25/04/06
【高額療養費制度の落とし穴】がん患者の6割が収入減でも医療費負担変わらず…治療継続が困難な実態

医療費が高額になった時、「高額療養費制度」は頼れる制度です。
高額療養費制度は、保険診療の自己負担が上限額を超えたら、その超えた分が戻ってくる仕組み。そのため、医療費の負担が大きくなりすぎずに治療をすることができます。
しかし、治療が長期にわたるときには注意が必要です。
たとえば、がんの治療です。抗がん剤や手術、放射線といった治療が年単位で続くケースも珍しくないため、医療費はがん患者にとって大きな問題です。
「がん患者の経済的負担に関する実態調査(患者家計サポート協会、2025年3月)」によれば、働くがん患者の6割が収入減でも医療費の支払いが変わらず、治療継続が困難だということが明らかにされました。
今回は、働くがん患者の医療費と治療の実態を見ていきましょう。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、保険診療の医療費がひと月で上限額を超えた場合に、その超えた金額が戻ってくる制度です。
保険診療は、69歳以下の場合にはもともと3割負担ですが、さらに上限額が設定されているというわけです。
ただし、保険診療が対象なので、自由診療や、入院した時の差額ベッド代、食費負担は対象外です。また、「ひと月」とは、カレンダーの1日~末日まで。月をまたいだら、別の月としてカウントされます。
そして、高額療養費制度の上限額は、年齢と収入によって決まります。
69歳以下の場合には、下記の5つにわかれています。
<高額療養費制度の上限額>

厚生労働省のHPより抜粋
たとえば年収500万円なら適用区分「ウ」にあたります。高額療養費制度によって、ひと月の医療費は8万円を超えた程度でおさまることがわかります。
医療費が月8万円かかったら厳しいけれど、高額療養費制度があるなら貯蓄や医療保険でなんとか乗り切れそう、と思う人も多いのではないでしょうか。
高額療養費制度の上限額の決まり方に要注意!
しかし、高額療養費制度の上限額は、医療費を払った月の収入で決まるわけではありません。
社会保険に加入しているのであれば、高額療養費制度の上限額の区分は標準報酬月額で決まります。つまり、その年度の4~6月の給与の平均額が計算のもととなります。
もし、治療が長引いて休職したとしても、標準報酬月額が変わらなければ、高額療養費制度の区分も変わりません。
国民健康保険は、毎年8月に、前年の収入を計算のもとにして適用区分が決まります。
たとえば、2024年8月~2025年7月までの医療費は、2023年の収入が計算のもとです。
ですから、治療が始まってから収入が減っても、1年前や2年前の収入で決まった高額療養費制度の区分によって上限額が決まるのです。
高額療養費制度の区分が変わらないと、次のような問題が生じます。
●高額療養費制度があっても医療費の支払いが変わらない
高額療養費制度の適用区分が変わらなければ、医療費の支払い上限額も変わりません。
もし、年収800万円で区分「イ」だった人が、治療をきっかけに収入が減って区分「ウ」相当になったとしても、月に約16万円もの支出が続く、といったことになりかねません。
●高額療養費制度の「多数回該当」が利用できない
高額療養費制度には、「多数回該当」という仕組みがあります。
過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となって上限額がさらに下がるというものです。
<高額療養費制度の多数回該当>

厚生労働省のHPより抜粋のHPより抜粋
先ほどと同様に、年収800万円で区分「イ」だった人が、収入減で区分「ウ」相当になった場合で考えてみましょう。
医療費が毎月15万円かかっても、区分「イ」では上限額に達しませんから、その支出は続きます。区分「ウ」であれば、上限額に達する月が3回あれば、4回目からは4万4400円になるのに比べて、医療費の負担はかなりの重さです。
治療していても収入が区分「イ」のままであれば、医療費の負担は相応のものとして支払う余力はあるかもしれません。しかし、収入が減ったにもかかわらず区分が変わらないなら、負担が大きくなりすぎるのではないでしょうか。
●高額療養費制度があっても「治療の断念」を考える人もいる
働く世代は、住宅ローンや教育費の支出も多い世代です。
そのうえ医療費の負担までが重くなると、大きな不安を抱えざるをえません。
「がん患者の経済的負担に関する実態調査」によれば、がん治療開始後、患者の約6割が収入減少を経験しています。また、収入が減った人のうち65%は退職や休職によるものですが、29%は就労中でも収入が減少しています。
<がん治療開始後の収入>

患者家計サポート協会「がん患者の経済的負担に関する実態調査」より
加えて、がん患者の約6割が経済的・生活上の不安を抱えた経験があり、「治療の断念」、「生活保護」、「離婚」、「子どもの進学の断念」まで考えていることが明らかになりました。
高額療養費制度があっても、収入減によってさまざまな問題が生じるのが現状なのです。
家計のことは専門家に早めの相談を
治療は身体のことを最優先に考えてもらいたいと思います。
とはいえ、お金のことも同じくらい大切です。
医療費のことは、医療機関のソーシャルワーカーや、社会保険労務士にも相談できますが、医療に詳しいファイナンシャル・プランナーへの相談もおすすめです。
ファイナンシャル・プランナーは全般的な家計相談ができますから、医療費の不安が現実的になる前でも利用できます。
実際、「来月の支払いができない」というところまで差し迫ってしまうと、選択肢が限られるなかで決めなくてはなりません。
医療と同様に家計でも、早めの対策が大切です。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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