23/01/26
毎年消滅する「郵便貯金」24万件の催告書が届かず失効の恐れ
郵政民営化前の「郵便貯金」に預けたお金は、満期から約20年後に払い戻す権利が消滅し、引き出せなくなってしまいます。そのため、期限内に郵便貯金を引き出すことを促す「催告書」が貯金者に発送されているのですが、この催告書が貯金者に届いていないと報じられています。今回は、郵便貯金を払い戻す権利が消滅するまでの仕組みと、権利消滅を防ぐ方法を解説します。
3年で24万件もの催告書が届いていない!
2007年(平成19年)10月1日に行われた郵政民営化の前に郵便局に預けられた貯金を郵便貯金といいます。この郵便貯金のうち、定期性のある郵便貯金(定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金など)は、満期後20年2か月経つと、払い戻しができなくなることが法律で定められています。
ただ、20年2か月経つまで何にも連絡なく、払い戻しができなくなるわけではありません。郵便貯金は、次のような流れで払い戻す権利が消滅します。
●郵便貯金の権利が消滅するまで
総務省「満期を経過した郵便貯金の払戻しに関するお知らせ」より
①預けている郵便貯金が満期を迎えたときに「満期のご案内」が届く
②満期から10年間払い戻しがない場合、「満期日経過のご案内」が届く
③さらに10年間払い戻しがない場合、「権利消滅のご案内(催告書)」が届く
④その後2か月経っても払い戻しがない場合、郵便貯金の権利が消滅する
2022年12月9日付の朝日新聞では、このうちの③で発送される催告書の8割が貯金者のもとに届いていないことを報じています。記事によると、郵政管理・支援機構の発送した催告書の発送数と返送数は、次のとおりとなっています。
●催告書の発送数と返送数
・2019年度:発送6.4万件・返送5.7万件
・2020年度:発送9.2万件・返送7.2万件
・2021年度:発送15.0万件・返送11.5万件
「3年間の合計では発送が30.6万件、返送が24.4万件だった」と紹介しています。つまり、催告書の約8割が貯金者に届いていない、というわけです。
催告書が届いていない理由はわかりませんが、たとえば引っ越した、名前が変わったなどの理由で催告書が届かなかった場合でも、満期から20年2か月が経過すれば、郵便貯金の権利は消滅します。
20年も引き出していないお金ですから、郵便貯金にお金を預けていることを忘れてしまっている人もいるかもしれません。また、郵便貯金にお金を預けていることを覚えていたとしても、引き出す権利が消滅することを知らずにいる人もいるかもしれません。そうした人は、そう遠くないうちに郵便貯金のお金を失うことになります。
消えた「郵便貯金」2021年度は457億円!
郵政民営化前の貯金を管理する郵政管理・支援機構の資料によると、毎年の権利消滅額は次のようになっています。
●郵便貯金の権利消滅額
郵政管理・支援機構「睡眠貯金残高・権利消滅額の推移」より(株)Money&You作成
郵便貯金の権利消滅額は、2020年度(令和2年度)は369億円、さらに2021年度(令和3年度)は457億円と急増している様子がわかります。郵政管理・支援機構によると、2020年度・2021年度に権利が消滅した1990年度(平成2年度)・1991年度(平成3年度)は郵便貯金の金利が高かったため、他の年度よりも郵便貯金への預入額が多かったことがその要因ではないか、とのことです。
実際、日本銀行「郵便貯金金利」によると、1990年〜1991年の郵便貯金の金利は1年満期の定期貯金で最大6.08%もあります。単純計算で、預けたお金が約12年で倍になる高金利。今では考えられませんね。
郵政管理・支援機構によると、「令和4年度以降当分の間の権利消滅額は、令和2年度、3年度の水準を下回ると見込んでいます」とのことですが、それでも毎年数十億円、場合によっては100億円以上の郵便貯金が失効し、国庫に納められてしまう可能性があるのです。
また、郵政管理・支援機構「満期を経過した郵便貯金の残存状況等のお知らせ」によると、2022年12月末時点の郵便貯金残高は次のようになっています。
●満期経過後の郵便貯金残高(2022年12月末時点)
・定額郵便貯金:4,687億円
・定期郵便貯金:289億円
・積立郵便貯金:7億円
・その他の郵便貯金:46億円
合計:5,031億円
これらの郵便貯金は、すでにすべて満期を過ぎています。ですから、まだ5,031億円ものお金が払い戻しできなくなってしまう可能性がある、というわけです。
郵便貯金の払い戻し手続きはどうする?
繰り返しになりますが、定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金といった定期性のある郵便貯金は、いずれ引き出せなくなります。そうなる前に手続きしましょう。
手元に満期を過ぎた郵便貯金の証書や通帳がある場合は、その証書や通帳、届け印、本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど、住所・名前・生年月日の入ったもの)を持って郵便局またはゆうちょ銀行の店舗に行き、払い戻しの手続きをしましょう。
また、郵便貯金の証書や通帳がない場合でも、郵便貯金があることが確認できれば払い戻しの手続きができます。よく覚えていない場合でも調査してくれるので、一度郵便局またはゆうちょ銀行の窓口で相談してみましょう。手続きには印鑑(届け印でなくても可)と本人確認書類が必要です。
郵便貯金の払い戻しの手続きは、代理人が行うことも可能です。口座の名義人の証明書類に加えて、代理人の証明書類と名義人からの委任状を用意して、郵便局・ゆうちょ銀行の店舗で手続きしましょう。名義人が認知症などで委任状を書くことができない場合も、名義人の通常貯金口座に払い戻すことはできるそうなので、まずは問い合わせてみましょう。
すでに口座の名義人が亡くなっており、相続人が手続きする場合は、相続手続きによる払い戻しになります。郵便局・ゆうちょ銀行で「相続確認表」を手に入れて提出し、名義人と相続人の関係を確認後、相続手続きを行います。詳しくは、郵便局の貯金窓口またはゆうちょ銀行にご確認ください。
まとめ
定期性のある郵便貯金は、満期から20年2か月が経過すると引き出せなくなってしまいます。引き出せなくなることを知らせる催告書は発行されているものの、対象者の8割の方の手元にその催告書が届いていません。もしも「昔預けてそのままになっている」「そういえばそんな郵便貯金があったな」など、心当たりがあるならば、権利消滅・失効となる前に手続きしましょう。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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