24/08/23
財形貯蓄「新規取扱い停止」ってほんと?銀行の狙いと未来は
「貯蓄から投資」の流れの中で、りそなホールディングスが2024年10月から、財形貯蓄商品の新規取扱いを中止することを決めました。財形貯蓄は、勤務先の会社等を介して行う貯蓄なので、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISAの制度にくらべ認知度が低いかもしれません。今回は、財形貯蓄の内容や契約件数の推移をとおして、財形貯蓄の未来を探ってみましょう。
財形貯蓄とはどんなもの?
財形貯蓄とは、勤労者の財産形成を促進するために、昭和46年(1971年)に始まった制度です。勤労者が財形貯蓄取扱機関と契約し、事業主が勤労者に代わって給与から天引きする方法で、定期的に一定金額が積み立てられる貯蓄です。
財形貯蓄には、「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3つがあります。
一般財形貯蓄は、開始1年以降は自由に引き出すことができる貯蓄で、使用目的の制限はありません。財形年金貯蓄は、満60歳以上で年金を受け取ることを目的にした貯蓄です。財形住宅貯蓄は、住宅の取得、増改築に充当することを目的にした貯蓄です。
年金財形貯蓄と住宅財形貯蓄をあわせて550万円まで、元本から生じる利子等を非課税とする措置がとられています。また、住宅財形では、財形持家融資を利用することができます。
会社によっては、福利厚生の一環として、財形貯蓄の申し込み手数料を負担するなどの制度を設けているところもあります。しかし、財形貯蓄は、財形貯蓄制度を導入している会社や団体に勤務する人以外は利用することができません。
財形貯蓄の契約件数や残高の推移はどうなっている?
勤労者の財産形成促進制度として始まった財形貯蓄も、時代のニーズに対応が難しい状況が続いています。厚生労働省の調査によれば、財形制度の契約件数は平成元年(1989年)のピークで1955万件。それにくらべて令和5(2023)年度には599万件と、約3分の1にまで落ち込んでいます。特に運用商品が預貯金や公社債投信など元本割れのリスクが低いもので運用されており、近年利回りが限りなくゼロに近い状態で、新規契約が減少しているのが大きく響いています。
また、利便性の高い住宅ローンの登場やDC(企業型確定拠出年金)、保険会社の年金商品、NISAやiDeCo(イデコ)などの制度の利用が増えたことも影響しています。
そのうえ、かつては一社で勤め上げる人が多かったのに対し、今では雇用環境も転職が当たり前となりました。転職先に財形貯蓄制度がなければ払出しを余儀なくされ、積立の継続ができないというデメリットもあります。会社等を通じずに個人で貯蓄する手段を選択する人が増えたことも減少の要因になっています。
実際、財形貯蓄の利用件数・貯蓄残高を見ると、年々減少の一途をたどっていることがわかります。
<財形貯蓄制度の実施状況について>
厚生労働省「財形制度をめぐる状況について」より
財形貯蓄をめぐる金融機関の対応と思惑
低金利を背景に、財形貯蓄の契約件数や残高の減少は、取扱い金融機関の営業方針を転換することにもつながっています。
りそなホールディングス(りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行)においては、2024年10月から財形貯蓄商品の新規取扱いを中止することを決めています。より柔軟な資産運用が可能なDCやiDeCo(イデコ)などに提案の重点を移していく模様です。金融機関も営利が目的なので、より利益が得られるものにシフトしていくのは当然です。この方針転換の流れは、他の大手金融機関にも波及する可能性があります。
なお、りそなホールディングスで現状財形貯蓄を利用している場合は、引き続き利用できます。
財形貯蓄の未来を考える
「貯蓄から投資へ」の国の政策の旗振りの下、2024年1月から新NISAを始めた人が多くいます。しかし、投資初心者は、2024年8月5日の日経平均株価の4451円安の相場に恐怖心を抱き、大損をしたと感じています。投資は儲かるだけではないことを、身をもって実感できたと思います。
現在のところ運用実績が低い財形貯蓄ですが、元本割れのリスクがなく、今後金利が上昇していけば、財形貯蓄の金利は高くなる可能性があります。また、契約件数は減っていますが、一般財形の契約当たりの貯蓄残高は増加を続けており、積立を維持する傾向が強くなっています。
資産形成には多様な選択肢があることを知り、リスク許容度に合わせて活用してはどうでしょうか。いったん給与天引きを始めれば、簡単にやめないという行動パターンを逆手に取り、資産を積み上げていくことにも有効です。今後は転退職時のポータビリティの充実や、運用される商品の幅を広げる、他の制度間との連携など制度の改善を期待します。
【関連記事もチェック】
・【知らないと大損】申請すればもらえるお金8選
・「富の最大化」ではなく「幸福の最大化」を目指す、『60歳からの新・投資術』【Money&YouTV】
・年金が81万円上乗せになる「長期加入者の特例」受けられる人は少ない?
・自己破産しても絶対に免除されない6つの支払い
・「金持ち老後」と「貧乏老後」を分ける決定的な5つの違い
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう