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22/04/23

相続・税金・年金

厚生年金に定年後も加入して働くと、年金はいくら増えるのか

厚生年金に定年後も加入して働くと、年金はいくら増えるのか

50代後半を迎えると、そろそろ60代以降の年金の受給を意識しはじめる方も多いのではないでしょうか。最近では、新聞やニュース等で「定年延長」が話題になっており、60代になっても会社勤めを続けるケースも当たり前になってきました。

実は「厚生年金に60歳以降も加入して働くことで、将来受け取る年金を増やせる」というメリットもあるのです。また、2022年4月より、厚生年金の「在職定時改定」という制度もスタートしました。今回は、これらによって実際に年金支給額がいくら増えるのか解説します。

定年後も働けばそれだけ将来もらえる年金は増える

会社員や公務員の方は、年金は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2階建てになることはご存知だと思います。ここで押さえておきたいポイントは、厚生年金保険料という1種類の保険料を負担することで、この2つの年金が増える可能性があるということです。

1階建て部分の老齢基礎年金は40年間(480ヵ月)の加入で満額となりますから、定年時に既に480ヵ月加入している人は、定年後も働いたとしても老齢基礎年金は増えません。
一方、2階建て部分にあたる老齢厚生年金は満70歳まで加入が可能です。そして、厚生年金保険料を支払うと、それに見合っただけ将来もらえる年金の額が増加する仕組みになっています。

以上をまとめると、次のようになります。

●定年後も働くと年金が増える仕組み

①老齢基礎年金(1階建て部分)
・20~60歳の480ヵ月間納めると、老齢基礎年金額は満額約78万円
・加入期間のカウントは480ヵ月が上限。

②老齢厚生年金(2階建て部分)
・保険料の払込みは70歳まで可能
・60歳以降の収入(就労)に応じて年金を増やせる

定年後に働いた場合、年金がいくら増えるか

●老齢基礎年金はいくら増えるのか

定年後も働き続けた場合、老齢基礎年金は既に述べたように、未納がなければ受け取り額は変わりません。

老齢基礎年金の保険料は、20歳から60歳までの40年間の支払いが義務付けられています。
40年間、つまり480ヵ月払い続けると、満額となって年間77万7800円(2022年度)もらうことができます。そして老齢基礎年金は480ヵ月を超えて払うことができません。つまり年間約78万円がもらえる上限ということです。

しかし、学生時代に国民年金の保険料を払えなかった期間や、社会人になってから失業して払えなくなって免除してもらった期間がある場合は、60歳以降でも未納の部分を穴埋めすることにより増やすことが可能です。

仮に2年間の保険料が未納で、会社員として38年勤続した場合は、60歳以降働くことで、2年分の穴埋めができます。
未納分を穴埋めしなかった場合、65歳になってから減額される老齢基礎年金の額は、77万7800円(年)÷40年×2年分=3万8890円。2年間の未納があると、もらえる老齢基礎年金は年間で約4万円少なくなってしまうのです。

●老齢厚生年金はいくら増えるのか

また、多くの会社では再雇用しても65歳までですが、厚生労働省は70歳までの雇用を「努力義務」としています。いずれは70歳まで働くことが普通になるでしょう。

すでに厚生年金の保険料の払込みは70歳まで可能となっています。そのため、60歳以降も働いて保険料を払うと標準報酬月額と働いた期間に応じて年金を増やすことができます。
老齢厚生年金は次の式で算出されます。

[老齢厚生年金の額]
老齢厚生年金=A+B
A=平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入月数
B=平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数
(1円未満は四捨五入)

では、70歳まで10年間働いた場合で、老齢厚生年金がいくら増えるのかを計算します。

[70歳まで10年間働いた場合]
標準報酬月額が20万円として、60歳から70歳までの10年間働いたとすると
20万円×5.481/1000×120ヵ月=13万1544円

つまり、標準報酬月額が20万円の人が60歳で定年になってから70歳まで働いた場合、働かなかった場合と比べて70歳以降にもらう年金額は、約13万円も増えることになります。

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65歳~70歳までの年金は、毎年少しずつ年金が増えるように

