22/05/07
年金「繰下げ受給」7つの勘違い
老後資金の柱、公的年金は終身受け取れる心強い制度です。公的年金はもらえる金額が少ないのでは、と心配な人も少なくありませんが、金額を増やすためには受け取る時期を後ろ倒しする繰下げ受給が効果的。繰下げ受給では、繰下げ1カ月につき0.7%増額になります。働いて収入を得ているなど、老後の生活資金が確保できるなら、繰下げ受給は積極的に利用したい制度です。
ただ、繰下げ受給に関する勘違いには要注意。繰下げ受給をしっかり利用するためにも、よくある7つの勘違いをチェックしておきましょう。
年金「繰下げ受給」の勘違い1:誰もが75歳まで年金を繰り下げられる
老齢年金は基本的に65歳から受け取れる制度です。ただし、老齢年金を実際に受け取る時期は選ぶことが可能。早めたい場合は最大60歳からですが、1カ月繰り上げるごとに0.4%減額されます。これを繰上げ受給といいます。
逆に、受取り時期を遅らせる繰下げ受給は、1カ月繰下げるごとに0.7%増額され、金額は一生涯変わらないのがメリットです。繰下げ受給ができる年齢は、従来70歳まででしたが、2022年4月1日からは「75歳まで」になりました。75歳まで年金を繰上げ受給すれば、なんと84%増額です。
繰上げ受給でも繰下げ受給でも、受け取りを開始したら、その減額(増額)された金額は一生涯変わりません。それならば、なるべく繰下げ受給をしたいですよね。
ではさっそく繰下げ受給を、と思っても、75歳まで繰下げられるのは2022年4月1日以降に70歳になる人のみ。それ以前に70歳になった方は、75歳まで繰下げ受給することはできません。誰でも75歳まで繰下げ受給できるわけではないので注意してください。
年金「繰下げ受給」の勘違い2:特別支給の老齢厚生年金も繰下げられる
繰下げ受給で繰下げられる年金は、国民年金(基礎年金)と厚生年金です。
条件を満たす方が60代前半で受けとれる「特別支給の老齢厚生年金」は繰下げられないので要注意です。特別支給の老齢厚生年金を受け取れる人は、しっかり受け取っておきましょう。特別支給の老齢厚生年金は、5年以上受け取らないと、時効によりもらえなくなってしまいます。
年金「繰下げ受給」の勘違い3:夫が年金を繰下げ受給すれば、妻の遺族年金も増える
夫に扶養されている妻が、夫の死後受け取れるのが遺族年金です。
遺族年金は夫の年金額をもとに計算されるので、夫が繰下げ受給をして年金額を増やせば妻が受け取る遺族年金が増えると考えるかもしれませんが、そうではありません。
遺族厚生年金は、夫が65歳の時の年金額をもとに計算されるので、夫が繰下げ受給して増額していても、遺族年金にはその恩恵は及びません。
長生きにそなえて、資金計画は万全にしておきましょう。
年金「繰下げ受給」の勘違い4:年金を繰下げ受給すると手取りが0.7%アップする
繰下げ受給するともらえる年金額が1カ月ごとに0.7%増額されますが、それは額面金額のこと。そこから所得税や社会保険料が差し引かれて振り込まれるのは、会社員の給与と同様です。額面金額が増えれば、税金や社会保険料も増えます。また、収入金額によって医療費や介護費の自己負担額が変わる場合もあります。繰下げ受給したからといって、単純に1カ月ごとに0.7%収入アップ、というわけでないことにも要注意です。
しかし、繰下げて増額した金額は一生涯変わりません。貯蓄のように「使えばなくなるお金」ではなく、継続して受け取れる金額が増えるのは、やはり大きなメリットではないでしょうか。
年金「繰下げ受給」の勘違い5:年金の繰下げ期間をあらかじめ決めなければならない
年金の繰下げ受給をする場合は、あらかじめ「○歳まで繰り下げます」、といった申請をしなくても大丈夫です。65歳の誕生日の3か月ほど前に年金事務所から届く「年金請求書」を提出しないでおけば、繰下げを選択したことになります。とりあえず繰下げ状態にしておき、必要になったら受給の申請をすれば大丈夫です。
年金「繰下げ受給」の勘違い6:年金を繰下げ受給して、まとまった資金が必要になったら困る
繰下げをしている間にまとまった資金が急に必要になる可能性も考えられます。65歳から受け取って、その分貯蓄しておけばよかった、と思うこともあるかもしれませんね。
そんな時には、65歳以降受け取れていたはずの年金額を最長5年分一括で受け取り、以降は増額なしの金額で受け取ることも可能です。この場合は、繰下げにはなりません。
つまり、65歳以降の年金の受取り方には2種類あるということです。
ひとつは、繰下げで増額する方法。もうひとつは、65歳にさかのぼって受け取る方法です。
状況に応じて選べるので、助かりますね。
年金「繰下げ受給」の勘違い7:年金の繰下げ中に亡くなったら損
繰下げ受給は年金額が増額され一生涯変わりませんので、長生きに備えられます。
一方、繰下げ中に亡くなったら老齢年金は受け取れずじまい。これは繰下げ損なのでしょうか。
もし、繰下げ中に亡くなったら、65歳以上に受取れたはずの未支給年金は、生計を同じくしていた親族が受け取ることができます。
これを損ととるかどうか、考え方はわかれるかもしれませんね。年金は自分が受け取れるわけではありませんのでやはり損かもしれませんが、遺族にのこすことができたと考えれば損ではないでしょう。
とはいえ、遺族からの申請は必要です。年金を繰下げていることは伝えておくと安心です。
まとめ
年金は、繰り下げると月数に応じて増額になるメリットがあります。繰下げ受給にありがちな勘違いに注意して、老後のくらしの資金計画を立てていきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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