22/09/26

資産運用・経済

この記事のライター

畠山憲一

任天堂の株式が10倍に増える？株式分割が投資家に与える影響とは

小さい頃からゲーム大好きな筆者がチェックしているのが任天堂（7974）の株式。でも、任天堂は株価が高くて「高値（高嶺）の花」だったのも事実です。そんな任天堂の株式が2022年10月1日に分割（株式分割）されます。今回は、任天堂の株式分割のニュースを通じて、株式分割が投資家にどんな影響を与えるのか、紹介します。

任天堂の1株が10株に株式分割される！

任天堂といえば、ゲームの製造・開発・販売会社としてもはや知らない人はいないでしょう。主力の「Nintendo Switch（ニンテンドースイッチ）」は世界累計1億1,108万台（2022年6月末時点）を売り上げているゲーム機。マリオ、ゼルダ、ポケモン、スプラトゥーン、どうぶつの森などのゲームソフト・キャラクターも老若男女問わず幅広い層に人気があります。筆者も息子とスマブラで遊んでいます。

しかし、任天堂の株価は6万1320円（2022年9月22日終値）。通常株は100株単位（1単元）で売買しますので、投資するには約613万円もの資金が必要になります。いくら投資したいと思っても、613万円はぱっと出せる金額ではないですよね。

その任天堂が、2022年5月10日に株式分割を発表しました。

●任天堂の株式分割のお知らせ

任天堂「株式分割ならびに株式分割に伴う定款の一部変更および配当方針の変更に関するお知らせ」より

株式分割とは、1株をいくつかの株に分割して、発行済み株式数を増やすことです。たとえば1株を2株に分割したり、3株に分割したりすることをいいます。この場合、発行済み株式数は2倍・3倍になります。任天堂の場合は、1株を10株に分割するので、発行済み株式数は10倍になります。

株数が増えて株価の水準が下がる株式分割

株式分割をしても、これまであった株を複数に分割するだけなので、会社の価値そのものは基本的に変わりません。そのかわり、1株あたりの株価の水準が下がります。1,000円を100円玉に両替したら10枚になりますが、10枚の合計は変わらず1,000円ですよね。それと同じイメージです。

任天堂の株式も1株が10株になるので、1株あたりの株価は理論上、10分の1になります。つまり、2022年10月1日時点で仮に株価が6万2000円だったとしたら、株式分割によって株価は6,200円になる計算です。これまで100株持っていた株主は、株式分割後は1,000株の株主になります。株価が10分の1になって、株数が10倍になるので、理論上は損も得もしません。

しかし、これから投資する投資家にとっては、100株（1単元）あたりの金額は62万円になるため、ぐっと投資しやすくなります。スマホ証券などを利用して1株（単元未満株）だけ購入しようというときにも、投資資金は6万2000円から6,200円で済むことになりますので、投資しやすくなるというわけです。

実際、任天堂のリリースにも株式分割の目的として「株式分割による投資単位の水準の引き下げにより、当社株式の流動性の向上および投資家層のさらなる拡大を図ること」と記載されています。投資に必要な金額を引き下げて、投資家を増やす目的があることがわかります。

なお東証では、望ましい投資単位の水準を「5万円以上50万円未満」としています。2022年3月末時点で、上場会社の94.7％（3,565社）が50万円未満とのこと。任天堂はこのままの株価だった場合、株式分割後も50万円以上になってしまうのですが、それでも分割前よりだいぶ東証の水準に近づきます。

株式分割は基本的には「好材料」

株式分割をしても、理論上は株価が変わらないことをお話ししました。しかし、株式分割をすると、株の流動性が高まるため、これまで投資したくてもできなかった投資家や、新たに投資したいと考える投資家が増えます。買いたい投資家が増えるということは、株価が上昇する期待ができる、ということですので、株式分割は基本的には「好材料」です。

ただし、株式分割すれば必ず株価が上がる、という保障はありません。業績や将来性がいまひとつの会社が株式分割をしたとしても、投資家は「買いやすくなったから買おう」とはなかなかならないでしょう。また、株式分割で株が買いやすくなるということは、同時に「株を売りやすくなる」ということでもあります。たとえば1株を2株に分割する株式分割が行われたとき、既存の株主は「株式分割で100株が200株に増えたから、とりあえず100株は売ろう」と考えるかもしれません。この場合、株価の上昇は期待できないでしょう。

したがって、株式分割があったからといって、安易に飛びつくのは危険です。むしろ、株式分割を行う会社が魅力ある会社なのか、これからも投資に値する会社なのか、きちんとチェックすることが大切です。

●任天堂（7974）の株価推移（2022年1月〜9月22日まで）

ヤフーファイナンスより

任天堂が株式分割を発表した2022年5月10日には、2022年3月期の決算が発表されました。任天堂の2022年3月期の決算は、前期比で売上高−3.6％、営業利益−7.5％の減収減益でした。また、2023年3月期の予想も減収減益となっています。しかし株価は5月10日以降、反転して上昇。以後も多少の上下はありますが、減収減益予想であっても株価は堅調です。
本稿執筆時（2022年9月14日）の少し前に発売された「スプラトゥーン3」も発売3日で345万本が売れて好調という報道もありました。直近の株価は上昇しています。

また、任天堂の財務面をみても、自己資本比率（会社の資本に占める返す必要のないお金（自己資本）の割合。一般的に50％以上あると優良とされる）は77.7％ですし、有利子負債（利息をつけて返さないといけない借金）もゼロ。安全性が高い会社といえます。

もちろん、これらの条件があるからといって、任天堂の株価が上がるという保証はありません（投資は自己責任でお願いします）。投資をする際には「好材料だから」と飛びつくのではなく、投資先をよく吟味することをおすすめします。

まとめ

任天堂の株式分割のニュースをもとに、株式分割の仕組みや考え方を紹介してきました。株式分割そのものは、株価の上下には直接影響を与えませんが、投資家が株を買いやすくなるために株価が上昇する要因になりえます。株式分割実施後の任天堂の株価がどうなるか、さらには他の会社の株式分割発表後・実施後の株価がどうなるか、ぜひ注目してみてくださいね。

＊本記事で紹介する個別の銘柄・企業名については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。購入する場合は自己責任でお願い致します。

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畠山憲一 Mocha編集長

1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。