21/07/01
国民年金保険料は上がり、年金受給額は下がる現実…それでも保険料は支払うべきなのか
老後資金の大きな支えとなる国民年金。その財源の一部となるのが60歳未満の現役世代が支払う国民年金保険料です。自営業者やフリーランスなど自ら保険料を納めている国民年金の第1号被保険者では、毎年保険料が少しずつ高くなっていることに気付いている人もいるでしょう。
そこで今回は、国民年金保険料と受給額の推移をご紹介。そのうえで、国民年金保険料を支払うべき理由と、公的年金以外のおすすめの資産形成制度についても触れていきます。国民年金の現状を理解したうえで、老後の資産づくりを万全なものにしましょう。
国民年金の保険料と受給額の推移
国民年金の保険料と受給額は毎年見直されます。以下のグラフは過去2004年度から2021年度の国民年金保険料と老齢基礎年金の受給額の推移をまとめたものです。
●国民年金保険料と老齢基礎年金受給額の推移
日本年金機構「国民年金保険料の変遷」、厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」より筆者作成
国民年金保険料は年々増加傾向なのに対して、受給額は徐々に減少していることがわかります。この理由としては少子高齢化に伴う現役世代の人口減少と高齢者の増加が挙げられます。
国民年金の被保険者(保険料を支払う人)と公的年金の受給者の推移は、次のようになっています。
●国民年金被保険者と公的年金受給者の推移
※千人以下四捨五入
厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」より筆者作成
2000年度は国民年金の被保険者数が公的年金受給者数の2倍程度いるのに対して、2018年度は被保険者数が公的年金受給者数の1.4倍程度まで減少しています。
国民年金の財源には保険料収入のほかに、国庫負担と積立金があります。そのため上記の数字がダイレクトに反映されるわけではありませんが、被保険者数の減少および公的年金受給者数の増加が保険料と受給額の推移に影響していることは確かです。
それでも国民年金保険料を支払うべき3つの理由
徐々に受給額が減少している国民年金。とくに自ら保険料を納めている第1号被保険者の人は、「今の状況で国民年金保険料を支払っても損をするのでは?」と考える人もいるのではないでしょうか。
しかし、そんなことはありません。国民年金保険料は、以下の3つの理由から支払うべきでしょう。国民年金保険料を支払わないことで不利益を被らないよう、しっかりチェックしておきましょう。
●保険料を支払うべき理由1:約10年間受給すると保険料のもとが取れる
国民年金の老齢年金は65歳以降、生涯もらい続けることができる年金です。そのため、どこかのタイミングで受給額総額がこれまでに支払った保険料総額を超えます。
仮に国民年金保険料を40年間支払った自営業者が、65歳から老齢基礎年金を満額受給した場合、何年間で保険料のもとが取れるのでしょうか。国民年金保険料と老齢基礎年金(満額)を2021年度の金額で計算してみましょう。
① 国民年金保険料の総額
=国民年金保険料(年額)19万9320万円×40年間
=797万2800円
② 国民年金保険料のもとが取れる年数
国民年金保険料の総額(①)÷ 老齢基礎年金(満額)
=797万2800円÷78万900円
=約10.2年
上記のとおり、約10年で保険料のもとが取れるという結果が出ました。国民年金保険料と老齢基礎年金(満額)は毎年見直されるのであくまで目安ですが、上記のケースではおよそ75歳まで生きると支払った保険料のもとが取れることになります。
日本人の平均寿命が男性は81.41歳、女性で87.45歳ということを考えると、国民年金保険料のもとを取ることはそれほど難しくないと考える人も多いのではないでしょうか。
保険料を滞納すると満額受給できなくなり、将来もらえる年金額が減ってしまうため、老後資金を減らさないためには保険料を支払い続ける必要があります。
●保険料を支払うべき理由2:障害年金や遺族年金がもらえなくなる
国民年金保険料を支払わないと、障害年金や遺族年金がもらえなくなる可能性もあります。国民年金には多くの人がご存知の老齢年金のほかに、一定の障害の状態に陥った際に受給できる障害年金と、加入者が亡くなった場合に家族が受給できる遺族年金があります。