また、65歳以降年金をもらいながら働いた場合でも、70歳までに受け取る年金についてきちんと増額される仕組みになっています。これは、2022年4月よりスタートした厚生年金の「在職定時改定」という制度が関係しています。

●年金制度改正法によって導入された在職定時改定

在職定時改定は、65歳以上で在職中の厚生年金被保険者に関わる制度です。現在、老齢厚生年金は、原則65歳から受給できることになっていますが、一方で、厚生年金そのものは在職中などで要件を満たしていれば、原則70歳まで制度に加入することができます。つまり65歳~70歳の間は、老齢厚生年金を受け取りながら、厚生年金保険料を支払うというケースがおこりえることになります。

こういった方が受け取る年金額について、「退職時ではなく在職中に定期的に再計算することで、支払った保険料分をすぐに反映してあげましょう」というのが、この「在職定時改定」になります。具体的には、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者の年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料を年金額に反映する仕組みになっています。

・「在職定時改定」の仕組み(法改正後)

厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」より

具体的な改定の時期、支給の時期は以下の通りです。

[毎年1回の改定時期]
9月1日の時点で厚生年金の被保険者である場合、前月である8月までの加入実績に応じて10月から年金額が改定
[支給の時期]
改定された10月分の年金額は12月以降に支払われる

●法律改正前と法改正による在職定時改定導入後の違いは?

法改正前の制度では、厚生年金の保険料を毎月納めていても、65歳以上の社員の年金額がすぐに増額されるわけではありませんでした。65歳以降になると、厚生年金の加入実績を含めて年金額が再計算され増額されるのは、原則として1回だけで、その方が「厚生年金を辞めた時」または「70歳になった時」のいずれかの時点と決められていたためです。このように退職時等の資格喪失により、年金が改定される制度を「退職時改定」と呼んでいました。

・「退職時改定」の仕組み(法改正前)

厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」より

在職定時改定の制度が導入された背景として、高年齢者雇用安定法の施行などにより、企業で70歳までの継続雇用が努力義務となったことから、「退職する前から年金額改定が必要」という議論が高まったことがあげられます。

これまでの法律では、65歳以降も働いても、その効果が年金の受取額として表れるのは退職時まで待たなければならなかったため、就業意欲が低下してしまうのではないかという懸念が以前から議論されていました。今回の在職定時改定の導入によって、退職を待たずに早期に改定分の年金額に反映されるため、年金を受給しながら働く高齢者の経済基盤の充実が期待できそうです。

在職定時改定の導入で具体的にどの程度年金額が増えるのか

では、在職定時改定の導入によって、年金の支給額は具体的にいくら増加するのでしょうか。

【在職定時改定の増額効果】
●月額20万円で1年間就労した場合
毎月:約1100円増額
年間:約1万3000円増額

例えば、65歳~70歳までの5年間、標準報酬月額20万円で仕事をした場合、以下の図のように1年ごとに年金額が見直しされ、毎年1万3000円ずつ年金額が増えることになります。

・在職定時改定の増額分のイメージ

厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」より筆者作成

在職定時改定による増額分(赤い部分)は(13000×1)+(13000×2)+(13000×3) +(13000×4)=約130,000円※となります。この部分が法改正前は全くもらえなかったわけなのでこの差はとても大きいですね。

※年金額の正確な算定には、平均標準報酬額・乗率・再評価率などが必要となりますので、あくまでも参考値となります。

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まとめ

65歳までの「継続勤務時代」から、「70歳定年時代」へと時代の潮流が移り変わりつつあるなかで、定年後も働くといくら年金がふえるのか気になる方も多いのではないでしょうか。年金制度改定というとネガティブな印象を抱きがちですが、今回の改正は高齢者がより働きやすくなる法改正。年金受給者にとってとてもありがたい改正となりました。

このほかにも、少子高齢化や労働人口の減少から、高齢者の雇用機会を作り、長く活躍してもらう制度については国や企業がさまざまな検討をしています。年金を取り巻く状況と老齢厚生年金のルールについては今後も動向を注視していきましょう。

KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士

長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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