22/03/11
年金未納率4割は大間違い! 本当の未納率はどれくらいなのか
人口に占める高齢者の割合が多くなり、将来自分は十分な年金がもらえるのだろうか、と不安に感じることがあるでしょう。また「公的年金の未納率は4割」などと耳にすれば、「年金制度は破綻する」「年金は損」と思う人も。保険料を未納する人も出てきて社会問題に発展しています。しかし年金の未納率は、本当に4割もあるのでしょうか。
今回は、報道されている未納率の数字のトリックを読み解きます。年金で損をしないように、正しい知識を増やしておきましょう。
国民年金に加入する人と加入の種類
公的年金の種類は、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の人がみんな必ず加入する「国民年金」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」があります。このうち、国民年金は、加入している人を職業によって3つの種類に分類しています。
第1号被保険者:自営業、フリーランス、学生、無職の人など
第2号被保険者:会社員・公務員など
第3号被保険者:会社員・公務員などに扶養されている配偶者
※未納期間がある場合、60歳以上でも希望すれば国民年金に加入できます(任意加入者)
加入の種類によって、年金保険料の納める方法、手続きなどが違っています。
第1号被保険者は納付書をもとに自分で納付します。一方第2号被保険者は勤務先が給料から自動天引きしてくれますし、第3号被保険者は第2号被保険者の保険料の中に含まれているので、自分で納める必要はありません。ですから、そもそも保険料の納付について未納が生じるのは、第1号被保険者だけということになります。
未納の4割は何をもとにしているのか?
国民年金の被保険者には、種類があることがわかりました。国民年金の保険料は、納付する義務があります。しかし、第1号被保険者には、失業したり、収入が減ったりして、経済的に困っていて国民年金の保険料を納めることがむずかしい場合もあります。そうしたときには、免除(全額・一部)や納付猶予があります。
また大学や専門学校などに通う学生には、学生納付特例という保険料の猶予制度があります。2019年4月からは、産前産後期間の保険料免除もできました。
厚生労働省の「令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によれば、保険料納付率は、77.2%(最終納付率)という結果が報告されています。過去には平成23年に、現年度納付率58.6%という数字が発表されています。
●国民年金保険料の納付率の推移
厚生労働省「令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況」より
「現年度納付率58.6%」などと見れば、「4割の人が納めていないではないか」と思われるかもしれません。しかし、これは国民年金を全く納めていない人が4割いるということではありません。納付率は、納付義務がどれだけ果たされているか見るための指標で、「納付しなければならない月数」に対する「実際納付した月数の割合」です。つまり、人数が4割ではなく、月数が4割だったということです。
しかも、会社員や公務員の場合には、保険料は給与から差し引かれているので、未納はありません。未納は第1号被保険者だけのことになります。
本当の年金未納率はどれくらいなのか?
それでは、国民年金の本当の未納率はどれくらいなのでしょうか。
実は、前出の「令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によれば、1.7%です。内容を確認していきましょう。
令和2年度の報告では、国民年金の加入者数が全体で6740万人になっています。
第1号被保険者 1449万人
第2号被保険者 4498万人
第3号被保険者 793万人
合計 6740万人
未納者とは、国民年金第1号被保険者であって、24か月の保険料が未納になっている人をいいます。保険料の支払いがむずかしい場合には、免除や納付猶予が使えます。免除や納付猶予を利用した人は、未納者ではありません。
●公的年金加入者数の推移
厚生労働省「令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況」より
令和2年度の調査では、未納者数は115万人です。ですから、単純に未納者の数を国民年金の加入者で割って計算すると、1.7%になります。未納者は40%と聞いていたけれど、実際の数字はかけ離れていたのだと、驚かれるかもしれません。表面的なことだけに惑わされないよう、本質を知る必要があります。
年金をもらえずに損するのは「自分」
年金制度には、高齢になったときにもらう老齢年金ばかりではなく、障害年金や遺族年金もあります。未納は老後の年金の加入期間に反映されないだけではなく、障害年金や遺族年金を受け取るための加入期間にも影響してきます。万一の場合に保障がないと、大きなダメージを自分も家族も受けることになり、生活が破綻するかもしれません。
国民年金の支給については、受取る額の半分は国が負担しています。もし免除期間があっても、国が負担する半分は受け取ることができ、残りの半分は保険料を納めた割合に応じて年金を受け取ることができるしくみになっています。全額免除の月でも年金額はゼロではないのです。しかし、保険料を未納で払わなかった場合には、国が支払う負担分の金額をもらうことはできません。
年金は生きている間生涯にわたってもらうことができます。年金をもらえずに損するのは、誰でもない自分です。2017年8月からは老後にもらう国民年金の受給資格期間が、25年から10年に短縮されました。もし誤った知識で年金を未納しているのなら、今すぐに納付のための行動を起こしましょう。
【関連記事もチェック】
・失業手当と年金のダブル受給は可能なのか
・【年金改正対応版】年金の繰上げ受給・繰下げ受給にある4つの注意点
・公的年金は将来どのくらい減る可能性があるのか
・働きながらもらう年金、減らされずに済む月収はどのくらい?
・厚生年金を月20万円もらえていない人は予想以上に多い
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう