22/09/17
円安・金利上昇で外貨預金の残高が大幅増…これから投資するのはアリ?
外国為替市場で円安が急速に進むなか、注目を集めているのが外貨に投資する外貨預金。実際、銀行では外貨定期預金の残高が急増しているそうです。でも、果たしてこのようなマーケット下で外貨預金や外貨建ての商品に投資しても大丈夫なのでしょうか。
止まらない円安…為替レートは24年ぶりの水準に
日本円と米国のドル(米ドル)の、ここ1年ほどの為替レートは、次のように変動しています。
●米ドル/円の為替レート(2021年9月1日〜2022年9月13日)
(株)Money&You作成
2021年9月時点でおおよそ1ドル=110円だった円相場は、2022年3月以降大きく円安に動きました。2022年9月には、約24年ぶりの水準となる1ドル=140円を突破しました。しかも、円安はそこでとどまりません。2022年9月7日には一気に1ドル=144円台をつけるほどに円安が進んでいるのです。
円安になる理由として大きいのは、日本と米国の金融政策の違いです。日本は景気回復を目指して金融緩和を行い、金利をとても低い状態にしています。それに対して米国は続くインフレを抑えるため金融引き締めを行い、金利を引き上げているのです。投資家は、金利の低い通貨より高い通貨を持っていた方が、たくさん金利がもらえます。そのため、米ドルを買う動きが加速し、為替レートが急激に円安に進んでいるというわけです。
外貨預金の残高が大幅増加
為替レートが円安に進む中、注目が集まっているのが外貨預金です。外貨預金は、米ドルやユーロなど、外国の通貨で行う預金です。このところ、外貨預金の残高が大幅に増加しています。
ソニー銀行「外貨預金の利用動向に関するお知らせ」によると、2022年3月以降、外貨預金の取引が急増。2022年6月の月間売買高は過去最高を更新したそうです。
●ソニー銀行の外貨売買高
ソニー銀行「外貨預金の利用動向に関するお知らせ」より
グラフを見ると、外貨の購入だけでなく売却も相応に増えていますが、これはおそらく為替レートがある程度円安に進んだところで利益を確定しようという動きがあったのでしょう。
また、日本経済新聞の記事「個人、外貨定期預金が大幅増 ソニー銀行は金利10倍超に」によると、ソニー銀行の外貨預金の2022年8月の新たな預入額が半年前の2月に比べて8割増加したとのこと。また、新生銀行でも2022年7月、未経験で外貨定期預金をスタートした人が2021年の月間平均の8倍に。8月の外貨定期預金残高も半年間で6割超増えていることを紹介しています。
日本円の金利は相変わらず低いままですが、米ドルの外貨預金金利は上昇しています。ソニー銀行の外貨定期預金の金利(6か月もの)は2022年2月末には0.15%でしたが、8月末には2%となっています。米ドルの外貨預金で、以前の13倍以上の金利がもらえるのですから、お得感は大きいですね。新生銀行の外貨定期預金(6か月もの)の金利も同様で0.3%から2.5%に上昇しています。
さらに、外貨預金では為替レートが預けたときより円安に進むことで為替差益も期待できます。
もしも2021年9月、為替レートが1ドル=110円のときに、1万ドルを外貨預金に預けていたら、預けた金額の合計は1ドル110円×1万ドル=110万円です(手数料や税金は考慮しません)。
為替レートが円安に動き、2022年9月、1ドル=140円になったときに円に戻したとすると、戻ってくるお金は(1ドル140円×1万ドル)=140万円に。為替レートが円安に進むことで、140万円-110万円=30万円の利益が得られたというわけです。
これから外貨預金をはじめてもいい?
仮に、2022年6月に1ドル=130円で1万ドルの外貨預金をしていたとしたら、2022年9月の1ドル=140円で円に戻しても10万円の利益が出た計算です。ある程度、円安の動きが見えてからでの投資でも利益が得られたことがわかります。しかし、これは後講釈。結果論でしかありません。
確かに、日米の金利差拡大はこれからも続き、円安に一層拍車がかかる可能性もあります。日銀は金融緩和を続ける姿勢を崩していませんし、金利も低いままです。
これから1ドル=150円、160円…さらに200円などと、円安がさらに進むならば、今から外貨預金をはじめても利益が得られるでしょう。
しかし、果たして本当にそうなるでしょうか。
行動経済学の考え方のひとつに、「平均への回帰性」があります。平均への回帰性とは、平均から大きくかけ離れた状態はやがて平均に戻るという考え方です。
上でもお話ししたとおり、今回の円安はすでに24年ぶりとなる水準です。平均から大きくかけ離れています。すでに為替レートは、極端な円安になっていると考えれば、やがて円高が来て、為替レートが平均的な水準に戻っていくことも考えられます。
つまり今から、1ドル=140円といった、これまでの平均からかけ離れた水準で外貨預金を始めてしまうと、円高になったときに大きく損をしてしまう可能性がある、というわけです。
外貨預金では、確かに日本の預金よりも高い金利がもらえますが、それよりも為替レートによる変動の影響が大きくなってしまいます。先ほどとは逆に、為替レートが1ドル=140円のときに1万ドルを外貨預金に預け、1ドル=110円の円高になったときに円に戻したとしたら、30万円の損失が生まれてしまいます。
ソニー銀行の外貨預金は、為替手数料(為替コスト)も15銭(米ドルの場合)と、一般的な銀行よりも安くなっています。さらに、Visaデビット付きキャッシュカード「Sony Bank WALLET」を利用すれば、Visaのデビットカードとして世界200以上の国・地域で買い物ができますし、キャッシュカードとして海外のATMでお金を引き出せます。とても便利なのは事実です。
しかし、そうしたメリットがあったとしても、為替レートが円高に進むリスクはあると考えます。為替レートの変動によって金利以上に損をする可能性があることは、押さえておいた方がいいでしょう。
また、外貨建ての商品という面では、保険料を外貨で運用する「外貨建て保険」もおすすめしません。外貨建て保険でも、金利の恩恵は受けられますし、為替レートが円安になれば為替差益も発生します。しかし、外貨建て保険は保険料に占める販売手数料や解約時の解約控除などの割合が大きいため、たとえ為替レートが多少円安に進んだとしても元本割れする可能性があります。外貨預金以上におすすめできない商品です。
「外貨」の必要性は薄いが「海外資産」は大切
外貨預金や外貨建て保険はおすすめしないのですが、一方で海外資産を持つことは、資産形成のうえで大切です。海外の国々のなかには、日本よりも大きく成長する国や地域があります。海外資産を持てば、そうした成長の恩恵が受けられるからです。また、投資先の国や資産を分散しておけば、そのうちのどれかが値下がりしても、他の値上がりでカバーしながら、堅実にお金を増やすことが見込めます。
たとえば米国の株式や、米国・先進国・全世界の資産に投資する投資信託などにコツコツと積立投資をしておけば、円安が進めば円に戻したときの金額が増えますし、円高が進めば資産が安く買えるので、平均購入単価を下げる効果(ドルコスト平均法)が期待できます。平均購入単価が下がれば、その後の値上がりで利益を出しやすくなります。
何より、円安・円高関係なく、海外の高い成長の力を借りることができます。
もちろん、将来のことはわかりませんし、さらに円安が進む可能性もあります。しかし同様に、米国の金融引き締めがいつまで続くかもわかりませんし、日米の金利差が縮小する可能性も十分にあります。
安易に外貨預金などに手を出すと、資産が目減りするリスクがあることを踏まえて、海外資産に投資するという目線で資産形成に取り組むことをおすすめします。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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