21/11/29
「年金」と名のつくもので買っていいのはたった1つ
将来受け取る公的年金だけでは生活できない…などと考え、個人年金保険や毎月分配型投信などへの加入を検討していませんか?老後のお金を準備しようと思い行動することは大事ですが、金融商品の商品名やキャッチフレーズに惑わされてはいけません。中には、年金を増やすのには向かない商品もあるのです。公的年金の上乗せに適した、買っていいものはたった1つ。どんなものか、ご紹介します。
年金を増やすのに向かない金融商品
年金と名前のつく金融商品には、保険会社から販売されている個人年金保険や、「年金の足しになる」「年金以外に定期収入が得られる」などといわれる毎月分配型投資信託などがあります。
●個人年金保険
個人年金保険とは、保険契約者が毎月支払った保険料などを積み立て運用し、将来積み上がった中から、分割でお金を受け取る仕組みの保険商品です。例えば、30歳から60歳までの30年間保険料を払い込み、5年間据え置いた後に5年または10年分割で受け取る、といった契約が一般的です。
個人年金保険には、運用方法の違いで大きく2種類の商品があります。
ひとつは「定額型」と呼ばれる個人年金保険です。
定額型は、契約する時点で決められた予定利率で運用する商品です。将来受け取る年金が確実に決まっています。ですがもし、物価が上昇し、利率も上がることになれば、低い利率で固定したことになります。老後豊かに暮らすための年金が増えるどころか目減りしたことになってしまいます。
また税金面では、「個人年金保険料控除」という所得控除を受けることができますが、個人年金保険の保険料をいくら掛けても、控除額の上限は所得税が4万円、住民税が2万8000円の合計6万8000円のみです。
もうひとつは、「変額型」と呼ばれる個人年金保険です。「変額年金」とも呼ばれます。
変額型は、契約する時点で将来の受取額が決まっておらず、運用成果に応じて将来に受け取る年金が変化します。定額型と違い、物価の変動と連動します。しかし、変額型の実際の運用は投資信託です。そもそも順調に運用される保障などありませんし、運用と保険の両方に手数料がかかるため、自分で投資信託を購入するよりも手数料が高くつく場合があります。
また税金面では、個人年金保険料控除ではなく、死亡保障などの生命保険と同じ「生命保険料控除」の対象となります。上限枠は個人年金保険と同じの6万8000円です。もし、生命保険に入っていればそれだけで上限枠一杯になるかもしれません。そうなれば、変額年金に加入したとしても所得控除のメリットを享受できそうもありません。
老後のお金の準備は長期間の運用となります。もっと運用効率がよく、税金の控除が受けられる方法のほうが適しているといえます。
●トンチン年金
定額型の個人年金保険には、トンチン年金という変わった名前の商品があります。トンチン年金は、解約時や死亡時の返戻金が低く設定された個人年金保険のこと。そうして年金原資を増やし、年金を終身にわたって受け取るため、長生きすればするほど得になる個人年金保険です。
とはいえ、トンチン年金で元を取ろうとすると大変です。あるトンチン年金の資料には、55歳から70歳まで月5万4000円の保険料を払い込み、70歳から年約51万円(男性)・約41万円(女性)の年金を受け取れるとあります。この場合、年金の受取総額が保険料の総額を上回るのは、男性89歳、女性93歳となります。もちろん、これ以上に長生きできるならお得なのですが、それは誰にもわからないことです。
●毎月分配型投資信託
公的年金は、偶数月の15日に支払われます。2か月に1回の定期収入だと少し足りない…できれば毎月定期収入があればいいな…ということは誰しも無意識で考えることです。
そのあったらいいなという願望に狙いを定めたものが「毎月分配型投資信託」です。毎月分配型投資信託は、文字どおり毎月お小遣いのように分配金が受け取れる投資信託です。投資信託で私たちが購入できる商品は6000本以上ありますが、その中で、商品名に毎月分配型とあれば、老後のお金を準備しようとする消費者にとっては理想的な商品と感じてしまうのです。
とはいえ、投資信託は投資であり、価格が変動するリスク商品です。投資先も、株式、国債、リート、コモディティなど様々ですし、投資地域も、先進国、新興国などいろいろです。そのため収益も安定して右肩上がりという訳にはいかず、目減りすることもあります。そうなれば、毎月分配型の分配金の原資は運用益からとはいかない場合もあるでしょう。実際には「元本払戻金」(特別分配金)といって、投資した元本を取り崩して無理矢理分配金を支払っている場合もあるのです。これでは、お金は増えていきません。
また、毎月分配型の投資信託は、手数料が高く設定されていることが多くあります。
自分で備えるなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)がおすすめ
公的年金に上乗せし老後のお金を貯めたいと思うのであれば、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)がおすすめです。iDeCoは、自分で出した掛金を自分で運用し、その成果を60歳以降に受け取る仕組みです。
iDeCoを利用すれば、3つの税制メリットが受けられます。
① iDeCoで積立をすると所得税・住民税が安くなる
iDeCoで掛けた掛金の全額が所得控除の対象になります。先述した個人年金保険で受けられる生命保険料控除は上限が決まっていましたが、iDeCoは掛金すべてが所得控除の対象になります。したがって、毎年の所得税や住民税が安くなります。
② iDeCoで運用をすると運用収益が非課税になる
通常、株や投資信託などの金融商品から得た利益に対して20.315%の税金がかかります。しかしiDeCoの場合、運用益に対して税金はかかりません。
③ 退職金や年金で受け取るときは控除が適用される
iDeCoで60歳以降に受け取る資産を老齢給付金といいます。老齢給付金の受け取り方は、一時金でまとめてもらう方法と年金のように分割してもらう方法があります。一時金で受け取るのであれば退職金控除が受けられますし、年金のように受け取るのであれば公的年金等控除が受けられます。
このように、iDeCoを活用すると加入・運用・受取の3段階で税制メリットが受けられます。老後を見据えた長期間の運用にはこれらの税制メリットは効率的といえます。
まとめ
公的年金に上乗せして余裕のある老後を過ごしたいと考えるのであれば、積立や投資で準備が必要です。どれにしようか迷うのであれば税制メリットを生かしてお金が貯められるiDeCo(個人型確定拠出年金)がおすすめです。まずはiDeCoをフル活用して、それでも余力があるのであれば、他の積立・投資を検討するのがいいでしょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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