それぞれの概要と保険料の納付要件を下表にまとめました。
●国民年金で受け取れる基礎年金の概要と保険料の納付要件
日本年金機構「年金の受給」より筆者作成
上記のとおり保険料の納付状況によっては障害年金や遺族年金が受け取れなくなる場合があります。万が一に備えるという意味でも、国民年金保険料は漏れなく支払い続けることが必要です。
●保険料を支払うべき理由3:未納期間が長いと財産が差押えられるケースも
国民年金の被保険者にとって保険料の納付は義務です。国民年金保険料の未納がある場合、まずハガキや電話などで納付勧奨が実施されます。
それでもなお保険料の納付がない場合は最終催告状が送付され、さらにその指定期限までに保険料の納付がない場合は最終的に督促状が届きます。督促状が届くと裁判所から財産を差し押さえられるので注意が必要です。
保険料の支払いが苦しい場合は、免除制度・納付猶予制度の利用が有効です。免除・猶予の期間分は年金受給額が減額されますが、国民年金の受給資格期間には参入されます。また免除や納付猶予が承認された期間の保険料は、10年以内なら追納できます。これによって減額された年金受給額を増やすことも可能です。
その他の資産形成制度も活用して老後資金を増やそう
国民年金保険料と受給額の推移や少子高齢化社会がさらに進むという状況を考えると、今後も老齢基礎年金額の増加はあまり見込めないと考えてよいでしょう。
老後2000万円問題とも言われるように、公的年金だけでは多くのご家庭で老後資金が不足することが予想されています。老後資金を増やすためには、早い段階から資産運用をおこなうことが有効です。以下2つの資産形成制度は税制面などのメリットがあるため、積極的に活用することをおすすめします。
●おすすめの資産形成制度1:iDeCo
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は60歳以降に受け取り可能な私的年金制度です。国民年金の被保険者であれば基本的に加入できるため、老後の資産づくりの方法として幅広く利用されています。
iDeCoの最低掛金額は月額5000円。上限額は国民年金の種類や、勤務先の企業年金の有無によってそれぞれ定められています。公的年金と異なり自ら金融商品を選んで運用するので、元本割れリスクがある反面、高い利益が得られる可能性もあります。
iDeCoの最大のメリットは年間の掛金が全額所得控除の対象となることです。所得控除とは1年間の所得(収入ー必要経費)から一定の金額を差し引く制度で、所得税や住民税を抑える効果があります。運用期間中の利益は非課税、受取時の税制優遇(退職所得控除または公的年金等控除)もあるので、会社に退職金制度がない人にもおすすめです。
ただし原則60歳まで資金は引き出せないため、老後まで使わなくてよい資金で運用しましょう。
●おすすめの資産形成制度2:つみたてNISA
つみたてNISAは国が支援する少額投資非課税制度です。「長期・積立・分散投資」の支援を目的としており、年間40万円までの投資金額に対してそこから得られる利益(分配金や売却益)が非課税となります。
つみたてNISAの対象商品は長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託に限定されています。運用期間中のコストも安いものばかりなので、投資初心者でも安心です。積立金額は証券会社によって異なりますが、iDeCoより少額から積立できるところも多く、楽天証券やSBI証券などでは100円から積立可能です。
また、好きなタイミングで売却して現金化できる点もつみたてNISAのメリットです。老後資金を運用しつつも、住宅購入や教育費などいざという時に引き出す可能性がある資金での運用に向いています。
まとめ
少子高齢化の影響で国民年金保険料は徐々に増え、年金受給額は減少傾向にあります。しかし国民年金保険料には納付義務があり、支払わないことでさまざまなデメリットが生じます。
国民年金保険料をしっかり納めたうえで、iDeCoやつみたてNISAなどの資産形成制度を活用してかしこく老後資金を増やしましょう。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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