22/05/11
年金制度がなかったら…用意すべきお金は「2億円」の恐怖
日本には老後に年金をもらえる公的年金制度があり、現役世代は国民年金保険料や厚生年金保険料を負担する義務があります。少子高齢化が進む中、若い世代が高齢者の生活を支える仕組みは不公平と感じている人も多いかもしれません。しかし、もし年金制度がなかったら、大変な状況になるかもしれないことを知っておきましょう。今回は、年金制度がなかったらどんな状態になるのかを検証し、年金制度のメリットを説明します。
年金なしで自分や家族の老後を支えられる?
もし年金制度がなかったら、国民年金保険料や厚生年金保険料を払わなくてすむので、給料の手取りは増えます。会社員の厚生年金保険料の自己負担分は9.15%(2022年4月時点)なので、自分で使えるお金が1割程度増えるかもしれません。その代わり、老後にかかる生活資金は、個人ですべて用意する必要があります。
まず、親の老後の生活資金の問題があります。高齢で働けなくなった親の生活は、子供が支えなければならないことが多いでしょう。たとえば、親が65歳で引退した後100歳まで生きたならば、35年間勤労収入がない状態です。その間の生活費を子供が負担しなければならない可能性が出てきます。
総務省がまとめた「2020年(令和2年)家計調査年報(家計収支編)」によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の消費支出の平均は22万4,390円。35年間で約9,400万円と、1億円近い金額になります。人によっては、親以外の親戚の面倒も見なければならないかもしれません。兄弟姉妹がいれば、お金を出し合うこともできるでしょう。しかし、一人っ子なら莫大な負担になってしまいます。
自分の老後の生活費も、子供がいれば子供に頼れるかもしれません。しかし、子供のいない夫婦や独身の人は負担が大きくなるでしょう。長生きできるのはありがたいですが、長生きするほどお金の面ではリスクになってしまうのです。親と自分の老後をダブルで支えようとすると、2億円くらい用意しておかなければ安心できないのではないでしょうか?
年金制度は社会全体で支え合う仕組み
高齢者の生活を社会全体で支える仕組みが公的年金制度です。公的年金制度は、現役世代の払う保険料と税金を組み合わせて運営されています。そもそも人の寿命はわからないので、老後にお金どれだけ必要かも予測できません。また、長い人生の間には、経済状況が大きく変わる可能性もあります。年金制度があるおかげで、こうした予測できないリスクに対処できるのです。
年金制度がなかったら、老後に生活できなくなった人は、最終的に生活保護に頼らざるを得ないでしょう。生活保護の財源は我々の支払う税金です。もし財源が足りなくなれば、結局は増税により現役世代の負担が増加します。やはり年金制度があった方がよいでしょう。
公的年金は損な制度ではない
年金制度がない方がいいと考える人は、年金は払った分の元が取れないと考えているのかもしれません。公的年金は本当に損する制度なのでしょうか?
上に書いたとおり、厚生年金保険料の自己負担割合は9.15%。月収(標準報酬月額)30万円なら、厚生年金保険料は月2万7,450円です。仮にこの金額を40年間払うとすると、合計1,317万6,000円の支払いになります。令和4年時点で、平均標準報酬月額30万円の人が受け取れる老齢基礎年金・老齢厚生年金の合計は約157万円。8~9年年金をもらえば元が取れる計算です。
公的年金は社会全体で支え合う仕組みです。つまり、年金は貯蓄ではなく保険ですから、損得だけで考えない方がいいでしょう。老齢年金は一生涯受け取れるので、長生きリスクに対する大きな備えになります。さらに、公的年金には障害年金や遺族年金もあるので、同じ保険料で障害や死亡のリスクにも備えられます。かなり条件の良い保険と考えられます。
さらに、公的年金はインフレになると支給額が増加する仕組みになっています。民間の保険にはこのような仕組みはありません。インフレリスクに対処できる点でも、公的年金は有利です。公的年金を最大限活用して、将来のリスクに備えることを考えましょう。
まとめ
老後の生活を自助努力で支えるのは大変です。公的年金制度は、予測不可能な将来のリスクに対して、国が用意してくれている保険。きちんと保険料を納めていれば、将来の安心につながります。老後の生活設計についても、公的年金を柱に考えるようにしましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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