21/06/28
払わなくても、払ったことになる年金保険料があるって本当?
国民年金や厚生年金にはそれぞれ、老齢年金・障害年金・遺族年金があります。これらの年金が支払われるためには、原則として毎月きちんと年金保険料を支払う必要があります。しかし、これらの年金保険料、払わなくても払ったことになる場合があることをご存知でしょうか。詳しく紹介します。
国民年金保険料を払わなくても、払ったことになる制度
2021年度の国民年金保険料は、1万6610円です。20歳以上60歳未満の国民であれば、誰もが支払う義務がありますが、さまざまな事情により、支払うのが難しい場合があります。そんなときは申請すれば、免除または猶予してもらうことができます。具体的には、次のとおりです。
●保険料免除制度
本人・世帯主・配偶者などの前年もしくは前々年所得が一定以下の場合に受けられるのが、保険料免除制度です。申請書を提出し承認されることで、保険料が免除されます。国民年金保険料の免除される額は、全額・4分の3・半額・4分の1の4種類があります。ただし、免除になった場合、将来受け取れる年金額は、保険料を全額納付した場合に比べて減額されます。
国民年金保険料が免除される所得基準は以下のとおりです。
・年金保険料免除の所得基準と、受け取れる年金額
日本年金機構HPより筆者作成
なお、表の中に記載の「扶養親族等控除額」「社会保険料控除額等」は、会社で年末調整したあとに受け取る源泉徴収票で確認できます。
●保険料納付猶予制度
20歳から50歳未満で、本人・配偶者の前年所得または前々年の所得が一定額以下の場合、保険料が猶予されます。
免除の場合、保険料は支払わなくても良いですが、猶予の場合は保険料の払い込み期限を先送りするだけです。免除と猶予は違いますので、違いについて認識しておきましょう。国民年金保険料が猶予される所得基準は、先述の「全額免除」と同じです。
●失業等による特例免除
もし、失業してしまったときは、国民年金保険料が免除となったり、猶予となったりする場合があります。申請書を提出する際は、雇用保険の被保険者だった方であれば、雇用保険受給資格者証の写し、雇用保険被保険者離職票等の写しの添付が必要です。また、事業主で廃業・休止をされた方であれば、厚生労働省や法務局、税務署などの行政機関へ届出をした際の写し・控え・証明書の添付が必要になります。
●学生納付特例制度
卒業までの期間が1年以上の学生で、本人の所得が【128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等】で計算した額よりも少ない場合、在学中の保険料が猶予されます。学生納付特例制度の対象者には、大学や大学院、高等学校の他、夜間・定時制課程や通信課程も含まれるため、多くの学生が対象となります。
●産前産後期間の免除制度
2019年4月から、国民年金保険を支払う義務のある妊婦の方は、出産の予定日または出産日が属する月の前月から4ヶ月間の保険料が免除されます。また、多胎妊娠の方であれば、出産の予定日または出産日が属する月の前月から6ヶ月間の保険料が免除されます。産前産後期間の免除は、保険料を納付したものとして扱うため、年金額が減りません。
出産予定日の6ヶ月前から申請書を提出できますが、出産後であっても届出が可能です。申請書を提出する際は、母子健康手帳の出産予定日が確認できるページの写しなどが必要です。なお、すでに、他の免除、猶予制度を申請し承認を受けている場合でも、届出は可能です。
●新型コロナウイルス感染症の影響による臨時特例免除
2020年5月1日から、新型コロナウイルス感染症の影響で国民年金保険料の納付が困難な場合、臨時特例免除申請ができるようになりました。2020年2月分以降の保険料が対象となります。免除や猶予の申請ができる方は、
①2020年2月以降に新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少したこと
②2020年2月以降の年間所得の見込みが、上で紹介した「年金保険料免除の所得基準)の基準に該当することが見込まれること
①と②の両方を満たすことが必要です。
厚生年金保険を払わなくても、払ったことになる制度
厚生年金保険料は、被保険者の所得に応じて計算された「標準報酬月額」をもとに決定します。この厚生年金保険料は、給料から自動天引きされるものなので、国民年金保険料のような免除、猶予の申請制度はありません。しかし、病気やケガはいつ起こるかわかりません。そのような万が一を保障する制度を紹介します。
●障害年金や遺族年金の300ヶ月分みなし特例
厚生年金保険の被保険者にもしものことがあって、所定の障害を負ったり亡くなったりした場合、たとえ厚生年金保険の加入期間が1ヶ月であっても、被保険者の加入期間が25年間(300ヶ月)あったとみなして、障害厚生年金や遺族厚生年金を計算します。
厚生年金保険から支払われる金額は、標準報酬月額と厚生年金の加入月をベースに計算されます。しかし、加入月が少ないと、実際に支給される年金額はわずかばかりということになりかねません。そうなると、被保険者や被保険者の家族を支えるための保障として機能しないことになってしまいます。このみなし特例は、それを防止するための措置となっています。
老齢基礎年金を満額受け取るには追納を
国民年金保険料の免除期間は、老齢年金を受け取る要件である「受給資格期間」にカウントされます。そして、実際に受け取る年金額は免除の割合に応じ反映され、減額されたもので支払われます。一方、猶予期間は「受給資格期間」にカウントされますが、年金額猶予期間分は、年金額には反映されません。
実際に、国民年金保険料を20~60歳までの40年間(480ヶ月)納めた場合、65歳から支給される老齢基礎年金の額は年額78万900円(月額6万5075円・2021年度)です。しかし、その間、年金保険料の猶予や免除、未納などがあり、国民年金保険料の納付期間が少ないと、年金が減額されてしまいます。
例えば、40年間支払うところ38年間だけ支払い、2年間を猶予のまま追納しなかった場合での年金額は、78万900円×38年÷40年=74万1855円となります。満額の年金額と比較すると、年額にして約4万円少なくなります。仮に65歳~95歳まで30年、少ないままの老齢基礎年金を受け取ったのであれば、4万円×30年間=120万円が差となります。
もし、65歳以上になった時に、満額の老齢基礎年金を受け取りたいと考えるのであれば、免除や猶予されていた期間の国民年金保険料を追納するとよいでしょう。
追納ができる期間は、免除や猶予の承認を受けた年度の翌年度から数えて10年以内です。しかし、10年以内という期間ではありますが、2年を経過した時から国民年金保険の支払いが遅れたペナルティの加算額が付くので注意しましょう。とはいえ、この加算金はそれほど大きな金額ではないので、過度な心配は不要です。
国民年金保険料の追納方法は、お住まいの住所を管轄する年金事務所で追納を申請するだけです。また、年金の猶予、免除を申請された方は、国民年金保険料がうっかり未納になっていないかを「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などで確認しておきましょう。
まとめ
国民年金保険料が払えないなど切羽詰まっても放置せず、免除や猶予制度を活用しましょう。その後、資金的な余裕が出来たら10年以内に追納をしましょう。そうすることで、将来受け取る老齢基礎年金を増やすことができます。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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