24/11/06
SNSで大炎上の「遺族年金が5年になる」は本当に改悪なのか
2024年7月、厚生労働省が遺族年金に関する改正案を公表しました。それにともない、SNSで炎上するなど、さまざまなメディアで話題となりましたが、内容への誤解も散見されます。今回は、遺族年金の改正案と「遺族厚生年金が5年間となることで多くの女性が困窮する」という誤解について紹介します。多くの方にとって、公的年金は老後の重要な収入源となります。正しく理解しましょう。
そもそも遺族年金とは?
まずは遺族年金の基本について確認しておきましょう。遺族年金は公的年金から支給される給付の1つであり、主に一家の稼ぎ手が亡くなったとき、残された一定の家族が受け取れるものです。遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つの種類があります。
遺族基礎年金は国民年金からの給付で、残された家族に18歳未満(※1級・2級の障害の状態にある場合は20歳未満)の子どもがいる場合に支給されます。一方、遺族厚生年金は会社員・公務員の方が国民年金に上乗せして加入する厚生年金からの給付となります。したがって、会社員・公務員が死亡した場合などに遺族基礎年金に上乗せまたは単独で支給されます。
なお、遺族基礎年金と遺族厚生年金では、それぞれ給付の目的が異なります。遺族基礎年金は、子を抱えている配偶者や自らの生計を維持することができない子どもに対し、生活の安定を図ることを目的としていますが、遺族厚生年金は遺族にこれまでの生活を保障することを目的としています。細かな点に目を向けると、以下のような違いがあります。
<遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い>
筆者作成
遺族基礎年金は原則として子どもがいない場合には受け取れませんが、遺族厚生年金は子どもがいなくとも要件を満たす家族であれば受給できます。かつ給付も手厚い傾向にあり、30歳未満の子のない妻については5年間の有期給付となっている一方、30歳以上の子のない妻や55歳以上の夫(支給は60歳から)には、要件を満たす限り終身で支給されます。40歳以上65歳未満の子のない妻には中高齢寡婦加算(2024年度(令和6年度)は年額612,000 円)が加算されます。
SNSで炎上!2024年7月に発表された改正案とは
2024年7月に厚生労働省で発表された改正案は、厳密に申し上げれば、遺族厚生年金だけではなく遺族基礎年金のものもあったのですが、SNSで炎上していたのは遺族厚生年金に関する改正案です。ここでは遺族厚生年金に関する改正案について見ていきましょう。
今回発表された遺族厚生年金に関する改正案は以下のとおりです。
1 遺族厚生年金の有期給付年齢を拡大
2 中高齢寡婦加算を段階的に減額・廃止
3 60歳未満の夫も遺族厚生年金の有期給付の対象に
遺族厚生年金では現在30歳未満の子のない妻を対象として5年間の有期給付を実施していますが、改正案では有期給付の対象年齢をまずは40歳未満とし、徐々に引き上げ、最終的に60歳未満とすることが盛り込まれました。
同時に40歳以上65歳未満の子のない妻へ実施されている中高齢寡婦加算についても、新規受給者から段階的に減額し、廃止を目指すことが検討されています。
一方、60歳未満の夫については拡充が検討されています。現在60歳未満の夫には遺族厚生年金が支給されませんが、改正案では有期給付の対象となる内容が盛り込まれています。
この遺族年金改正について散見される誤解に、「遺族厚生年金が5年間となることで多くの女性が困窮する」というものがあります。SNSなどでも炎上していました。
たしかに、子のない妻に対する給付は原則として有期となり、中高齢寡婦加算も徐々に減額・廃止されることから、給付は今後縮小していくことが見込まれます。
「遺族厚生年金が5年になる」は問題?
しかし、遺族厚生年金が5年間となっても、すぐに影響があるわけではありません。
子のない妻への給付縮小は20年程度かけて段階的に実施される見込みですから(60歳未満の子のない男性への給付拡充は施行後すぐに実施予定)、現在40歳以上の女性であれば、中高齢寡婦加算は減額されるものの、遺族厚生年金の柱を大きく失うということはなさそうです。なお、すでに遺族厚生年金の受給権を持っている方やこれから遺族厚生年金を受給する高齢者は対象外となっています。
また、子育て世帯については現行と変わらず、原則として子どもが18歳まで遺族基礎年金とあわせて遺族厚生年金が支給されますし、すぐに大きな負担増とならないようプラスの手当ても検討されています。例えば、有期給付額の増額や収入要件の廃止、離婚時の年金分割を参考にした老後の年金への上乗せ措置です。
これらによって、若くして死別した場合は、現状よりも有期給付額が増え、共稼ぎ世帯でも遺族厚生年金を受け取りやすくなったり、婚姻期間が長いほど、亡くなった配偶者が老後に受け取るはずだった老齢厚生年金の一部を受取りやすくなったりすることが見込まれます。
信頼できる情報を集め自身の資産形成を
これまでの遺族年金制度は、夫は外で働き、妻は家庭を守る、という昭和の価値観にもとづいたものでした。しかし今回の改正案では共稼ぎ世帯の増加といった社会的背景を受け、男女差の是正に向けて大きな変更が盛り込まれました。
現状は改正案の段階であり、今後は国会での審議と法改正というプロセスがあり、施行までは一定の年数が見込まれますが、これらの改正案をみても、男女に関わらずそれぞれが家計に向き合い、自身の資産を築く必要性が高まってきていると感じます。
情報を得る手段はさまざまありますが、信頼できる情報源から情報をあつめ、ご自身の資産形成に役立てていきましょう。
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内田英子 FPオフィスツクル 代表
教育費から保険、住宅、資産形成、キャリア、相続までライフプランと照らし合わせながら幅広い視点で家計を診る家計の総合医。ライフワークは金融教育。ライフプランシミュレーションで課題を整理し、望まない資金流出を避け、合理的な資産配置で生涯可処分所得を増やしながら望ましい未来をつくるお手伝いをしています。
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