分が受け取る年金の財源を、現役世代のうちに自分で積み立てておく積立方式は、積立金の運用収益が将来の自分の給付にダイレクトにはね返ってきます。従って、資産運用に失敗すればもらえる年金が減ってしまう可能性があるのは大きなリスクと言えます。
そのため、積立期間の運用環境が想定以上に思わしくなかった場合には、将来もらえる年金が減ってしまうリスクがあります。
●積立方式の問題点③積立方式では年金制度が始められない
積立方式は、ある世代が払った保険料はすぐさま現在の年金受給者に対する支払いとして消えるわけではなく、積立金として積み立てられ運用がなされてから、ある世代が年金を受け取る時の原資として利用される仕組みです。高齢者に支給される給付は高齢者が現役時代に積み立てていた保険料を使用する必要があるため、積立金については一定程度の運用期間を経る必要があります。もし制度を途中から変更した場合、その間は公的年金の支給がストップしてしまうこととなりますので、その間の受給をどうするかという問題が生じます。
まとめ
以上、積立方式で公的年金を運営する場合の3つの問題点を取り上げました。積立方式への移行も過去に専門家の間で色々と研究や議論がなされ、理論上不可能ではないようですが、公的年金を積立方式で運用するのはハードルが高そうな印象です。
実際、海外の年金制度についても賦課方式で運用されているケースが多く、日本でも今後も引き続き賦課方式で運用がなされていく可能性が高いでしょう。
もっとも、どちらが採用されるにしても、公的年金だけで満足な老後資金を確保するのは難しい状況です。今後は、現行の年金制度を正しく理解した上で自分の老後の生活設計と向き合い、確定拠出年金などの私的年金を有効活用して老後資金をしっかり確保しておくことがとても大切になるでしょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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